赫灼の暗殺者

臨床モルモット

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4.薔薇と鉄仙

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「お掃除の最中に本棚に水をかえしてしまって、今日1日市民への奉仕に勤しみなさいと教皇様に言われまして」

 落ち着いたクレマチスが、なぜここに居るのか話し始めた。
 私は彼女の言った”教皇”という単語に注目しながら聞き流している。

「考えたところ冒険者の依頼のお手伝いをすべきかと思ったんです!」
「私が聞いてるのは、何で私が折角折ってやった腕を勝手に治してくれてんのって話よ」
「だ、だって困っている人は放っておけません。それに私のために貴方に乱暴をさせてしまいましたから」

 あんたの為じゃないけど、クレマチスが面倒くさい子ってことは良く分かったわ。
 私が睨みつけていると、クレマチスがおずおずといった調子で尋ねてきた。

「それであの、私と一緒に依頼を……」

 この状況でよく話を戻せるわね。繊細なのか図太いのか。

「冒険者は他にもいるでしょ。なんで私なんかを」
「女性の冒険者は珍しいですし、歳が近そうだったし、それに……綺麗、でしたし」

 待って、なんで頬を赤らめてるのこの子。
 私はため息交じりに返事をした。

「3つ、条件がある」

 私は3本の指を立てて、それを指折り数えていく。

「私の詮索をしない事、自分の身は自分で守る事、それと最後に教皇と話をさせて」
「えーっと、教皇様と謁見するのは色々と手順が必要でして……」
「出来ないなら一人で頑張んなさい」
「あぇ!? 分かりました! 私の手伝いをしてくれたということで、報告するときに同席できるように計らいますからぁ!」

 クレマチスがまた叱られるぅ、などと呟きながら虚ろな顔をしているのは無視する。

 私は仲間たちを殺した金髪野郎を思い出す。
 マグマの様に噴き出す怒りを押し殺し、奴が着ていた鎧を思い出した、そこに記されていた紋章を。
 私は見たことがないものだったけど、教皇ともなれば何か知っているかもしれない。

 気を取り直して、鼻歌を歌いながら依頼ボードに歩いていくクレマチスを見て、ある事に気が付いた。

「ちょっとまって。まさかその格好で行くつもり?」
「? 駄目でしょうか? 自慢の一張羅ですよ」

 ふふん、と鼻を鳴らすクレマチスだけど、一張羅ならなおさら駄目よ。
 街の外に出れば1時間で2度と着れないボロ布になる。

「……明日から下着で過ごすことになるわよ」
「そ、それは困ります! 聖職者は我らが父以外に肌を見せるのは禁忌なのです!」

 クレマチスの装備を今から調達するのは骨ね。
 仕方がない。

「これを使いなさい。泥や枝くらいは防いでくれるはずよ」

 私は換金する予定だった指輪をクレマチスに放る。
 あの指輪には防護魔法が掛かっているのだ。
 剣や矢を防げるほど強力ではないが。

「いいんですか!? こんな高そうなものを!?」
「貸すだけよ」

 私もクレマチスと一緒に請ける依頼を吟味する。

「そういえば貴方のお名前をお伺いしていませんでした」
「ローズよ。よろしく」
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