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「収穫した物を食べられる」なんて軽い気持ちで覗いた園芸部。そこに先輩がいた。
お互いに身長はまあまあ平均、厚めの前髪。体重が俺は平均で先輩は痩せすぎって以外よくいる陰キャ同士、なんだか親近感が湧いた。
何かに突き動かされるように入部を決めた。
不思議な感覚だった。
話し掛けやすいと思っているのに声を掛けるのに緊張する。いざ話してみると楽しくて緊張していたことを忘れて夢中で喋る。先輩は聞き上手だし意外とよく笑う。
体重は軽くても肩幅はあるし、服の着方がうまいのかシルエットは普通。埋もれるはずの先輩を登下校中でも昼休みでもすぐに見つけることができる。
「あ、あの、おはようございます」
「おはよう。
っていうか、もうすぐ夏休みだぞ?」
優しく笑う先輩に心臓が跳ねる。え、俺何か変?
それよりこれは夏休みのお誘い?
「え、えっと……?」
前髪に隠れていても分かる。先輩は明るく笑っている。
「三か月経ってるんだぞってこと。おはようって言うだけで、なんでそんなに緊張してるんだよ」
なんで?
自分でも急に疑問に思ったのと夏休みという言葉が頭でグルグルする。
「じゃあ、夏休みとか、一緒に……」
話も態度も飛びすぎだろ。頭の隅っこで分かってるのに言葉がまとまらない。
先輩はそれでも優しい空気。
「お?おう。水やり当番は今日決めるから、一緒の日にするか?」
そうだよな、そうなるよな。
なんで俺は夏休みに一緒に出掛けることを考えたんだろう。いや、俺たちは部屋で過ごすことの方がお似合いかな。
……へ、部屋?部屋で、先輩と、二人で……。
「リト?」
「……」
やばい、なんか息っていうより脈が苦しい。
昇降口でどうやって別れたのか、部活でどうやって水やり当番を決めたのか憶えてない。考えていたのは一日中一つだけ。
俺は先輩が好きなんだ。
当番は夏休みに入ってすぐの一週間。それまでに色々調べた。先輩の好きな科目、食べ物、知るのが怖かったけど好きなタイプ。
オタクではないけど小説の登場人物のことが好きらしい。読んでみたら大人しくて優しくて女の子らしい上品な人だった。
どう考えたらいいんだろう。生身の俺の方が有利なんだろうか。当然ながら女の子らしさの欠片も無い俺に望みは無いんだろうか。
考えたって分からない。なにより結果なんてどうでもいい。一度気付いてしまったら自分一人では持ちきれないくらい先輩への想いが膨らんでいって、とにかくこの気持ちを先輩に伝えたかった。
水やりを終えて部室で体操着を脱いだ先輩に後ろから抱きついた。先輩はいつも落ち着いてる。今も体がビクッとなっただけで声は出なかった。
「どうした?」
不思議そうなだけで慌ててはいない声。男にこんな気持ちで抱きつかれてるなんて思いもしてないんだろうな。
「……きです。俺、先輩が好きです」
先輩の前で組まれている俺の腕がそっと掴まれた。掴まれているだけで振り払おうとはされていない。
「俺好きな人いるから」
あっさり振られた。っていうか、なんでそんなに落ち着いてるんだ?
「知ってたんですか?俺の気持ち」
「ごめん、全然気づかなかった」
いつもはかっこいいと思ってた低く落ち着く声が今は苛立つ。その気持ちのまま腕に力を入れても先輩は動じない。それが更に俺を苛つかせた。声が震える。
「だったらなんでそんなに落ち着いてるんですか?
俺は本気で言ってるんですよ?」
先輩が俺の腕をポンポンと優しく叩いた。
「うん。じゃなきゃこんな汗と土まみれの体に抱きつかないだろ。背中に伝わってるよ。リトの本気の声。
元々そんなに感情が出るタイプじゃないんだよ。傷つけたならゴメン。好きになってくれたことも、勇気を出して言ってくれたことも嬉しかったよ」
完全に終わったことな言い方に泣きたくなる。それに。
「よく笑うじゃないですか。いつもはきれいな低い声なのに張りのある大きな声で。今は何とも思ってないってだけじゃないんですか」
「今はおかしいことなんか一つも無いだろ」
ああ。やっぱり好きだ。
先輩の手がそっと俺の腕をほどこうとする。
「明日から……普通にできる?
