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第376話 夢の旅路
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私はユキマサさんとクレハさんと別れた後、停竜所へと向かっていました〝大都市エルクステン〟行きの乗合竜車に乗るためです。
昔母に聞きました、善は急げと──それに他にやる事も今日はこれと言って特にありません。
「──すいません。乗ります。乗りまーす!」
発車寸前の竜車を何とか止めることに成功しました。運転手さんに〝大都市エルクステン〟までと行き先を告げます。料金は後払い。アーメジスト山脈を抜け〝ルスサルペの街〟経由で向かうらしい竜車は少しばかりの長旅になりそうです。
竜車の荷台に座ると私以外の乗客は8人。女性が4人男性が4人です。縄張り意識の高く、人見知りの私ですが、こればかりは我慢です。致し方ありません。
ガタガタ、ゴトゴト。お世辞にも乗り心地がいいとは言えません。御者席ならまだマシなのでしょうが。
昼を過ぎた頃、湖の傍らで竜車は休憩を取ります。
皆は各自に遅めのお昼です。私の昼は出掛けに買ってきた10個で銅貨1枚の焦げたり欠けたりしたパン。
ユキマサさんにお金をいただきましたが、貧乏癖は抜けません。お金は大切に使います。
ああ、朝のお米や味噌のスープ、果てには昨日の夢のようなステーキが早くも懐かしいです。もぐもぐ。
「──? どうしました、おばあちゃん?」
老人です。老人が現れました。
白髪頭の何故この竜車に乗っているか分からない、畑仕事の格好(鍬まで持ってます)──そんなおばあちゃんが困っている理由。
「ああ、すいません。眼鏡を落としてしまってね」
地面に膝を着け「メガネ、メガネ」と探している。
「私、手伝いますよ。どんなメガネで──
あった。メガネだ。綺麗なメガネがこんな山の中に落ちてる理由が他に見当たらない。万事解決です。
「はい、これですか? もう失くさないでくださいね」
「ご親切にどうもありがとうございます。助かりました。魔王戦争で亡くなった娘が買ってくれたもので、これがないと私は寂しくて明日も生きていけません」
本当に大切な物のようで、おばあちゃんは両手で優しく包むように眼鏡を抱き締めている。
(この気持ちはよく分かる。私だってそうだ)
今着ている継ぎ接ぎだらけのロングスカート。生前の母から貰った物だ。買って貰ったばかりの頃は大きすぎて着れなかったけど今はピッタリだ。代わりの無い思い出の品という物はあるんです。大事なんです。
私は一生、この服を大切にしていきます。服として着れなくなったらハンカチにでもしましょう。とにかく捨てるという選択肢は私の中に絶対にありません。
「お嬢さん、何かお礼をさせてくださいな」
「では、銅貨1枚です。壊れなくて良かったですね」
「お陰様で。私の気持ちです。受け取ってください」
渡されたのは小金貨1枚だった。
私は目を向く。だって小金貨1枚なんですから。
「おばあちゃん、銅貨1枚です。これは小金貨ですよ。ボケちゃったんですか?」
「いいえ、小金貨1枚で間違いありません。どうぞ受け取ってくださいな」
「……本当にいいんですか? 貧乏な私は遠慮無く貰ってしまいますよ?」
臨時収入とはこういうことを言うのでしょうか?
ああ、助かります。旅の幸先は良さそうです。
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