上 下
1 / 4

第1話 悪役キャラに転生するパターン

しおりを挟む
 ハマった。
「何に?」と問われれば「悪役キャラ転生モノである」と答える。
 そう、最近小説サイトのランキングに度々登場する悪役転生モノにハマってしまったのだ。
 大事なことなので二回言った。

 ランキング上位に名を連ねているとある小説を読み厨二病を再発させた俺は、自分の悪役キャラ転生攻略チャートを作り上げ、そして死んだ。
 朝、通勤途中に踏み切りの前で件のネット小説を読み返していたら、背中を思い切り突き飛ばされ電車に撥ねられ死んだのだ。
 死の間際に考えたことは、「これって悪役に転生するパターンじゃね?」ということである。
 もっと他に考えることがあったのではないか、と肉体を捨て去り魂だけの存在になってしまった今ならそう言える。
 もう口なんてないけどね、ガッハッハ(激ウマ幽霊ギャグ)。

 テン・・ションと一緒にに上昇していく自分の魂とは裏腹に、なんとなく認識できた他の魂は全て地底を目指しているようである。
 これは俺が運命に選ばれたのかと、死してなお厨二病を卒業できていない事実に震えながら、ひたすら天を目指す。

 白雲を抜け、青空を突破し、成層圏を離れ、地球から飛び出し、数々の星を横目に宇宙すらも離脱し、別の宇宙に突入した。
 そして再び様々な星やデブリを横目にしながら、俺の魂はとある星に吸い込まれていった。

 もうこの時点でテンプレとはなにか違うような気はするが、やはりこの流れは悪役転生に違いないという確信もどこかにある。
 そして俺の魂は月すら浮かばぬ真っ暗な空を突き破り、黒い雲を抜け、周辺で最も高い塔に侵入し、その最上階でひっそりと寝息を立てている女の腹の中に収まった。

 悪役転生とはいえ、まさか誕生より以前からスタートとは思わなかった。
 だがこうなったものは仕方ないので、今のうちからトレーニングをしなければなるまい。
 悪役キャラはその才能の大小は別にして、争いごとに関しては大抵雑魚と相場が決まっているのだ。
 今のうちに主人公とラスボスキャラに対してアドバンテージを稼がねばなるまい。
 それにしても胎児からトレーニングを行う小説は数多読んできたが、まさか受精卵にすらなっていない卵子の段階でトレーニングをするハメになるとは思いもしなかった。

 どうせ魔力や気などの概念があるのだろうと当たりをつけてトレーニングを行う。
 俺が宿っている卵子からエネルギーを捻り出す。
 こういったエネルギーに対する感覚は、つい先程まで魂だけの存在であったので鋭敏なままだ。
 いとも容易に卵子のエネルギーを操作することが可能となった。
 他の卵子からもエネルギーを搾り出し操ることも可能となった段階で、次は卵子から出せるエネルギーの絶対量を増やす訓練を行う。
 こういったエネルギーは使えば回復し、それに伴い全量が少し嵩増しされることで有名なので、己の魂が宿る卵子のエネルギーを全ていずれ母体となる女の子宮に流し込む。
 他の卵子からも同様にエネルギーを全て搾り取り、子宮に受け流す。
 卵子のエネルギーがスッカラカンになり、どういった経緯で消費したエネルギーが回復するのか観察したい気もするが、原作までに俺自身が弱いままではいけないので訓練を続行する。

 今度は世界に溢れるエネルギーを取り込む訓練である。
 ファンタジーでよくある龍脈に流れるウンタラカンタラというヤツだ。
 古今東西、占いやら風水やらで権威を示す巨大建築物の位置を決めるのはお約束である。
 ならば少なくとも意味深に聳え建っているこの巨塔の地下には莫大な龍脈が流れているはずだ。
 俺は龍脈がナニかは全く知らないが、古事記出版:民明書房にもそう書いてあったから正しいのだ。
 正しいったら正しい。
 そういうことにしておこう。
 卵子からニュルッと魂の触手を伸ばし、女の臍を媒介に世界と繋がる。
 塔の床から龍脈らしきなにかを感じ取り、そこを流れるエネルギーを魂の触手管を伝い己の宿る卵子に注入する。
 卵子のエネルギーとは全く質が違うが、幸い今は卵子の中にエネルギーは存在していないので拒絶反応は起こらず、龍脈のエネルギーを詰め込めるだけ詰め込む。
 他の卵子にも同様の操作を行い、全ての卵子にエネルギーを注ぎ込んだ。

