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絶望
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「何だよこれ……」
それが朝倉の最初に発した言葉だった。
それしか言い様が無いくらい現実は残酷だった。
手紙によって叩き付けられた現実は誰にも救って貰えない、地獄のようなものだった。
朝倉の喉が鳴る。
固唾を飲んだようだ。
「武田……」
「見ない方が幸せだっただろ? 俺もそうだったよ」
武田の手紙に書かれている病状は以下の通りだ。
《花の種類・・・スノードロップ
病気になった原因・・・自分自身を信じられなくなったため
唯一の治療法・・・周りの人間を傷つけること
花を吐く際の応急処置・・・水の中に一定時間入ること
治療の結果・・・完治してすぐ植物状態になる
処置をしなかった場合・・・数ヶ月後植物状態になる》
「……どういう意味なんだろうな」
武田が続けて話をする。
「何が?」
「『植物状態』って。本当に心臓が動くだけで意識がないまま病床にいるのか」
朝倉は全身から血の気が引いた。
「本物の植物状態になるのか」
朝倉は震えが止まらず、また吐き出してしまう。しかし、普通の嘔吐である。
「うぇぇっ」
「おい、大丈夫かよ」
「ごべ……っ、うぇっ。ゲホッゲホッ!」
武田は優しく朝倉の背中を摩ってやる。
そして、また武田は口を開く。
「もし俺が本当に植物になったら、朝倉が俺を枯らしてくれよ」
「は……?」
「無理にとは言わないよ。俺のこと覚えていてくれるの朝倉だけだろうなって今思ったんだ」
武田は寂しい顔をしていた。
今まで経験してきた不幸も全部どうでもよくなる。
朝のSHRの開始のチャイムが鳴る。
「何か飲み物買ってこようか?」
「ん……。水……」
「おけ」
武田は自販機に行き、水を買う。
そしてすぐに朝倉がいる空き教室に戻る。
SHRが始まったからか、人の気配がしない。
「朝倉、買ってきたぞ」
「ありがと……」
買ってきてもらった水を飲もうと、ペットボトルのキャップを開けようとするが、手に力が入らない。
それに気付いた武田はキャップを開けて、朝倉にペットボトルを渡す。
「はぁ……はぁ……」
「こんなに苦しい思いするなら水に入ればいいじゃん」
「……だめなんだ」
「何が?」
「水。俺、水が苦手なんだ。あ、風呂に入るくらいは良いんだけど、プールとか川とか無理なんだよね」
「トラウマ、か」
「まあそんなもん」
「じゃあ俺と入ればいいじゃん。抱えて入れば怖くないだろ?」
「え、いや……? それはやったことないから分かんないけど……。え? マジで言ってる?」
朝倉は困った顔をする。
それが面白かったのか、武田は笑う。
「マジだよ。キツくなったら俺んとこに来てよ」
「うーん……。まぁ、気が向いたらな」
あと5分で1時間目が始まる。
文系は現代文で、理系は数学Ⅱ。どちらも遅れたら面倒な先生だ。
「よし。朝倉の様子も落ち着いたようだし、行くか」
手際の良い武田は全て綺麗に掃除してくれた。
「ありがとう。汚いものまで見せたし触らせたし……。今度何か奢るわ」
「まじー? ラッキー」
2人は空き教室を後にし、各々の教室に戻っていった。
今日も世界はどこも変わらず、いつも通り回っている。
日は昇るし、日は沈む。
朝も来るし、夜も来る。
おはようもおやすみも言えて、頂きますもご馳走様も言えた。
何も変わらない。
「武田と会えた?」
田中が声を掛ける。
「うん。何か急用があったっぽい」
「あーね」
朝倉が朝のSHRに来なかった理由を聞かず、田中はいつも通り接してくれる。
だが、1つ質問をした。
「なぁ、朝倉」
「何だー?」
「最近、よく人と絡むよな。別にそれが不思議なことだとは思わないよ。けど、何かあったのかなって」
核心をつかれたような気がした。
「何もないよ」
「嘘だよ」
田中は朝倉が目を伏せて笑うのを見逃さなかった。
朝倉は嘘をつく時、目を逸らすか伏せるかして下手に笑うのだ。
「……」
「……言えないならいいけど」
「……っ! 違う!」
バッと勢いよく顔を上げ、朝倉は田中の顔を見る。
やはり田中は困った兄のような顔をしていた。
「違うんだ……。違うんだよ……。まだ言えないけど……、絶対いつか言うから……」
「うん。待つよ」
田中は優しく朝倉の頭を撫でた。
その手の温かさに朝倉は泣きそうになった。
隠し事をしたくてしているわけではないから、より罪悪感に襲われる。
「はは。情けねー顔」
「笑ってんじゃねーよ。ばーか」
