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第一話 いざ、ダンジョンへ
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ダンジョンの門には古代文字が刻まれていた。アイーシャに読むことはできないが、アストラダンジョンにあるものと同じだろう。
このダンジョンを征服せし者は神の前に立つであろう。
アストラダンジョンで言えば、最下層は十三階層と考えられている。過去には十三階層に到達し隅から隅まで探索したパーティもあったそうだが、神とやらに出会った冒険者はいない。他のダンジョンでも同様で、最下層まで到達しても何か特別なことが起きたという事はないらしい。
ダンジョンに刻まれたこの言葉が真実なら、未だに本当の意味でダンジョンを征服したものはいないという事になる。刻まれた言葉は一種の警句や暗号とも言われているが、その真実は分かっていない。
だが今のアイーシャに必要なのは、神への接見ではない。財宝だ。エルデンとの約束もあるし、なるべく早く片付けて帰らなければいけない。
「魔物は……いないみたいね」
魔法カナリアは薄い黄色のままだが、目に見える危険はないようだった。罠がある可能性はあるが、普通ダンジョンの地上階から罠が仕掛けられていることはない。魔物がいないのならひとまず安全だろう。
門をくぐり出たのは広間のような部屋だった。壁には一面に緻密な石の彫刻があり、天井にも絵巻物のような模様が彫られている。考古学的な価値があるのかも知れないが、これについてもアイーシャにはその価値が分からなかった。しかしダンジョンの中では時間や空間が狂っているらしく、単にまったく意味のない、それっぽい模様と言うだけの場合もある。
いずれにせよ金になるものではない。アイーシャはこの部屋に金目のものがないことを確認し、別の部屋に進むことにした。
通路は三つあった。正面と、右と左。計三つだ。正面の通路が一番大きく、入り口にも一際豪奢な装飾が施されているように見える。
普通に考えれば正面に何かありそうだ。だがダンジョンではその普通の常識というものがあまり意味を持たない。一番地味なところに価値のあるものが隠されていることもある。
「考えるだけ無駄ね……どうせ見つかるまで探すんだし」
そう考え、アイーシャはまずは正面の通路から探すことにした。魔法カナリアは黄色のまま正面の通路を先行していく。
もう照明は必要なかったが、一応メイスからは破邪の光を発し続けている。その力に反応してか、時折空中から紙の燃えるような音が聞こえる。破邪の光に何かが触れて焼き切れるような音だ。
目には見えないが、何か死霊のような物がいるのかも知れない。魔法カナリアの黄色の警告色もそのせいかも知れなかった。
油断しないように周囲を警戒し、アイーシャは通路を進んでいく。
やがて次の部屋に辿り着くと、そこは先ほどの広間よりもいくらか狭い部屋だった。しかし壁や床、天井の装飾には金が使われているらしく、朽ちることの無い黄金色の光で部屋中が綺羅びやかに照らされていた。
そして部屋の中央には大きな石の箱が据えられている。それは宝箱と言うより石棺のようだったが、周りの壁とは違い何の装飾もなかった。
「これ、金……なのかな?」
アイーシャは壁に近寄りメイスの柄で金色のタイルを叩く。すると簡単に剥がれ、落ちた金色のタイルはずっしりと重かった。続けてタイルを叩いていくが、面白いようにパラパラと落ちて、片手では持てないほどになった。
「本物かどうか怪しいけど、もし本物なら億万長者ね……」
攻略初期のダンジョンでは建物自体の装飾に、金銀の細工や宝石が用いられていることが多い。その為魔物と戦って深層に潜るより、壁や柱を剥ぐ方が金を稼げる場合もある。このダンジョンは二十年使われていなかったから、新品同様で貴重な貴金属がたくさん蓄積されているようだった。
「それはそうと、中に何が入っているのかしら……?」
アイーシャは金のタイルを背負っていた雑嚢とポケットに詰め込み、部屋の中央の石棺に近寄る。
