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「洋館だから造りも広いし部屋数も多い」
先生はそう言ったんだ。
うん。嘘ではなかった。鵜呑みにした俺が悪い。
信号が青に変わって歩き出そうとした瞬間、後ろから張りのあるおじさんの声がした。
「本山くん?」
振り返ると高校の時の担任が定食屋のドアから手を振っている。
5年振りの意外な場所での再会に俺は驚いて、小さく会釈をしながら駆け寄った。
「お久しぶりです!
お元気そうで」
俺の学年が卒業するのと一緒に定年退職したし見た目はそんな年齢なのに、なんか元気っていうか楽しそうっていうか。
先生が額を叩かれでもしたように頭を少し後ろに引きながら笑った。
「そんな言葉使いをするようになったか。
時間あるなら定食くらいご馳走するよ」
先生が作ってくれた隙間から店に入る。
「いいんすか?
ありがとうございます!」
軽く世間話をしながら料理を待って、食べ始めたら先生がまた額を叩かれたように頭を引いた。
「まだまだ食べ盛りか」
しまった。久々のまともな食事に我を忘れてしまった。でもここで先生に会えたのも何かの巡り合わせかもしれない。正直に話そう。
「実は勤め先が倒産したんです。実家も家計が厳しくて帰ってこられても困るって空気出されて、ここで転職先を探してるんですけどなかなか見つからなくて。
だからまともな食事は久しぶりで」
「そうか」
先生は頷くように俯いて、それから何かを思い出したように顔を上げた。
「そうだ!
もしかしたら就職先を紹介できるかもしれない」
俺にここで待つようにという手の動きをした後で席を立ち、店の外で電話をし始めた。
戻ってきた先生は笑顔だった。
「ここから二駅の所に弟が暮してるんだよ。洋館だから造りも広いし部屋数も多い。典型的な学者だから、住み込みで衣食住の管理をお願いできないかな?
満足な給料は出せないけど生活費が掛からないことを考えれば悪い話じゃないと思うよ?」
マジか!
昔から適当なこと言ってるけど、いざという時は頼りになったよな。
「ありがとうございます!」
俺はテーブルに両手をついて頭をさげた。
喉元過ぎればなんとやら。
高校時代に散々先生の適当な表現に振り回されてきたのに。
まず2駅って新幹線での話だった。「今から行こうよ」なんて言われて在来線だと思っちゃったよ。
そして何より重要なのは弟さんが学者じゃないということ。正確に言うと重要なのは学者ではないということではなく、小説家だということ。しかも俺が大ファンの。
画像で見たままのゴールデンレトリバーみたいな見た目。いまは画像で見るよりも退屈そうな表情。まあそうだよな。姉さんの別れた旦那の元教え子を住み込みで働かせてやってくれなんて言われたら、俺なら断る。
用があるからと簡単に紹介だけして帰る先生を二人で見送って玄関の鍵を閉めると、先生はリビングへと歩きながら俺を見ずに話し始めた。
「義兄さんは僕をいつまでも子供だと思っていますが自分のことは自分でできます。僕のことは気にせずに、まあ気が向いた時に少し家事をしてくれればいいですよ」
ちょうど言い終わるタイミングでソファに着いた先生は肘置きを枕にして横になった。
「義兄さんと会うと疲れるんですよね。30分ほどで起きるので使う部屋を選んでいて下さい。」
直後から深い寝息が響いた。
先生はそう言ったんだ。
うん。嘘ではなかった。鵜呑みにした俺が悪い。
信号が青に変わって歩き出そうとした瞬間、後ろから張りのあるおじさんの声がした。
「本山くん?」
振り返ると高校の時の担任が定食屋のドアから手を振っている。
5年振りの意外な場所での再会に俺は驚いて、小さく会釈をしながら駆け寄った。
「お久しぶりです!
お元気そうで」
俺の学年が卒業するのと一緒に定年退職したし見た目はそんな年齢なのに、なんか元気っていうか楽しそうっていうか。
先生が額を叩かれでもしたように頭を少し後ろに引きながら笑った。
「そんな言葉使いをするようになったか。
時間あるなら定食くらいご馳走するよ」
先生が作ってくれた隙間から店に入る。
「いいんすか?
ありがとうございます!」
軽く世間話をしながら料理を待って、食べ始めたら先生がまた額を叩かれたように頭を引いた。
「まだまだ食べ盛りか」
しまった。久々のまともな食事に我を忘れてしまった。でもここで先生に会えたのも何かの巡り合わせかもしれない。正直に話そう。
「実は勤め先が倒産したんです。実家も家計が厳しくて帰ってこられても困るって空気出されて、ここで転職先を探してるんですけどなかなか見つからなくて。
だからまともな食事は久しぶりで」
「そうか」
先生は頷くように俯いて、それから何かを思い出したように顔を上げた。
「そうだ!
もしかしたら就職先を紹介できるかもしれない」
俺にここで待つようにという手の動きをした後で席を立ち、店の外で電話をし始めた。
戻ってきた先生は笑顔だった。
「ここから二駅の所に弟が暮してるんだよ。洋館だから造りも広いし部屋数も多い。典型的な学者だから、住み込みで衣食住の管理をお願いできないかな?
満足な給料は出せないけど生活費が掛からないことを考えれば悪い話じゃないと思うよ?」
マジか!
昔から適当なこと言ってるけど、いざという時は頼りになったよな。
「ありがとうございます!」
俺はテーブルに両手をついて頭をさげた。
喉元過ぎればなんとやら。
高校時代に散々先生の適当な表現に振り回されてきたのに。
まず2駅って新幹線での話だった。「今から行こうよ」なんて言われて在来線だと思っちゃったよ。
そして何より重要なのは弟さんが学者じゃないということ。正確に言うと重要なのは学者ではないということではなく、小説家だということ。しかも俺が大ファンの。
画像で見たままのゴールデンレトリバーみたいな見た目。いまは画像で見るよりも退屈そうな表情。まあそうだよな。姉さんの別れた旦那の元教え子を住み込みで働かせてやってくれなんて言われたら、俺なら断る。
用があるからと簡単に紹介だけして帰る先生を二人で見送って玄関の鍵を閉めると、先生はリビングへと歩きながら俺を見ずに話し始めた。
「義兄さんは僕をいつまでも子供だと思っていますが自分のことは自分でできます。僕のことは気にせずに、まあ気が向いた時に少し家事をしてくれればいいですよ」
ちょうど言い終わるタイミングでソファに着いた先生は肘置きを枕にして横になった。
「義兄さんと会うと疲れるんですよね。30分ほどで起きるので使う部屋を選んでいて下さい。」
直後から深い寝息が響いた。
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