吸血鬼 詰め合わせ

ritkun

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無邪気×もじもじ(微エロ)

ホワイトデート 1

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『毎日遅くまで遊び歩いていた』

 クールで色気のある顔と軽い身のこなしのあるじ。そんな風に聞いたら夜の居場所はオシャレなお店か女の子の家って思うでしょ。

 山に登ったり海に潜ったり、あるじの遊びは本当に遊びだった。いや遊びじゃなかった。色んな素材を集めて必要な人に配っている。

 塩ってお清めのイメージがあるけど海は平気なんだな。まあ太陽も平気なくらいだから普通の人間だった俺の知識を参考にしてもしょうがないか。

 年末にあるじは俺に言った。
『お前が思ってることをはっきり言ってくれよ。俺とお前のことなんだから普通はどうかを勉強するよりそれで良くね?』

 なのにあるじは言ってくれない。

 ホワイトデーのお返しは何がいいのか訊いたら「あれは俺が貰ったんだよ」って言われた。きっとまた何か用意してしまっている。

 いつも余裕で怖いもの無しに見えるあるじにも1つだけ恐れていることがある気がしている。それは俺に恐れられること。

 だからいつも俺の体調や気持ちを考える。俺が我慢しないように、俺が怯えないように。

 チョコも俺に「食べて」って言ったらどうなると思う? って先に担当の退魔師さんに確認したらしい。俺が無理して頷くことはないかって。

 俺に運動をさせるのだって、鍛えないとあるじの魅了に掛かってしまうからだ。あるじたちの魅了は術ではなくアビリティで、俺の体と心が健康でなければあるじの意思に反して魅了されてしまう。

 俺は元の暮らしが貧しくて家庭菜園や近所の湧水を飲んでいたのがかえって良かったらしい。俺のこの気持ちは魅了に掛かっているわけじゃない。

 この館には俺たちより少し先に契約をした方がいて、運命の相手は余命わずかの子供だった。その子は操り人形みたいに忠実に自分のあるじの言葉に従う。ゆっくり回復していずれは普通に話せるようになるらしいし、今も二人の間では意思の疎通がそこそこできているのが救い。

 同居している方に頼まれて届け物をしてきたあるじは、シャワーを浴びてバスローブのままソファで寝てしまった。

 毎日遊び回っていた人にしてはバテやすくないか? 
 そう思ってそれとなく調べてみた。確かに契約前より運動量が減っているし、飲んでいる血の量も平均よりずっと少なかった。

 もっと飲んでいいって言ってもきっといつもの感じで流される。あるじが安心して満腹になれる状況、思いっきり動ける場所ならなお良い。そして俺は動かなくて済むなら最高だ。

 よし。これが俺からのホワイトデーのプレゼントだ。

 起きたら言おうと思いながら毛布を掛けようとしたらあるじが目を開けた。
「あれ? 寝ちゃったか」
「寝てていいけどこれ掛けて。今日は冷えるから」

 あるじは眠そうに体を起こした。
「いや、服着てベッドで寝る。もう3月なのにホント寒いな」
 自分の言葉で何か思い出したみたい。
「そういえばホワイトデー考えたんだけどさ、やっぱり食べ物だろ? 何がいい? 好きな物食べていいぞ?」
 ちょうどいいタイミングだ。バスルーム前の棚から服を取って、ドアを開けたまま脱衣所で着替えるあるじ。困った顔されたら立ち直れないから、姿が見えないうちに思い切って言ってみる。

「食べ物じゃないっていうか食べ物っていうか、行きたい所があって」
「いいけど、どういうことだよ」

 即答、ちょっと笑うような言い方。良かった。服を着て出てきたあるじに住所を書いた紙を渡す。
「この牧場で搾りたての牛乳が飲みたいです」
「ああ、そういうことか。分かった。頼んどくよ」

 あそこなら俺たちの地元にも近いからあるじの栄養になりやすい。それに最古参のかたの土地だから行きやすいし、まだあの辺りは雪が積もってる。あるじはスピード感のあるものが好きだし、俺も走るよりは消耗が少ない。完璧だ。
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