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第377話 短い旅の終わり
しおりを挟むお婆ちゃんとお昼を食べました。
私は小金貨1枚をくれたお婆ちゃんとえらく仲良くなりましたとも。ええ、私は単純、現金な女なのです。
「──え、お婆ちゃんも〝大都市エルクステン〟に行くんですか? その格好で?」
いえ、格好はあまり関係ないのですが、畑仕事のまんまの格好で鍬まで持って、山を越え、街を越え、年配のお婆ちゃんが田舎から大都会へとなれば結構珍しい部類なのではないでしょうか? アグレッシブです。
「友人に会いに行くのよ、重い病気だったの」
「なるほど、そうですか」
私は納得しました。
「重い病の友人にとは大変なことで」
「でも、私も数年振りにあうから、楽しみなのよ。お嬢さんは何をしに〝大都市エルクステン〟へ?」
「そうですね。仕事の面接でしょうか? いえ、まだそこまではいってませんね。強いて言えば、夢を叶える為の小さな小さな一歩を踏み出しにです」
他愛の無い会話です。食事が終わっても、私は竜車の発車時間までお婆ちゃんと会話をしていました。
……竜車に乗ると、お婆ちゃんは寝てしまいました。
疲れていたのでしょうか、ぐっすりです。
(私、本当に都会に行くんですね……)
ゴドゴトと揺れる竜車の中、私は目的地である〝大都市エルクステン〟を思い、夢を膨らませます。
新土地、就職、夢、普通の生活に必要なお金。そんな物が私の手の中に入ってくる妄想をします。
妄想は楽しいです。惨めな自分を慰めてくれます。
もしも、もしもです。
全然期待なんてしていませんが。
もしも私が〝大都市エルクステン〟で全うな職を得られ、ユキマサさんのお話通り、宿も食事も手に入ったら──私の人生は驚くべき変化をします。
(何だかポワポワしてきました)
じたばた、じたばた、と少し足をバタつかせます。
──ッ、乗客の皆さんに変な目で見られました。
笑われました。反省です。恥ずかしいです。
ユキマサさん、変な人でしたね。良い人でしたが。
クレハさん、可愛い人でしたね。優しい人でした。
また会えるでしょうか?
また会いたいものです。
ゴトゴトと、竜車に揺られること更に4時間──
う、腰がいたいです。お婆ちゃんはまだ寝てます。
生きてますよね? あ、よかった。息をしてます。
その時は突然として訪れた。
──竜車がガドンと止まる。
「!?」
急停車した竜車に私を含む乗客たちに動揺が走る。
何だろう、胸騒ぎがします。
とても嫌な、嫌な予感がする。
荷台が出入り口が蹴り破られる。その後に、まあ如何にもな悪党が10人も乗り込んで来ます。
「盗賊だぁ!!」
「キャー!!」
「うるせぇな。これからお前たちは奴隷として売られるんだ。諦めな──っと、若い女もいるな? そっちは少し楽しませて貰ってから売るとするか。やれ」
盗賊が私を含めた乗客の人たちを取り押さえる。
ダメです。為す術がない。
一切の戦力を持たない私たちは為すがままだ。
逃げなきゃ……だ、ダメだ。
足がすくんで動けません。
盗賊の男の手が私の服に近づいてきます。
(──ああ、ダメだ。もう逃げられない……)
こうして夢に見た私の短い旅はここで終わった。
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