魔法カナリアは石棺の上で激しく羽ばたきながら囀っていた。色は……橙色。黄色と赤色の中間……それなりに危険というわけだ。蓋を開けた途端に魔物が飛び出してきたり、罠が作動する可能性がある。
だがアイーシャは奇妙なことに気付いた。魔法カナリアの腹部に白い丸が浮かび、その中心に青い丸がある。まるで目のような模様だった。
これは……初めて見る模様だった。魔法カナリアは僧侶の研修の中で習得した魔法だったが、色は緑、黄、赤、黒と変わっていくとしか聞いていない。お腹に目のような模様が浮かぶなど教わった覚えはなかった。
そしてよく見ると、石棺の蓋にも似た模様が刻まれている。こっちは色は塗っておらず岩のままだが、蓋の真ん中に目のような丸があり、それを囲うように一回り大きな丸がある。そして外側の丸の左側から三方向に向かって丸く太い三本の線が伸びている。
ここは物見の洞から続いているダンジョンだ。だから目が何か関係しているのだろうか。ひょっとすると物見の洞を示す記号かもしれない。だがそれが魔法カナリアにまで表示されるというのは聞いたことがなかった。
いずれにせよ、どういう意味かは分からない以上、蓋を開ける時はとにかく注意が必要という事だ。
「よっし! 魔物でも財宝でもどっちでもいいわ! 金目の物出てこい!」
アイーシャはメイスを石棺の蓋の上に置き、両手で蓋を押した。蓋は長さ二メットル、幅は一メットルでかなりの大きさだ。重量もありそうだったが、アイーシャの力でも何とか蓋をずらして隙間を作ることが出来た。次第に中の様子が見えてくるが、魔物が飛び出てくる様子はなかった。
「何、これ……?!」
半分ほど蓋をずらしたところで、アイーシャは手を止めた。
棺の内側には……人の形をしたものがいた。死体やミイラではない。魔物でもない。これは人形……暗緑色の素焼きのような肌をした顔。そして服から覗く枝のように細い腕。腕はざらついた金属の質感で、顔と同じような暗緑色をしている。
「ひょっとして、魔導人形……?! 何でこんなものがダンジョンに……!」
こいつは金になるのかならないのか? アイーシャの頭にあるのはその事だけだった。
だがこの魔導人形によりアイーシャの運命の歯車が動き始め、その人生が大きく変わろうとしていた。
このダンジョンを征服せし者は神の前に立つであろう。
アストラダンジョンで言えば、最下層は十三階層と考えられている。過去には十三階層に到達し隅から隅まで探索したパーティもあったそうだが、神とやらに出会った冒険者はいない。他のダンジョンでも同様で、最下層まで到達しても何か特別なことが起きたという事はないらしい。
ダンジョンに刻まれたこの言葉が真実なら、未だに本当の意味でダンジョンを征服したものはいないという事になる。刻まれた言葉は一種の警句や暗号とも言われているが、その真実は分かっていない。
だが今のアイーシャに必要なのは、神への接見ではない。財宝だ。エルデンとの約束もあるし、なるべく早く片付けて帰らなければいけない。
「魔物は……いないみたいね」
魔法カナリアは薄い黄色のままだが、目に見える危険はないようだった。罠がある可能性はあるが、普通ダンジョンの地上階から罠が仕掛けられていることはない。魔物がいないのならひとまず安全だろう。
門をくぐり出たのは広間のような部屋だった。壁には一面に緻密な石の彫刻があり、天井にも絵巻物のような模様が彫られている。考古学的な価値があるのかも知れないが、これについてもアイーシャにはその価値が分からなかった。しかしダンジョンの中では時間や空間が狂っているらしく、単にまったく意味のない、それっぽい模様と言うだけの場合もある。
いずれにせよ金になるものではない。アイーシャはこの部屋に金目のものがないことを確認し、別の部屋に進むことにした。
通路は三つあった。正面と、右と左。計三つだ。正面の通路が一番大きく、入り口にも一際豪奢な装飾が施されているように見える。
普通に考えれば正面に何かありそうだ。だがダンジョンではその普通の常識というものがあまり意味を持たない。一番地味なところに価値のあるものが隠されていることもある。
「考えるだけ無駄ね……どうせ見つかるまで探すんだし」
