摘んで、握って、枯れて。

朱雨

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豁然

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どのくらい時間が経っただろうか。
南雲は涙が止まりそうにない。

疲れが頂上に達していたのだろう。
誰にも相談ができず、見届け人かのように自分だけが残される。
苦しいはずだ。
胸の奥に仕舞おうとしても、最初は何の苦もない。
だが、容量が満タンになると後は辛いだけだ。
溢れそうになった水を零さないようにする努力はできる。
しかし、溢れた水は元に戻ることはないし、それを伝ってどんどん零れていく。


「ずっと思ってたんだけど、ここの学校って奇病の患者が多過ぎじゃない? 他校がどうかは分からないけどね」


やっと冷静になった朝倉はゆっくり自分の疑問を紐解いていく。
その言葉に南雲も泣くのを辞める。


「私も……思ってた……」


南雲は鼻が詰まっているので鼻声だった。


「学校の立地問題か裏で何かが行われているか、のどちらかだと思うんだ」
「それも思ってた。でも、私は惹き付けられてるんだと思う」
「惹き付けられてる?」
「うん。帰巣本能にも近いかなって」
「じゃあ、俺の予想の前者が当たってるってこと?」
「そうだね。土地が関係していると思う。突飛なことを言うと、もう国や世界が関わってるかもね」
「はは。もしそうだったら、俺ら人間はもうモルモットってわけだ」


朝倉は突飛ではあるが可能性がある南雲の予想を笑う。
馬鹿にしているのではない。共感しているのだ。


「可能性って絞れないんだ。生きてる限りこの世の要因が全て可能性なんだもん。怖がってちゃ進めないよ」
「そうだね」
「これはね、私の親友が言ってたんだ」
「さっき言ってた……?」
「そう。もうこの世にはいないけどね」


朝倉は聞いてはいけないこと聞いている気がして引き下がろうとする。
それに気づいたのか、南雲は左手を上げて制する。


「完治しないで死ぬか体の1部を切断するかだった。迷わず前者を選んだよ」


南雲によると、南雲の親友である小鳥遊柚羽は死を迎えた。
治療したとしても完治せず、死を迎える。
その唯一の治療法は周りの人を殺すことであった。

朝倉は嫌な予感がした。
もし、小鳥遊が人を殺めていたら、と考えてしまう。

しかし、小鳥遊は殺さなかった。
自ら命を絶った。
その前夜、小鳥遊は南雲に明日の話をしていた。
話を聞いた南雲は私も着いていく、と言った。


「小春には大切な役割があるでしょ、って言ってくれたの」
「その役割って何か聞いていい?」
「うん。私が思うに、『伝承者』かなって」
「そっか。南雲さんにぴったりだね」
「え?」
「凄い辛い仕事だってことは分かるよ。でも、今日も南雲さんは生きてる。俺だったらすぐに死んじゃってるよ。それに、冷静に物事を考えるとこができるしね。うん、凄いことだよ」


朝倉は南雲のことを見つめ、微笑む。
照れたのか、南雲は朝倉がいる反対側に顔を反らし、膝の上に顔を乗せる。


「そんなことない。……でも、ありがとう」


素直に感謝できる少女はこちらを見る。


「あ、そうだ」


朝倉は何かを思い出した。


「どうしたの?」
「また質問で悪いんだけどさ」
「うん」
「他の奇病患者の匂いで花を吐き出しそうになったことある?」
「まだないかな。聞いたこともないかも」
「だよな」


朝倉は南雲に終業式の放課後の話をした。
女子とすれ違い、花を吐いたこと。
花吐き病の友人が緊急処置を行ってくれたこと。
水が怖いこと。


「その友人が植物状態、か。多分、武田君のことだよね」
「何で分かるの?」
「奇病者はお互いのこと分かるでしょ。朝倉君と仲良しなのってきっと同い年だと思ったから」
「そっか……。はは、やっぱり凄いな、南雲さん」
「話ズレちゃった、ごめんね。同じ病状じゃない奇病者同士が接触すると、稀に起こりそうだね。私は大丈夫だったけど」
「多分そうかも。香水のせいか分かんないけど、花の匂いはしなかった気がする」


真実はやはりまだ分からない。
未知なことがあり過ぎて、怖い。


「ちょっと調べてみるね」
「ありがとう」
「そろそろ戻ろっか」
「だね」


2人は教室に戻る。
あと10分で5時間目の授業が始まる。
まだ昼食は食べていない。

朝倉は明日南雲にグミを買っていこうと思っている。
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