当番どうする?」
素直に腕をほどく振りをして、先輩が振り向いたタイミングで腕ごと抱きしめる。
「やります!明日も会いたいです!」
「分かった。じゃあ」
「今まで通り普通にしますから、だから、一度だけ」
腕を先輩の首へと動かす。見つめ合う先輩の目は瞬きをしない。もしかして驚いてるのかな。自由になった両腕も動かさないし。
たぶん最初で最後のチャンスだ。後のことなんて考えられない。先輩に触れたい。キスしたい。
えいっ!と唇を当てると、先輩の両腕が少し上がったのを感じた。腕はそのまま硬直してる。俺が知る中で一番驚いている先輩だ。
先輩の唇は力が入っているようないないような、本当に驚いてるんだなって分かる反応で、息が止まってる。息をしてないのは俺も一緒。だって初めてで、どうしていいか分からない。ただ先輩とこうしたっていう全部を憶えておきたくて集中した。
お互いの汗で先輩の首と俺の腕がベタつく。おでこに感じる先輩のくせ毛。体で感じる先輩の体温。俺も脱いでから抱きつけばよかったな。
少しでも長くこうしていたかったけど息が限界で離れた。どんな反応をされるのか怖くて俯いて呼吸を整えていたら目に入ったものに驚いた。先輩のジャージが盛り上がってる。
「せんぱい」
どうしよう。そこまでは考えたことなかった。でも嬉しくて、一瞬前の怖さを忘れて顔を上げた。
「先輩、俺で」
どうやってやるのかなんて分からないけど、とっくにその気になってる自分の物を押し付けるように先輩に抱きついた。
空中で固まってた先輩の腕が俺に怯えるように背後のロッカーに張り付く。
「っ、駄目だ」
「でも」
「リトも分かるだろ?
ちょっと刺激されれば簡単にこうなるものだよ」
簡単って言ってる先輩の声は苦しそうで色っぽい。
「俺じゃダメですか?
先輩の好きな人って、こうやって触れ合うことはできない相手でしょ?
それに先輩が誰と何をしたって知ることはない相手ですよね?」
「相手がどう思うかじゃない。彼女への自分の気持ちを、俺が大切にしたいんだ」
それは俺と同じ気持ちで、なのにそう思う状況は真逆だった。相手のことなんてお構いなしに気持ちを押し付けた俺と、バレなければいいなんて浮気をすることは絶対にない先輩。
違い過ぎて恥ずかしくて、先輩を抱きしめていた腕からも、熱くなっていた部分からも力が抜ける。
「俺のこと……嫌いになりました?」
「そんなことないよ」
「ガキだって思ったでしょ」
むりやりキスなんてして、もう今まで通りにはしてくれないかな。明日からの当番も変えられるか、一人でやれってなるかな。
先輩の体がゆっくり動く。どう拒まれることも覚悟していたら抱きしめられて、今度は俺が体の動かないままに驚いた。
「え……」
先輩の左手が俺の背中を、右手を俺の頭を撫でる。
「かわいいと思ったよ。ごめんな。応えられないけど嬉しかったよ」
俺の気持ちが伝わってないかもって思った時とは全然違う涙が本当に止まらない。先輩の抱きしめる力加減や声の温かさに改めて思い知らされる。俺はこの人が大好きだ。
叶わない。困らせちゃいけない。困らせたくないって思うのに、同じくらいに好きって気持ちがあふれてくる。
「俺、待ってますから。明日からは今まで通りにしますけど、諦めませんから」
力加減と息で分かる。先輩が困ってる。
「先輩は忘れてくれていいです。俺が勝手に好きでい続けてるだけですから」
先輩の肩に手を当てて離れると、心配そうな顔で俺の目を見ている。
「何も言えないですよね?
先輩だって叶わない相手を好きでいて、今の自分がかわいそうなんて思ってないですもんね?」
先輩は諦めがついたように少し下を見てため息のように笑った。
あ、でも先輩は優しいからな。先に注意しとかないと。
「自分が流されれば丸く収まるなんて思っちゃダメですよ?
