上 下
3 / 40
第一話 いざ、ダンジョンへ

1-3

しおりを挟む
 右の穴は入口は少し狭かったが、内部はこれまでの通路以上に広くなっていた。壁も床も岩で、巨大な一つの岩をくりぬいて作られたようだった。荒く削られたのではなく、岩肌はとても滑らかだった。人が掘ったとは思えない。だからこそ物見の洞は大地神ヴォータルが作ったものと言われているが、そんな神秘に感動している暇はなかった。

 アイーシャは目を皿のようにしてダンジョンの入り口を探す。入口を隠すような大きな岩はどこにもなく、ただ滑らかに均された岩壁が続いているだけだった。

 ひょっとして、もうダンジョンは死んで岩と同化してしまったのか? そう思いながら進んでいくと、ついに突き当りにまで来てしまった。ここに入り口があるのかともおもったが、そうではなかった。どこをどう見ても、入り口のような痕跡はない。継ぎ目も、隠す様なものも、何もない。

 アイーシャは暗い洞穴の中で、その心までが闇に覆われていくような気がしていた。未来が消えていく。金がないというだけで、人生と言うのは容易に闇に転がり落ちてしまうのだ。そしてその闇から這い上がることは、とても難しい。ぬかるんだ穴の底で、手を滑らせながら壁を登ろうとするようなものだ。

 チチ、チ!

 魔法カナリアの囀りだった。魔物が出たのか?! アイーシャはハッとして振り返るが、魔法カナリアは緑色のままだった。だが何かを知らせるように、踊るように空中で右に左に動いていた。

「何かある……って事?」

 アイーシャは魔法カナリアのいる場所まで戻り、その周辺の岩を確認した。すると……ごく僅かにだが岩の色が異なっている部分があった。局所的ではなく、面的に、ちょうど人が通れるくらいの大きさの穴のように、色が少し濃くなっていた。
 触れてみると感触は周りの岩と同様に硬い。だがメイスで叩いてみると、岩の部分とは違って少し籠ったような音がする。中身の割れた瓜を叩いたような感じだった。この奥は空洞の可能性がある。

「ここ……? ここなの? だったら……!」

 アイーシャはメイスを大上段に振りかぶり、黒っぽい岩の部分に向かって思い切り振り下ろした。
 鈍い音がして、メイスは岩の壁にめり込んだ。いや、違う。表面の粘土のような層を打ち破り、その奥の空洞が見えているようだった。

「やっぱりここなのね! だったら、こんな蓋ぶっ壊してやる!」

 魔法カナリアも応援するように囀り、アイーシャはメイスを景気よく振り下ろし入口を隠す粘土層を破壊していった。数分でくぐって通れるくらいの大きさの穴になり、アイーシャは肩で息をしながら殴る手を止めた。

「はぁはぁ……ここがダンジョン……? 死んではいなかったのね……良かった」

 穴の内部はぼんやりと明るい。手前の通路は洞窟と同じように暗いが、奥にあるダンジョンの入り口は光があるようだった。ダンジョン内部はダンジョンの持つ魔力により明るさが保たれている。光っているという事は、ダンジョンはまだ生きて機能しているという事だ。あとはここにお宝がある事を祈るばかりだった。

 魔法カナリアが穴をくぐり前に進む。うっすらとその体が黄色になり、警告するように鋭い囀りを発する。
 中で何が待っているのかは分からない。魔物なのか、危険な罠や毒性のガスが待っているのかも知れない。だが退くことはできない。アイーシャは深呼吸し、ダンジョンへと進んでいった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

女体化入浴剤

シソ
ファンタジー
康太は大学の帰りにドラッグストアに寄って、女体化入浴剤というものを見つけた。使ってみると最初は変化はなかったが…

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

処理中です...