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第352話 シナノの家
しおりを挟む食事、布団無し、床は地面、トイレは別料金という、あまり聞いたことの無いシナノの宿の提示に俺は考え込む。まあ、銀貨1枚ならそんなもんなのか?
素泊まりにしても、俺の知る素泊まりからは頭一つ抜けて素泊まりだな。
「お前、俺に関わりたくなかったんじゃねぇのか?」
「乗り掛かった船です。お金も稼げますし」
「どうする、クレハ?」
「私はユキマサ君の判断に任せるよ。ユキマサ君の旅だしね。行き先も、泊まり先も、目的も私はどこまでも付いてくよ」
「そうか、じゃあ、シナノ世話になっていいか?」
「別にお世話はしませんよ? 貴方達が勝手に泊まって行くだけで、オールセルフサービスです。トイレは家の裏に別に建ってます。1回の使用で銅貨1枚です」
「分かった、二人で銀貨2枚、前払いだ」
銀貨2枚を渡すとシナノは「チップ期待してます」と、言いつつ、しっかりと銀貨を受け取った。
「あ、私、パン屋の仕事の時間です!」
「へぇ、パン屋なのか?」
「はい、バイトですが……私は5時間したら戻ってきますのでゆっくりしていて下さい。喉が渇いたら水は直ぐ近くの森に湧き水があります。これは無料です」
そう言い残し、シナノは家を出ていく。
「さて、やる事が無くなったな?」
今日は街は出歩け無いし。
てか、家! 家を探したかったんだよ?
大き過ぎない小さな目の家でいいんだが。
予算はロキやアリスのお陰でたっぷりある。
「そうだね。私も連れ去られてる事になってるからあまり下手な動きもできないしね」
「シナノが帰ってくるまでに夕飯でも作るか?」
「あ、賛成。私、ユキマサ君の国の料理がいいな?」
じーっと、クレハは上目遣いで見てくる。
「じゃあ、何にするか? すき焼きとかどうだ?」
「すき焼き?」
クレハの頭の上に〝?〟があがる。
「知らないって事は無いのか? この世界にすき焼きは──簡単に言うと鍋だな。あ、肉も入るぞ?」
てか、メインだよな。肉は──すき焼きの。
その時、クレハの目がキラリと光った気がした。
「私、それがいい! あ、でも。毎食お肉って言うのは贅沢過ぎかも……」
「まあ、あるもんで作るしな。追加で買い出しに行くワケじゃないから、そこは少し多めに見てくれよ」
「あ、ごめん。というか、私の許しは必要ないでしょ? うー、でも、私もお肉食べたいっ!」
肉大好きなクレハは贅沢と言いつつも、本心では食べたいみたいだ。
生真面目な性格なのか葛藤してはいるが。
「それに俺が逃亡者なのを知ってて泊めてくれたんだ、シナノには宿代とは別に何か豪華な食事ぐらい贈っても罰は当たらないだろう?」
「うん、そうだね。賛成! 料理、私も手伝うね!」
と、クレハは立ち上がり、気合いを入れる。
今日は肉を多めにしとくかな。
元いた世界ではベジタリアンな理沙は野菜やキノコばかりであまり肉を入れてくれなかったし。
まあ、あれはあれで普通に美味かったんだけど。
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