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7話
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暖かい陽気の春は終わり、暑くてジメジメする梅雨の季節に入った。
空模様はずっと良くないままで、雨が降ったり止んだりの繰り返しだ。
たまに見える太陽もすぐ顔を隠してしまう。
「梅雨やだー」
秋菜は机に頬ずえをし、足をバタバタさせる。
「前髪すぐはねるし、最悪だよね」
真夏も付け足す。
真夏と秋菜は湿気で髪の毛がはねるのが嫌なので、お揃いで髪の毛を団子に結っている。
「しかも暑いっていうね」
「早く夏来いー!」
「夏なったら海行きたいね」
「お、真夏もとうとう海に行きたくなった?」
真夏は秋菜に海が怖いということを伝えていた。
海で泳いだことも浸ったことも無い。
潮の匂いを嗅いだことがあるくらいの思い出。
砂浜まで降りず、道路の歩道やホテルから見たことがあるだけ。
浅瀬で秋菜の助けがあれば、海に入れるのではないかと思っている。足を付けるだけでも挑戦したいみたいだ。
「若いうちにな~って思ってね」
「真夏はまだまだ若いでしょ」
「そうなんだけどね。まあ、元気なうちに海行きたいな」
「行こう!」
「うん」
真夏は義足の調子も腰の調子も良くなったので義足の生活に戻った。
義足に戻っても保健室に健康観察をしに行くのは変わらない。
あの日から真夏は遠回りをせず、保健室に向かっている。またあの現場を見てしまったら羨ましくなってしまうだろうから。
「あ、私保健室行ってくるね」
「行ってらっしゃーい」
真夏は席を立ち、いつも通りの廊下を通って保健室に向かう。
しかし、今日は1年生の学年集会があるらしく、廊下が混み合っていた。
仕方なく保健室に行くには遠回りをしていかなければならないようだ。
「ふぅ……」
1、2ヶ月通らなかった廊下。
1、2ヶ月しか通わなかった廊下。
真夏はそんな廊下に懐かしさを感じる。
彼がいるかどうかは分からないが、緊張する。
この前まで立ち止まっていた場所からはたばこの匂いはしなかった。
(そりゃそうだよね。彼女といるとこなんて誰にも見られたくないよね)
真夏は心のどこかで安心していた。
冬馬がいたらいたで、少し気まずかっただろうから。
しかし、安心している真夏は意表を突かれる。
「おい」
冬馬が声をかける。
窓の下で座っていたのだ。
教室では話さないため、ちゃんと声を聞くのは久しぶりな男の声。
「え……? 明瀬君……?」
「何、そんなここにいるのおかしいかよ。死人見るような顔しやがって」
「だって春架ちゃんといるんじゃ……」
「いねーよ。春架とは何にもない」
「この前一緒にいたよね?」
「やっぱり通ったんだな、月宮。あれは勝手に付けられてただけだわ」
「2人とも近くに座ってたじゃん」
「あっちが勝手にくっついてきたんだ」
真夏は冬馬ともう話すことがないと思っていたので、今まで気になっていたことを次々と質問していく。
それに呆れたのか、冬馬は真夏の口を押さえる。
「俺にも訊かせて」
真夏は冬馬に口を押さえられたまま頷いた。
「なんでずっと来なかったんだよ」
解放された口で真夏は答える。
「春架ちゃんといい感じになってると思って」
「はぁ~~~」
冬馬は頭を抱えてその場にしゃがみ込む。
「え、何々?! 私、変なこと言った?!」
「言ってねーけど言ってる」
「いやどっち」
「どっちも」
立ち上がった冬馬は真夏の頭に手を置く。
「またここに来てよ」
「いいの?」
「いいよ。月宮と話すの楽しいから」
「ふふ。嬉しい。じゃあまた来るね」
「おうよ」
じめじめとした空気と朝から曇っている空模様がどうでも良くなる。
