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第304話 エメラルドの約束3
しおりを挟む──夕刻。
帰宅した私と兄さんは夕食を作る。
今日のメニューは凄く豪華、キジ鍋だ。
手慣れた作業で兄さんがキジを捌いていく。
私は山菜を切り、火を起こし、鍋に水と塩、切った山菜を入れる。
「ごめんね、エメレア〝火の結晶〟も買えればよかったんだけど……」
家は世間でいう貧乏だ──〝様々な結晶〟も何とか、なけなしのお金を捻出して、今の生活に一番必要である〝浄化の結晶〟を買うだけだ。
「ううん、大丈夫。私、火起こし好きだから」
水は湧き水が、光りは月明かりが、火は火起こしをすればいい。
もう少し大きくなったら、私も付与魔法を勉強しよう。そうすれば〝様々な結晶〟を魔力結晶さえあれば自分で作ることが可能だ。兄さんも喜んでくれる筈。
鍋が煮えてきた、キジ肉も鍋に入れ更に煮る。
その間に私は醤油と酢と野生のレモンでポン酢を作った、こないだリョク兄さんに教わった調味料だ。
これが鍋にとっても合う。
そんなことを考えてたらお腹が減ってきた。
なんせ、久々の今日は大猟だ。
今日はお腹いっぱいまで食べられる。
リョク兄さんも今日はお腹いっぱいになってくれるといいな。いつもは私にばかりごはんをくれるから。リョク兄さんはあまりごはんを食べてない。
去年の冬、お金も無く、ごはんも満足に食べられない時にリョク兄さんは私に心配かけないようにそれを黙って、ある食べ物は全て私にくれて、自分は水と塩だけで過ごしていたのを知った時は、自分の無力さとリョク兄さんへの申し訳なさで涙が止まらなかった。
「リョク兄さん、お鍋できたよ! 食べよ!」
「ん~。いい匂いだね! そうだね。冷めない内にいただこうか、エメレア」
いただきますをして、鍋を食べると──勿論、頬が落ちるくらい美味しい! チラリと私が向かいを見ると、リョク兄さんも美味しそうに笑ってキジ鍋を食べていた。そんな兄さんを見るのが私は楽しかった。
──大満足の夕食だった。
兄さんもキジ鍋をいっぱい食べてくれた。それが私は本当に嬉しかった。私の分まであげたくなる。
鍋を片付けた後は、食後のお茶……
は、無いので食後の水だ。
雲の無い夜空、外に出て草の地面に寝っ転がり、私と兄さんは星を見る。
「綺麗」
思わず本音が出る。空が明るい──これは太陽の明るさではなく、月明かりと小さないくつもの星が輝いてるからだ。あの星には何があるんだろう?
川のようになっていたり、列を成していたり、様々な星が、大空で踊っているように見えた。
そんな話をリョク兄さんに言うと「あはは。星が踊ってるように見えたのかい? でも、言われてみると私もそう見えて来たよ」と、楽しそうに笑う兄さん。
気づけば、小一時間、星空を眺めていた。
そして気づいたら寝てしまっていた。
「こんな所で寝ていたら風邪を引いてしまうよ?」
誰かに身体を持ち上げられ、背負われている感覚がある。きっと兄さんだ。兄さんが寝てしまった私を家まで運んでくれてるんだ。
重くないかな? また兄さんに手間を掛けさせてしまった。でも、心地よすぎて睡魔に勝てない──
ごめんね、兄さん、いつもありがとう。
そんなことを兄さんの背中で思う。微睡みの中で。
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