「痛ぇっ!」
朝倉は思いっきり田中の胸を殴る。
涙の代わりに首筋から汗が滴る。
それが朝倉の最初に発した言葉だった。
それしか言い様が無いくらい現実は残酷だった。
手紙によって叩き付けられた現実は誰にも救って貰えない、地獄のようなものだった。
朝倉の喉が鳴る。
固唾を飲んだようだ。
「武田……」
「見ない方が幸せだっただろ? 俺もそうだったよ」
武田の手紙に書かれている病状は以下の通りだ。
《花の種類・・・スノードロップ
病気になった原因・・・自分自身を信じられなくなったため
唯一の治療法・・・周りの人間を傷つけること
花を吐く際の応急処置・・・水の中に一定時間入ること
治療の結果・・・完治してすぐ植物状態になる
処置をしなかった場合・・・数ヶ月後植物状態になる》
「……どういう意味なんだろうな」
武田が続けて話をする。
「何が?」
「『植物状態』って。本当に心臓が動くだけで意識がないまま病床にいるのか」
朝倉は全身から血の気が引いた。
「本物の植物状態になるのか」
朝倉は震えが止まらず、また吐き出してしまう。しかし、普通の嘔吐である。
「うぇぇっ」
「おい、大丈夫かよ」
「ごべ……っ、うぇっ。ゲホッゲホッ!」
武田は優しく朝倉の背中を摩ってやる。
そして、また武田は口を開く。
「もし俺が本当に植物になったら、朝倉が俺を枯らしてくれよ」
「は……?」
「無理にとは言わないよ。俺のこと覚えていてくれるの朝倉だけだろうなって今思ったんだ」
武田は寂しい顔をしていた。
今まで経験してきた不幸も全部どうでもよくなる。
朝のSHRの開始のチャイムが鳴る。
「何か飲み物買ってこようか?」
「ん……。水……」
「おけ」
武田は自販機に行き、水を買う。
そしてすぐに朝倉がいる空き教室に戻る。
SHRが始まったからか、人の気配がしない。
「朝倉、買ってきたぞ」
「ありがと……」
買ってきてもらった水を飲もうと、ペットボトルのキャップを開けようとするが、手に力が入らない。
それに気付いた武田はキャップを開けて、朝倉にペットボトルを渡す。
「はぁ……はぁ……」
「こんなに苦しい思いするなら水に入ればいいじゃん」
「……だめなんだ」
「何が?」
「水。俺、水が苦手なんだ。あ、風呂に入るくらいは良いんだけど、プールとか川とか無理なんだよね」
「トラウマ、か」
「まあそんなもん」
「じゃあ俺と入ればいいじゃん。抱えて入れば怖くないだろ?」
「え、いや……? それはやったことないから分かんないけど……。え? マジで言ってる?」
朝倉は困った顔をする。
それが面白かったのか、武田は笑う。
「マジだよ。キツくなったら俺んとこに来てよ」
「うーん……。まぁ、気が向いたらな」
あと5分で1時間目が始まる。
文系は現代文で、理系は数学Ⅱ。どちらも遅れたら面倒な先生だ。
「よし。朝倉の様子も落ち着いたようだし、行くか」
手際の良い武田は全て綺麗に掃除してくれた。
「ありがとう。汚いものまで見せたし触らせたし……。今度何か奢るわ」
「まじー? ラッキー」
2人は空き教室を後にし、各々の教室に戻っていった。
今日も世界はどこも変わらず、いつも通り回っている。
日は昇るし、日は沈む。
朝も来るし、夜も来る。
おはようもおやすみも言えて、頂きますもご馳走様も言えた。
何も変わらない。
「武田と会えた?」
田中が声を掛ける。
「うん。何か急用があったっぽい」
「あーね」
朝倉が朝のSHRに来なかった理由を聞かず、田中はいつも通り接してくれる。
だが、1つ質問をした。
「なぁ、朝倉」
「何だー?」
「最近、よく人と絡むよな。別にそれが不思議なことだとは思わないよ。けど、何かあったのかなって」
核心をつかれたような気がした。
「何もないよ」
「嘘だよ」
田中は朝倉が目を伏せて笑うのを見逃さなかった。
朝倉は嘘をつく時、目を逸らすか伏せるかして下手に笑うのだ。
「……」
「……言えないならいいけど」
「……っ! 違う!」
バッと勢いよく顔を上げ、朝倉は田中の顔を見る。
やはり田中は困った兄のような顔をしていた。
「違うんだ……。違うんだよ……。まだ言えないけど……、絶対いつか言うから……」
「うん。待つよ」
田中は優しく朝倉の頭を撫でた。
その手の温かさに朝倉は泣きそうになった。
隠し事をしたくてしているわけではないから、より罪悪感に襲われる。
「はは。情けねー顔」
「笑ってんじゃねーよ。ばーか」
「痛ぇっ!」
朝倉は思いっきり田中の胸を殴る。
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