先輩もときめいてくれないと、俺も嬉しくないですから」
これは俺の思い過ごしだったみたい。先輩はすぐに首を振ってからまっすぐ俺を見た。
「そんなことはしないよ。全部の気持ちに失礼だから」
ああ、本当に大好きだ。もう一度抱きしめたい気持ちを必死に抑えた。
お互いに身長はまあまあ平均、厚めの前髪。体重が俺は平均で先輩は痩せすぎって以外よくいる陰キャ同士、なんだか親近感が湧いた。
何かに突き動かされるように入部を決めた。
不思議な感覚だった。
話し掛けやすいと思っているのに声を掛けるのに緊張する。いざ話してみると楽しくて緊張していたことを忘れて夢中で喋る。先輩は聞き上手だし意外とよく笑う。
体重は軽くても肩幅はあるし、服の着方がうまいのかシルエットは普通。埋もれるはずの先輩を登下校中でも昼休みでもすぐに見つけることができる。
「あ、あの、おはようございます」
「おはよう。
っていうか、もうすぐ夏休みだぞ?」
優しく笑う先輩に心臓が跳ねる。え、俺何か変?
それよりこれは夏休みのお誘い?
「え、えっと……?」
前髪に隠れていても分かる。先輩は明るく笑っている。
「三か月経ってるんだぞってこと。おはようって言うだけで、なんでそんなに緊張してるんだよ」
なんで?
自分でも急に疑問に思ったのと夏休みという言葉が頭でグルグルする。
「じゃあ、夏休みとか、一緒に……」
話も態度も飛びすぎだろ。頭の隅っこで分かってるのに言葉がまとまらない。
先輩はそれでも優しい空気。
「お?おう。水やり当番は今日決めるから、一緒の日にするか?」
そうだよな、そうなるよな。
なんで俺は夏休みに一緒に出掛けることを考えたんだろう。いや、俺たちは部屋で過ごすことの方がお似合いかな。
……へ、部屋?部屋で、先輩と、二人で……。
「リト?」
「……」
やばい、なんか息っていうより脈が苦しい。
昇降口でどうやって別れたのか、部活でどうやって水やり当番を決めたのか憶えてない。考えていたのは一日中一つだけ。
俺は先輩が好きなんだ。
当番は夏休みに入ってすぐの一週間。それまでに色々調べた。先輩の好きな科目、食べ物、知るのが怖かったけど好きなタイプ。
オタクではないけど小説の登場人物のことが好きらしい。読んでみたら大人しくて優しくて女の子らしい上品な人だった。
どう考えたらいいんだろう。生身の俺の方が有利なんだろうか。当然ながら女の子らしさの欠片も無い俺に望みは無いんだろうか。
考えたって分からない。なにより結果なんてどうでもいい。一度気付いてしまったら自分一人では持ちきれないくらい先輩への想いが膨らんでいって、とにかくこの気持ちを先輩に伝えたかった。
水やりを終えて部室で体操着を脱いだ先輩に後ろから抱きついた。先輩はいつも落ち着いてる。今も体がビクッとなっただけで声は出なかった。
「どうした?」
不思議そうなだけで慌ててはいない声。男にこんな気持ちで抱きつかれてるなんて思いもしてないんだろうな。
「……きです。俺、先輩が好きです」
先輩の前で組まれている俺の腕がそっと掴まれた。掴まれているだけで振り払おうとはされていない。
「俺好きな人いるから」
あっさり振られた。っていうか、なんでそんなに落ち着いてるんだ?
「知ってたんですか?俺の気持ち」
「ごめん、全然気づかなかった」
いつもはかっこいいと思ってた低く落ち着く声が今は苛立つ。その気持ちのまま腕に力を入れても先輩は動じない。それが更に俺を苛つかせた。声が震える。
「だったらなんでそんなに落ち着いてるんですか?
俺は本気で言ってるんですよ?」
先輩が俺の腕をポンポンと優しく叩いた。
「うん。じゃなきゃこんな汗と土まみれの体に抱きつかないだろ。背中に伝わってるよ。リトの本気の声。
元々そんなに感情が出るタイプじゃないんだよ。傷つけたならゴメン。好きになってくれたことも、勇気を出して言ってくれたことも嬉しかったよ」
完全に終わったことな言い方に泣きたくなる。それに。
「よく笑うじゃないですか。いつもはきれいな低い声なのに張りのある大きな声で。今は何とも思ってないってだけじゃないんですか」
「今はおかしいことなんか一つも無いだろ」
ああ。やっぱり好きだ。
先輩の手がそっと俺の腕をほどこうとする。
「明日から……普通にできる?