 そして現状できる最後の訓練として魂から取り出したエネルギーの操作を行う。
 往々にして魂から引き出されるタイプの力はデメリットばかりであるがその分無類の強さを発揮する。
 ならばなぜデメリットが多いのかと問われれば、そのエネルギーの操作がなってないからだと考察したあの頃厨二病初期症状時
 ならば特訓すればええじゃないかというわけだ。
 魂に癒着しているモノのうち、余分なエネルギーを剥ぎ取る。
 先程の触手管のように魂を直接加工する訳ではないので、丁寧に造形を決める。
 今回かたどるのは『拳銃』。
 あわよくば魂装化して、主人公とラスボス相手に初手分からん殺しを決めたい。
 因みに魂装とはこれまたよくある設定の一つで、魂から生み出される自分専用武器のことであり、本来は実体を持たないはずが強い意志により一時的に現界するタイプのヤババなファンタジー武器である。
 今回もまた「どうせあるんでしょう?」の精神でトライする。
 そして思いの外あっさりと余剰分のエネルギーで『拳銃』を象るまではできたが、非物質を物質化させるほどの強い意志とはなんぞや、という段階で訓練は一時打ち止めとなった。
 なにせ、「死にたくない」と言ってももう死んでいるわけだし、「生きたい」と言ってもそもそもまだ生まれてない。
 さらに「勝ちたい」と思っても競う相手がいないし、「守りたい」と思ってもその対象がいない。
 最早「カッコよくありたい」ぐらいしか動機は見つからないが、前世日本で培われためつ厨二病マインドが羞恥で悲鳴を上げている。
 そういうわけで魂装訓練打ち止めである。

 本格的にやることがなくなったので、卵子の体で子宮内を泳ぎ回る。
 あっちへウロウロ、こっちへウロウロ。
 時折他の卵子とぶつかりそうになるが、こちとら満員電車も飽和交差点もなんのそのだった元社畜だ。
 上手い具合に隙間を見つけて、避けて避けて避けまくる。
 たまに団体がたむろしていることがあるが、そういう場合には真ん中を突っ切らずに敢えての遠回りをする。
 その後、子宮内を泳ぎ回ったりもう一方の卵管に突入したりなどやりたい放題やったが、結局最初に居た方の卵管に戻った。
 そして自分の卵子を労わるために休息を取ることにした。





 ───────────
 エネルギーの名称について
 女性由来のエネルギーは、『魔力』。
 龍脈由来のエネルギーは、『精霊力』。
 魂由来のエネルギーは、『魂力』。
 あとついでに男性由来となるであろうエネルギーは、『気』。

 現在の主人公の二つ名は『アグレッシブ卵子』。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

破滅する悪役五人兄弟の末っ子に転生した俺、無能と見下されるがゲームの知識で最強となり、悪役一家と幸せエンディングを目指します。

大田明
ファンタジー
『サークラルファンタズム』というゲームの、ダンカン・エルグレイヴというキャラクターに転生した主人公。 ダンカンは悪役で性格が悪く、さらに無能という人気が無いキャラクター。 主人公はそんなダンカンに転生するも、家族愛に溢れる兄弟たちのことが大好きであった。 マグヌス、アングス、ニール、イナ。破滅する運命にある兄弟たち。 しかし主人公はゲームの知識があるため、そんな彼らを救うことができると確信していた。 主人公は兄弟たちにゲーム中に辿り着けなかった最高の幸せを与えるため、奮闘することを決意する。 これは無能と呼ばれた悪役が最強となり、兄弟を幸せに導く物語だ。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

俺、貞操逆転世界へイケメン転生

やまいし
ファンタジー
俺はモテなかった…。 勉強や運動は人並み以上に出来るのに…。じゃあ何故かって?――――顔が悪かったからだ。 ――そんなのどうしようも無いだろう。そう思ってた。 ――しかし俺は、男女比1:30の貞操が逆転した世界にイケメンとなって転生した。 これは、そんな俺が今度こそモテるために頑張る。そんな話。 ######## この作品は「小説家になろう様 カクヨム様」にも掲載しています。

猛焔滅斬の碧刃龍

ガスト
ファンタジー
ある日、背後から何者かに突然刺され死亡した主人公。 目覚めると神様的な存在に『転生』を迫られ 気付けば異世界に! 火を吐くドラゴン、動く大木、ダンジョンに魔王!! 有り触れた世界に転生したけど、身体は竜の姿で⋯!? 仲間と出会い、絆を深め、強敵を倒す⋯単なるファンタジーライフじゃない! 進むに連れて、どんどんおかしな方向に行く主人公の運命! グルグルと回る世界で、一体どんな事が待ち受けているのか! 読んで観なきゃあ分からない! 異世界転生バトルファンタジー!ここに降臨す! ※「小説家になろう」でも投稿しております。 https://ncode.syosetu.com/n5903ga/

処理中です...