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振られた同士でくっつくなんてありがちな展開に雪矢くんが流されるとは思えない。俺と雷打くんは似ても似つかないし。
傷の舐め合いって言ってたけど俺といて雪矢くんは癒されるのか?
頭がぐるぐるして、目が開いているのに見えている景色を処理できない。見慣れた無人の台所なんだから処理するほどの情報も無いのに。
そこに現れた雪矢くんはピントを調節した画像みたいにくっきりと俺の目に映った。
「まだいたの?」
湯飲みの乗ったお盆をテーブルに置くと、俺の湯飲みをお盆に乗せる。俺はピンボケした背景を元に戻そうとしながらなんとか平静を装った。
「いや、えっと、おかわり?
今度は俺が淹れようか?」
雪矢くんが少しだけ不思議そうな顔。
「いや昼だよ?」
指さされた時計を見て驚いた。俺は3時間もぐるぐるしてたのか。
4人でお昼を食べて、雷打くんはソファで眠ってしまった。工房に入った日はだいたいそうで、15分くらいで起きる。
一兄は工房の換気扇が壊れてても気付かないくらい頑丈な人で、のんびり雷打くんが起きるのを待ってから二人で工房へ戻っていった。
「で、まだぼーっとするの?」
朝と同じように顔を近づけられて目を逸らすと片付けられた流し台。
雪矢くんが俺の左頬を右手で包んで視線を戻された。
「もしかして朝言ったこと気にしてる?
『傷の舐め合い』って言ったけどさ、言ってみて気付いたんだ。俺」
思わず両手で雪矢くんの口を塞いでしまった。聞きたくない。『俺には雷打だけ。誰も雷打の代わりになんてなれない』きっとそう言うんだ。
ソファで寝ている雷打くんを見る雪矢くんの顔。あんな風に見つめられたいと思っている自分に気付いた。同時にあんな表情にできるのは雷打くんだけなんだってことにも気付いてしまった。
「どうしたらいいの?
一兄の孤独を知ってるのは俺だけだって思ってた。だから俺が一番近くにいられるって。でもそれじゃ駄目だった。
またなの?
俺は雪矢くんの傷を知ってるよ。俺ならその痛みを解りあえる。でも俺じゃ駄目なんでしょ?」
雪矢くんが俺の両手首を掴んで自分の頭を後ろへ動かした。
「落ち着けよ」
俺は恥ずかしくて悔しく悲しくて、雪矢くんの手を振り払って自分の部屋へと走った。そして畑仕事で腕力はあるけど運動が得意ではない俺は部屋の前で雪矢くんに追いつかれた。
昔の押し売りみたいに体を割り込ませて後ろ手で扉を閉めた雪矢くんに、恐怖や戸惑いよりも怒りに似た赤黒い感情がこみ上げる。
こんなに好きだと分かりきってる俺と、俺の部屋に二人っきりになりにきたのはどうして?
運動神経では勝てないけど腕力は俺の方が上。押し入ってきた勢いを利用して雪矢くんを押し倒した。
傷の舐め合いって言ってたけど俺といて雪矢くんは癒されるのか?
頭がぐるぐるして、目が開いているのに見えている景色を処理できない。見慣れた無人の台所なんだから処理するほどの情報も無いのに。
そこに現れた雪矢くんはピントを調節した画像みたいにくっきりと俺の目に映った。
「まだいたの?」
湯飲みの乗ったお盆をテーブルに置くと、俺の湯飲みをお盆に乗せる。俺はピンボケした背景を元に戻そうとしながらなんとか平静を装った。
「いや、えっと、おかわり?
今度は俺が淹れようか?」
雪矢くんが少しだけ不思議そうな顔。
「いや昼だよ?」
指さされた時計を見て驚いた。俺は3時間もぐるぐるしてたのか。
4人でお昼を食べて、雷打くんはソファで眠ってしまった。工房に入った日はだいたいそうで、15分くらいで起きる。
一兄は工房の換気扇が壊れてても気付かないくらい頑丈な人で、のんびり雷打くんが起きるのを待ってから二人で工房へ戻っていった。
「で、まだぼーっとするの?」
朝と同じように顔を近づけられて目を逸らすと片付けられた流し台。
雪矢くんが俺の左頬を右手で包んで視線を戻された。
「もしかして朝言ったこと気にしてる?
『傷の舐め合い』って言ったけどさ、言ってみて気付いたんだ。俺」
思わず両手で雪矢くんの口を塞いでしまった。聞きたくない。『俺には雷打だけ。誰も雷打の代わりになんてなれない』きっとそう言うんだ。
ソファで寝ている雷打くんを見る雪矢くんの顔。あんな風に見つめられたいと思っている自分に気付いた。同時にあんな表情にできるのは雷打くんだけなんだってことにも気付いてしまった。
「どうしたらいいの?
一兄の孤独を知ってるのは俺だけだって思ってた。だから俺が一番近くにいられるって。でもそれじゃ駄目だった。
またなの?
俺は雪矢くんの傷を知ってるよ。俺ならその痛みを解りあえる。でも俺じゃ駄目なんでしょ?」
雪矢くんが俺の両手首を掴んで自分の頭を後ろへ動かした。
「落ち着けよ」
俺は恥ずかしくて悔しく悲しくて、雪矢くんの手を振り払って自分の部屋へと走った。そして畑仕事で腕力はあるけど運動が得意ではない俺は部屋の前で雪矢くんに追いつかれた。
昔の押し売りみたいに体を割り込ませて後ろ手で扉を閉めた雪矢くんに、恐怖や戸惑いよりも怒りに似た赤黒い感情がこみ上げる。
こんなに好きだと分かりきってる俺と、俺の部屋に二人っきりになりにきたのはどうして?
運動神経では勝てないけど腕力は俺の方が上。押し入ってきた勢いを利用して雪矢くんを押し倒した。
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