当番どうする?」
素直に腕をほどく振りをして、先輩が振り向いたタイミングで腕ごと抱きしめる。
「やります!明日も会いたいです!」
「分かった。じゃあ」
「今まで通り普通にしますから、だから、一度だけ」
腕を先輩の首へと動かす。見つめ合う先輩の目は瞬きをしない。もしかして驚いてるのかな。自由になった両腕も動かさないし。
たぶん最初で最後のチャンスだ。後のことなんて考えられない。先輩に触れたい。キスしたい。
えいっ!と唇を当てると、先輩の両腕が少し上がったのを感じた。腕はそのまま硬直してる。俺が知る中で一番驚いている先輩だ。
先輩の唇は力が入っているようないないような、本当に驚いてるんだなって分かる反応で、息が止まってる。息をしてないのは俺も一緒。だって初めてで、どうしていいか分からない。ただ先輩とこうしたっていう全部を憶えておきたくて集中した。
お互いの汗で先輩の首と俺の腕がベタつく。おでこに感じる先輩のくせ毛。体で感じる先輩の体温。俺も脱いでから抱きつけばよかったな。
少しでも長くこうしていたかったけど息が限界で離れた。どんな反応をされるのか怖くて俯いて呼吸を整えていたら目に入ったものに驚いた。先輩のジャージが盛り上がってる。
「せんぱい」
どうしよう。そこまでは考えたことなかった。でも嬉しくて、一瞬前の怖さを忘れて顔を上げた。
「先輩、俺で」
どうやってやるのかなんて分からないけど、とっくにその気になってる自分の物を押し付けるように先輩に抱きついた。
空中で固まってた先輩の腕が俺に怯えるように背後のロッカーに張り付く。
「っ、駄目だ」
「でも」
「リトも分かるだろ?
ちょっと刺激されれば簡単にこうなるものだよ」
簡単って言ってる先輩の声は苦しそうで色っぽい。
「俺じゃダメですか?
先輩の好きな人って、こうやって触れ合うことはできない相手でしょ?
それに先輩が誰と何をしたって知ることはない相手ですよね?」
「相手がどう思うかじゃない。彼女への自分の気持ちを、俺が大切にしたいんだ」
それは俺と同じ気持ちで、なのにそう思う状況は真逆だった。相手のことなんてお構いなしに気持ちを押し付けた俺と、バレなければいいなんて浮気をすることは絶対にない先輩。
違い過ぎて恥ずかしくて、先輩を抱きしめていた腕からも、熱くなっていた部分からも力が抜ける。
「俺のこと……嫌いになりました?」
「そんなことないよ」
「ガキだって思ったでしょ」
むりやりキスなんてして、もう今まで通りにはしてくれないかな。明日からの当番も変えられるか、一人でやれってなるかな。
先輩の体がゆっくり動く。どう拒まれることも覚悟していたら抱きしめられて、今度は俺が体の動かないままに驚いた。
「え……」
先輩の左手が俺の背中を、右手を俺の頭を撫でる。
「かわいいと思ったよ。ごめんな。応えられないけど嬉しかったよ」
俺の気持ちが伝わってないかもって思った時とは全然違う涙が本当に止まらない。先輩の抱きしめる力加減や声の温かさに改めて思い知らされる。俺はこの人が大好きだ。
叶わない。困らせちゃいけない。困らせたくないって思うのに、同じくらいに好きって気持ちがあふれてくる。
「俺、待ってますから。明日からは今まで通りにしますけど、諦めませんから」
力加減と息で分かる。先輩が困ってる。
「先輩は忘れてくれていいです。俺が勝手に好きでい続けてるだけですから」
先輩の肩に手を当てて離れると、心配そうな顔で俺の目を見ている。
「何も言えないですよね?
先輩だって叶わない相手を好きでいて、今の自分がかわいそうなんて思ってないですもんね?」
先輩は諦めがついたように少し下を見てため息のように笑った。
あ、でも先輩は優しいからな。先に注意しとかないと。
「自分が流されれば丸く収まるなんて思っちゃダメですよ?
先輩もときめいてくれないと、俺も嬉しくないですから」
これは俺の思い過ごしだったみたい。先輩はすぐに首を振ってからまっすぐ俺を見た。
「そんなことはしないよ。全部の気持ちに失礼だから」
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