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今日の天気は晴天。良い春日和である。
鼻いっぱいに草花の香りを感じる。
「あっれ……。おかしいなぁ……」
今この少女が何をしているかというと、スロープが外れかかったドアの前で車椅子で強引に出ようとしているところだ。
放課後なので、クラスメイトは部活に行ってしまっていなかった。
「降りるかぁ……」
机にうつ伏せになって寝ている1人を覗いては。
車椅子から降りようとする少女の肩に温かい感触がする。
「お?」
少女がその手の主を見ると、眠っていた少年だった。
少年はまだ眠そうだからか、半目だけ開いて、眉にしわを寄せている。
「座ってろ。ほら」
少年は足で雑にスロープを元の位置に戻す。
そして、優しく車椅子を押し、教室から出してくれる。
「ありがとう、明瀬君」
「礼なんていらねーよ」
少年の名前は明瀬冬真。
陽キャと分別されるグループにいる。
しばしば授業にいないことから、どこかの空き教室やトイレで女性とニャンニャンしてるという噂がある。
「眠りの邪魔しちゃってごめんね。またね~」
冬真は少女の言葉を無視して、再び教室の中に消えていった。
(何なの~! 私、もしかして嫌われてたりする?!)
春の夕方はまだ暗くなるのが早い。
午後5時半。視界に映るもの全てがオレンジ色に染まっている。
グラウンドにある桜の蕾はまだ固く閉じていて、開くことを知らない。
月宮真夏という少女は迎えの車まで車椅子を漕いでいく。
「おっはよ~、真夏!」
「おはよ、秋菜!」
真夏の友達である前原秋菜は真夏と同じクラスである。
「今日も車椅子かぁ。義足の調子悪いの?」
「うん。それもなんだけど、最近腰痛くてさ。まだまだ若くいた~い」
「あはは! お姉さんがその腰揉んでやろうか~?」
「その手つき、やらし~」
「うっへっへ~」
真夏は交通事故で膝から下を失い、義足または車椅子の生活をしている。
秋菜はそのことを全て理解して真夏と接してくれている。いくら寒くてもソックスを履いて登校してきてくれるし、誕生日プレゼントには沢山のズボンを送ってくれる。
「ソックス、寒くない?」
「私、足太いから寒くないよ。何のために脂肪身にまとってると思って~」
「ふふっ。秋菜は足太くないよ」
「はいはーい。お世辞ありがとうございまーす。だってご飯が美味しいから悪いんでーす」
「私はいっぱい食べる秋菜が好き~」
「それCMのやつじゃん! 私、頬っぺに付けないよ!」
「ほら席に着けー。HR始めるぞー」
教室の前のドアから担任の先生が入ってくると、立っていたクラスメイトたちが座り始める。
いつもと同じ確認。同じお知らせ。毎週あまり変わることの無い今日の日程。
変わり映えしない景色も見慣れてきた。
真夏は膝に掛けていた毛布をグイッと上げる。
桃色の生地にピンクや黄色の花が沢山付いている毛布を使っている。秋菜と2人で選んだものだ。
「今日は欠席0だな。数学のプリントの提出、今日までだぞ。俺は言ったからなー」
担任の先生は数学担当である。
プリントを出さないと、呼び出されて目の前で宿題のプリントを解かせるらしい。
圧力が半端ないだろう。
朝のHRが終わり、1時間目の授業の準備をし始める。
1時間目の授業は現代文だ。
今は『山月記』を読んでいる。
自尊心と羞恥心で人食い虎になれる李徴が少し羨ましい。無我夢中になって走り回りたい。
真夏はそう思っている。
「ふぁ~」
「大きな欠伸を目の前でするんじゃない、明瀬」
「うっす」
出席番号順の席の配置のため、冬真は最前列の廊下側である。
現代文の先生に呆れたように注意をされる。
「で、この自尊心って言うのはプライドと似た意味で」
何も無かったかのように授業は進められた。