綺麗に咲いていた桜は姿がもう無い。
青々と茂っている葉が元気な姿を象徴しているみたいだ。
空模様はずっと良くないままで、雨が降ったり止んだりの繰り返しだ。
たまに見える太陽もすぐ顔を隠してしまう。
「梅雨やだー」
秋菜は机に頬ずえをし、足をバタバタさせる。
「前髪すぐはねるし、最悪だよね」
真夏も付け足す。
真夏と秋菜は湿気で髪の毛がはねるのが嫌なので、お揃いで髪の毛を団子に結っている。
「しかも暑いっていうね」
「早く夏来いー!」
「夏なったら海行きたいね」
「お、真夏もとうとう海に行きたくなった?」
真夏は秋菜に海が怖いということを伝えていた。
海で泳いだことも浸ったことも無い。
潮の匂いを嗅いだことがあるくらいの思い出。
砂浜まで降りず、道路の歩道やホテルから見たことがあるだけ。
浅瀬で秋菜の助けがあれば、海に入れるのではないかと思っている。足を付けるだけでも挑戦したいみたいだ。
「若いうちにな~って思ってね」
「真夏はまだまだ若いでしょ」
「そうなんだけどね。まあ、元気なうちに海行きたいな」
「行こう!」
「うん」
真夏は義足の調子も腰の調子も良くなったので義足の生活に戻った。
義足に戻っても保健室に健康観察をしに行くのは変わらない。
あの日から真夏は遠回りをせず、保健室に向かっている。またあの現場を見てしまったら羨ましくなってしまうだろうから。
「あ、私保健室行ってくるね」
「行ってらっしゃーい」
真夏は席を立ち、いつも通りの廊下を通って保健室に向かう。
しかし、今日は1年生の学年集会があるらしく、廊下が混み合っていた。
仕方なく保健室に行くには遠回りをしていかなければならないようだ。
「ふぅ……」
1、2ヶ月通らなかった廊下。
1、2ヶ月しか通わなかった廊下。
真夏はそんな廊下に懐かしさを感じる。
彼がいるかどうかは分からないが、緊張する。
この前まで立ち止まっていた場所からはたばこの匂いはしなかった。
(そりゃそうだよね。彼女といるとこなんて誰にも見られたくないよね)
真夏は心のどこかで安心していた。
冬馬がいたらいたで、少し気まずかっただろうから。
しかし、安心している真夏は意表を突かれる。
「おい」
冬馬が声をかける。
窓の下で座っていたのだ。
教室では話さないため、ちゃんと声を聞くのは久しぶりな男の声。
「え……? 明瀬君……?」
「何、そんなここにいるのおかしいかよ。死人見るような顔しやがって」
「だって春架ちゃんといるんじゃ……」
「いねーよ。春架とは何にもない」
「この前一緒にいたよね?」
「やっぱり通ったんだな、月宮。あれは勝手に付けられてただけだわ」
「2人とも近くに座ってたじゃん」
「あっちが勝手にくっついてきたんだ」
真夏は冬馬ともう話すことがないと思っていたので、今まで気になっていたことを次々と質問していく。
それに呆れたのか、冬馬は真夏の口を押さえる。
「俺にも訊かせて」
真夏は冬馬に口を押さえられたまま頷いた。
「なんでずっと来なかったんだよ」
解放された口で真夏は答える。
「春架ちゃんといい感じになってると思って」
「はぁ~~~」
冬馬は頭を抱えてその場にしゃがみ込む。
「え、何々?! 私、変なこと言った?!」
「言ってねーけど言ってる」
「いやどっち」
「どっちも」
立ち上がった冬馬は真夏の頭に手を置く。
「またここに来てよ」
「いいの?」
「いいよ。月宮と話すの楽しいから」
「ふふ。嬉しい。じゃあまた来るね」
「おうよ」
じめじめとした空気と朝から曇っている空模様がどうでも良くなる。
綺麗に咲いていた桜は姿がもう無い。
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