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第322話 エメラルドの約束21
しおりを挟む──花と風の街〝ルベンダ〟──
「私、エルフの国以外だと初めての街です」
「私たちはこの道を通る時は毎回寄るよ。治安も良いし、屋台も色んな店が毎回入れ替わったりしてて楽しいんだ。こないだのクレープ屋さん美味しかったな」
味を思い出してか、シュナさんは頬っぺたに手を当てて、ニヤァと可愛らしく微笑む。
そもそもクレープって何だろう? ぶどう?
んー。分かんない。
街につくと竜車を止め、荷台を降りる。
シュナさんが手を繋いでくれた。
「行こ、エメレアちゃん!」
手を引かれ街を歩く。皆の目的は屋台通り、今日はここで昼食らしい。私は食べなくていいかな。お金もかかるし。今は節約しないといけない。
「エメレアちゃん、好きな物、買ってあげるよ? 何食べたい? ──遠慮しないでね?」
「そんな悪いです。どれも銅貨5枚はしますし!」
「うん、まあ、それぐらいじゃない? 銀貨1枚ぐらいまでなら奢ってあげるよ」
「ぎ、銀貨1枚!?」
私と兄さんでお腹いっぱい4日は暮らせる額だ。
「冒険者稼業なんて、強くなきゃあんまり儲からないけど、トアが上手くやってくれてるお陰で、私でもそこそこは稼ぎはあるんだ。だから遠慮しないで」
「す、すごい……お、お金持ち、大人ですね……!」
惜しみ無い称賛を私は贈る。
う、嬉しい。何よりも気持ちが嬉しい。
昨日会ったばかりの私に銀貨1枚分も奢ってくれるなんて、これがシュナさんじゃなければ、何か裏があると確信して速攻ダッシュで逃げてる所だ。
「私、クレープ? って言うの食べてみたいです」
そう言うとシュナさんは「私も!」と、言い、私の手を引っ張る。
「トア、エメレアちゃんとクレープ食べてきます」
「この街は治安は良い方だけど、気を付けてね!」
はーい、とシュナさんが返事をし、私に微笑む。
賑わう露店通りを進むと色んな食べ物がある、美味しそうだけど、どれもこれも値段が私の基準より5倍ぐらい高くて頭がクラクラしてきた。
「──エメレアちゃん、ここだよ? 何にする?」
「わ、えっと、一番安いので……」
「遠慮しなくていいのに、お勧めで私が決めちゃうね──あ、すいませーん、シンデレラストロベリー2つください。ホイップ増しでお願いします!」
シンデレラストロベリー、ホイップ増し──
(ど、銅貨8枚……た、高い……)
銅貨が8枚って事は銅貨が8枚で……
銀貨を1枚出すと銅貨が2枚返ってきて……
銅貨1枚で普段の私の食事2食分で……
と、とにかく私的にはとても高価な品物だ!
「──はい、お待ちどうさま、シンデレラストロベリーのホイップ増し2つね!」
年配のおばさんがクレープを渡してくる。
凄く甘い匂いがする。嗅いだことの無い匂いだ。
「わー! ありがとうございます! はい、エメレアちゃん!」
「あ、ありがとうございます」
近くのベンチに座り、クレープを食べる。
「凄い、雲みたい!」
ホイップを初めて見る私は目を輝かせる。
たっぷりの綺麗な白色のクリームに胸を踊らせる。
「えへへ、でしょ? さぁ、どうぞどうぞ!」
思いのままにクレープを口に運ぶ私──
「──!!」
(美味っしい!! 何これ!!)
パク、パクりと次々と口にクレープを運ぶ私を嬉しそうに見て、自身もクレープを口に運ぶシュナさん。
私は夢中で食べた、こんな甘い物は初めて食べた。
「ご、ご馳走さまでした!」
「どう? 美味しかった?」
こくこく、こくこく。
私は必死に頷く。
「よかったぁ! それにエメレアちゃん、初めて笑ってくれたね。可愛い笑顔だね、私、好きだな!」
そういえば、兄さんが亡くなってから初めて笑えた気がする。恐るべし……甘い物。
「すいません、美味しくて、つい……」
「全っ然、謝ること無いよ。また来ようね!」
また来ようね! そんな言葉が今の私には深く響いた。
「うぐ……ひぐ……」
「わわ、私何か変なこと言っちゃったかな!?」
「違うんです……来たいです。シュナさんと、また一緒にクレープを食べに! 今度は私がお金を出します」
「気にしなくて良いんだよ? 私のがお姉さん何だからクレープくらい10個、20個でも奢っちゃうよ!」
笑うシュナさんに釣られて私も笑った。
兄さんが亡くなってからボヤけてた、この世界がシュナさんのお陰で少しだけ、明るく色付いて見えた。
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