そう考え、アイーシャはまずは正面の通路から探すことにした。魔法カナリアは黄色のまま正面の通路を先行していく。
もう照明は必要なかったが、一応メイスからは破邪の光を発し続けている。その力に反応してか、時折空中から紙の燃えるような音が聞こえる。破邪の光に何かが触れて焼き切れるような音だ。
目には見えないが、何か死霊のような物がいるのかも知れない。魔法カナリアの黄色の警告色もそのせいかも知れなかった。
油断しないように周囲を警戒し、アイーシャは通路を進んでいく。
やがて次の部屋に辿り着くと、そこは先ほどの広間よりもいくらか狭い部屋だった。しかし壁や床、天井の装飾には金が使われているらしく、朽ちることの無い黄金色の光で部屋中が綺羅びやかに照らされていた。
そして部屋の中央には大きな石の箱が据えられている。それは宝箱と言うより石棺のようだったが、周りの壁とは違い何の装飾もなかった。
「これ、金……なのかな?」
アイーシャは壁に近寄りメイスの柄で金色のタイルを叩く。すると簡単に剥がれ、落ちた金色のタイルはずっしりと重かった。続けてタイルを叩いていくが、面白いようにパラパラと落ちて、片手では持てないほどになった。
「本物かどうか怪しいけど、もし本物なら億万長者ね……」
攻略初期のダンジョンでは建物自体の装飾に、金銀の細工や宝石が用いられていることが多い。その為魔物と戦って深層に潜るより、壁や柱を剥ぐ方が金を稼げる場合もある。このダンジョンは二十年使われていなかったから、新品同様で貴重な貴金属がたくさん蓄積されているようだった。
「それはそうと、中に何が入っているのかしら……?」
アイーシャは金のタイルを背負っていた雑嚢とポケットに詰め込み、部屋の中央の石棺に近寄る。
魔法カナリアは石棺の上で激しく羽ばたきながら囀っていた。色は……橙色。黄色と赤色の中間……それなりに危険というわけだ。蓋を開けた途端に魔物が飛び出してきたり、罠が作動する可能性がある。
だがアイーシャは奇妙なことに気付いた。魔法カナリアの腹部に白い丸が浮かび、その中心に青い丸がある。まるで目のような模様だった。
これは……初めて見る模様だった。魔法カナリアは僧侶の研修の中で習得した魔法だったが、色は緑、黄、赤、黒と変わっていくとしか聞いていない。お腹に目のような模様が浮かぶなど教わった覚えはなかった。
そしてよく見ると、石棺の蓋にも似た模様が刻まれている。こっちは色は塗っておらず岩のままだが、蓋の真ん中に目のような丸があり、それを囲うように一回り大きな丸がある。そして外側の丸の左側から三方向に向かって丸く太い三本の線が伸びている。
ここは物見の洞から続いているダンジョンだ。だから目が何か関係しているのだろうか。ひょっとすると物見の洞を示す記号かもしれない。だがそれが魔法カナリアにまで表示されるというのは聞いたことがなかった。
いずれにせよ、どういう意味かは分からない以上、蓋を開ける時はとにかく注意が必要という事だ。
「よっし! 魔物でも財宝でもどっちでもいいわ! 金目の物出てこい!」
アイーシャはメイスを石棺の蓋の上に置き、両手で蓋を押した。蓋は長さ二メットル、幅は一メットルでかなりの大きさだ。重量もありそうだったが、アイーシャの力でも何とか蓋をずらして隙間を作ることが出来た。次第に中の様子が見えてくるが、魔物が飛び出てくる様子はなかった。
「何、これ……?!」
半分ほど蓋をずらしたところで、アイーシャは手を止めた。
棺の内側には……人の形をしたものがいた。死体やミイラではない。魔物でもない。これは人形……暗緑色の素焼きのような肌をした顔。そして服から覗く枝のように細い腕。腕はざらついた金属の質感で、顔と同じような暗緑色をしている。
「ひょっとして、魔導人形……?! 何でこんなものがダンジョンに……!」
こいつは金になるのかならないのか? アイーシャの頭にあるのはその事だけだった。
だがこの魔導人形によりアイーシャの運命の歯車が動き始め、その人生が大きく変わろうとしていた。
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