僕は傷つかないから

うちの子が狙われている

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　元々放置されていて、10歳になると家に帰ってくることすら少なくなった玄樹げんきの両親。
　玄樹げんきが大人になるまでは離婚しないことになっていたのに、父親の恋人に子供ができて生まれる前に籍を入れることになった。
　玄樹げんきの親権は母親が持つ。

　といっても今まで通り、彼女が関わってくることはほとんどないだろう。
　玄樹げんきは俺の勤める製菓会社のイメージキャラクターをしていて、副社長が独身寮を用意してくれた。そこから高校に通って、卒業後も必要な知識を身に付けながら広報課に勤める。

　来年の4月から18歳以上は成人扱い。玄樹げんきは5月に18歳になって彼女の署名もいらなくなる。

　大学に行くのなら奨学金を出すと副社長は言ってくれたけど、玄樹げんきは現場で必要な知識に重点を置くことを選んだ。一般教養については広報に俺の同級生で院卒の可児かにがいるし、玄樹げんき自身も学校の成績は良かったから心配ない。

　今日は祖父さんの家に色々な書類のサインに行っている。よっぽどのことがない限り、これで玄樹げんきが家族と会うことは無いだろう。祖父さんの葬儀だって呼ばれないかもしれない。

　自分勝手すぎる大人たちに、玄樹げんきは最後になんて言うんだろう。ちゃんと言えるだろうか、別れの言葉まで聞いてもらえないなんてことにならないだろうか。

　気分の上がるものを作って帰りを待とう。イメージキャラクターをしているから体のことも考えるとフルーツグラタンだな。
　玄樹げんきは180センチ60キロ。痩せすぎだけど太ってから痩せる方が食べ盛りには酷だから。仕事で食べなければいけないから油断はできない。

　玄樹げんきは予想よりずっと早く帰ってきた。うまく話せなかったのか、聞いてもらえなかったのか。
　そもそも期待していなかったのかもしれない。落ち込んだり傷ついたりしているようには見えない。しいて言うなら、そんな家族関係だったことに傷ついているのかも。

　人肌が恋しそうな玄樹げんきを寝室に手招きする。フルーツグラタンが冷えるまでは甘えさせてやろう。