次の時間、教室に冬真の姿はなかった。
鼻いっぱいに草花の香りを感じる。
「あっれ……。おかしいなぁ……」
今この少女が何をしているかというと、スロープが外れかかったドアの前で車椅子で強引に出ようとしているところだ。
放課後なので、クラスメイトは部活に行ってしまっていなかった。
「降りるかぁ……」
机にうつ伏せになって寝ている1人を覗いては。
車椅子から降りようとする少女の肩に温かい感触がする。
「お?」
少女がその手の主を見ると、眠っていた少年だった。
少年はまだ眠そうだからか、半目だけ開いて、眉にしわを寄せている。
「座ってろ。ほら」
少年は足で雑にスロープを元の位置に戻す。
そして、優しく車椅子を押し、教室から出してくれる。
「ありがとう、明瀬君」
「礼なんていらねーよ」
少年の名前は明瀬冬真。
陽キャと分別されるグループにいる。
しばしば授業にいないことから、どこかの空き教室やトイレで女性とニャンニャンしてるという噂がある。
「眠りの邪魔しちゃってごめんね。またね~」
冬真は少女の言葉を無視して、再び教室の中に消えていった。
(何なの~! 私、もしかして嫌われてたりする?!)
春の夕方はまだ暗くなるのが早い。
午後5時半。視界に映るもの全てがオレンジ色に染まっている。
グラウンドにある桜の蕾はまだ固く閉じていて、開くことを知らない。
月宮真夏という少女は迎えの車まで車椅子を漕いでいく。
「おっはよ~、真夏!」
「おはよ、秋菜!」
真夏の友達である前原秋菜は真夏と同じクラスである。
「今日も車椅子かぁ。義足の調子悪いの?」
「うん。それもなんだけど、最近腰痛くてさ。まだまだ若くいた~い」
「あはは! お姉さんがその腰揉んでやろうか~?」
「その手つき、やらし~」
「うっへっへ~」
真夏は交通事故で膝から下を失い、義足または車椅子の生活をしている。
秋菜はそのことを全て理解して真夏と接してくれている。いくら寒くてもソックスを履いて登校してきてくれるし、誕生日プレゼントには沢山のズボンを送ってくれる。
「ソックス、寒くない?」
「私、足太いから寒くないよ。何のために脂肪身にまとってると思って~」
「ふふっ。秋菜は足太くないよ」
「はいはーい。お世辞ありがとうございまーす。だってご飯が美味しいから悪いんでーす」
「私はいっぱい食べる秋菜が好き~」
「それCMのやつじゃん! 私、頬っぺに付けないよ!」
「ほら席に着けー。HR始めるぞー」
教室の前のドアから担任の先生が入ってくると、立っていたクラスメイトたちが座り始める。
いつもと同じ確認。同じお知らせ。毎週あまり変わることの無い今日の日程。
変わり映えしない景色も見慣れてきた。
真夏は膝に掛けていた毛布をグイッと上げる。
桃色の生地にピンクや黄色の花が沢山付いている毛布を使っている。秋菜と2人で選んだものだ。
「今日は欠席0だな。数学のプリントの提出、今日までだぞ。俺は言ったからなー」
担任の先生は数学担当である。
プリントを出さないと、呼び出されて目の前で宿題のプリントを解かせるらしい。
圧力が半端ないだろう。
朝のHRが終わり、1時間目の授業の準備をし始める。
1時間目の授業は現代文だ。
今は『山月記』を読んでいる。
自尊心と羞恥心で人食い虎になれる李徴が少し羨ましい。無我夢中になって走り回りたい。
真夏はそう思っている。
「ふぁ~」
「大きな欠伸を目の前でするんじゃない、明瀬」
「うっす」
出席番号順の席の配置のため、冬真は最前列の廊下側である。
現代文の先生に呆れたように注意をされる。
「で、この自尊心って言うのはプライドと似た意味で」
何も無かったかのように授業は進められた。
次の時間、教室に冬真の姿はなかった。
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