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第330話 月の夜の餞別
しおりを挟む──大都市エルクステン
壁外・鈴蛍の池付近──
「──全隊、戦闘準備、武器を構えよ!」
大きな馬に乗ったガーロックが指揮を取る。
厳格そうな顔を更に険しくする。
「全隊、前進! 目標〝国狩り〟──稗月倖真の確保! 失敗は許さん! 進めェ!!」
500名を越える赤茶色の鎧の憲兵が進軍する。
「ギルド騎士の援軍はまだかね?」
「ハッ──現在、ギルドマスター──ロキ・ラピスラズリ殿に要請しておりますが、返答は無いとのこと」
ふむ、と、眉をしかめるガーロック。
「これ以上、時間が経てば奴に逃げられるだろう。ここにいる我々だけで、対処せねばならんようだね」
ヒュン──と、風が吹いた。強い風だ。
「「「「「ぐわあぁぁァァァァァ!!」」」」」
憲兵が飛んで来る。
比喩ではない。
ガーロックの後方へと、鎧を合わせれば100kgは優に越える、憲兵隊が疾風に飛ばされているのだ。
大竜巻でも起こったか──と、考えたガーロックだが、次の瞬間にそんな考えは吹き飛んだ。
「──やぁ、いい夜だね。月も凄く綺麗だ♪」
凛と響く少女の声、何処からともなく、いつの間にか憲兵隊の目の前に現れた白フードを被った紫色の髪の少女は場違いな迄に落ち着いて話しかけてきた。
「誰だね? 我々を誰か、承知の上での攻撃か?」
ガーロックが白フードの少女に向け、鋭く睨みを利かせ返事を返すが、その額には汗が滲んでいる。
「うん、貴方を足止めに来たんだ。ガーロック・サカズキンさん。私のことは白娘とでも呼んで貰おうかな、よろしくね♪」
──強い、この少女は己よりも強い。
そうガーロックは瞬時に見抜いた。
同時に、今この少女と戦えるのは自分だけだと。
すると不意にガーロックの耳元で声が響いた──
「どうしたの? ボーッとしてると死んじゃうよ?」
「──ッ!!」
反射的にガーロックは馬から飛び降りた。
瞬時に腰の剣を抜く。
「あはは。冗談、冗談、殺さないって」
ガーロックは剣に魔力を込める。
先手必勝、相手が本気を出してない間にケリを着けようと、そう考えた上での攻撃だった。
手加減はしない、全力でこの一撃に賭ける!
狙うは少女の首──殺す気で行く。
刹那に間合いを積め、ガーロックの全力の魔力を纏った剣の刃が白娘の首を的確に捕らえた!
……筈だった。
「うん、凄い♪ 流石はエルクステン屈指の実力者だ──〝月虎〟の名は伊達じゃないね♪」
対する白娘は素手──素手だ。
魔力を込めた指のスキマを閉じたパーで、白娘は、剣先からガーロックの刃を片手で受け止めている。
戦いの余波で旋風が舞う。
「──バカなっ……!?」
ガーロックは目を見開き、自分の剣先をじっと見ている。その顔を一言で表すなら面白い迄に『信じられない』と、言った顔をしている。
「ガーロックさん、早く引っ込めないと、高そうな剣、折っちゃうよ?」
白娘はガーロックの剣の平をそっと指で撫でる。
うっ……と、渋い顔をしながら剣を引っ込めるガーロックは次の攻撃は何も出来ない。
降参さながらに剣を鞘に収めるしかなかった。
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