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第199話 生命の秘薬
しおりを挟む「嘘だろ……」
俺はその場に膝を着く。
「どういうことだ! 糞爺! 〝天聖の遺産〟で、婆ちゃん治ったんじゃねぇのかよ!」
「間に合わなかったんじゃ……魔王1人倒すまで魅王の体は持たなかった」
悔しそうな糞爺の顔を見て俺は言葉を失う。
「ユキマサ……」
泣き声の理沙が俺の名前を呼ぶ。
「……ハッ……」
俺は思い出したかのように〝アイテムストレージ〟から〝天聖の遺産〟の1つである〝生命の秘薬〟を取り出す。
──どうして気づかなかった……ここに〝生命の秘薬〟がある時点で気づくべきだった。こんなチート級の代物が何回も使えるハズが無いだろ……
「ユキマサ君……」
「クレハ……悪いな、変なとこ見せて」
「そんなことより……大丈夫……? ううん、大丈夫じゃないよね。私、どうしたら……ユキマサ君には、いっぱい、いっぱい助けて貰ったのに……」
「ありがとな、クレハ」
「待って、おかしいよ。何でユキマサ君そんなに冷静なの! ユキマサ君のお婆ちゃんが死んじゃったんだよ! おかしいよ、変だよっ!」
叫ぶクレハ。
バシッ
不意にクレハの頬が叩かれる。
「あなたにユキマサの何が分かるのよッ! ユキマサはおとーさんとおかーさんが亡くなった時も泣かなかった! ユキマサは優しい。ユキマサにはユキマサの感情があるの! それを変だ何て言わないで!」
「痛い……あなたも変だよ! 家族が死んじゃったんだよ! 悲しいなんて言葉で済む話じゃないよ!」
「おい、よせ。何で、お前らが争う!」
何でだ、何でお前らが争う。
「そこまでじゃ、それ以上はわしの責任じゃ」
「糞爺……」
その後、各自妙な沈黙のあと数分、俺が口を開く。
「──再会の筈が、墓参りになっちまったな」
次に俺は徐に〝アイテムストレージ〟からミリアに貰った果物を取り出す。
ラインナップはメロメロン、ラ・フランス、渦巻きスイカ、ハニーアップル、虹ぶどう等、様々だ。
その間にクレハが花を摘んできてくれた。
「ユキマサ君、お花、ここでいい?」
「ああ、ありがとう」
「ユキマサ君、私にできることがあったら何でも言ってね。それと理沙さん、ユキマサ君さっきはごめんなさい」
「いや、クレハが謝ることは何もないぞ?」
「私こそ、叩いてごめんなさい」
謝る理沙。
「ううん、私がいけないから」
そうして無事二人は仲直りをした。
*
──8年前・異世界の稗月家
〝結界の家の中〟
『魅王、ここで少し待っていろ、すぐに戻る──〝天聖の遺産〟ならお前の病気を治せる筈じゃ』
暁が魅王を寝かせ〝天聖の遺産〟を探しにいこうとする。
『待って……あなた……』
『喋るな、寝ていろ』
『いいえ……聞いてください……本当に不器用な人……ユキマサを蹴り飛ばしたのは……あの世界から離れてしまう自分を嫌わせて……少しでも辛い思いをさせないため……流石に理沙ちゃんは蹴らなかったみたいだけど……あなた……ユキマサとちゃんと仲直りしてくださいね……家族はバラバラじゃダメなんですよ……』
魅王は苦しそうにしながらも笑う。
まるで、子供をあやすかのように。
*
俺は婆ちゃんの墓に手を合わせる。
あー、またこの感覚だ。頭が真っ白になって身体の全体がゾッとするほど寒くなる。
痛てぇな、クソ……
何時間、そうしていただろうか?
気づくともう昼間だ。
「あの、食事を作ったのですが、皆さんよければどうですか?」
そう言ってきたのはストレアだ。
「どうじゃ、ユキマサ、食えそうか?」
「出された飯を残すなって婆ちゃんに教わったからな、ここで断ったら婆ちゃんに怒られちまう」
「では、こちらへ」
出てきたのは和食だった。
白米に漬物、それにこれはアサリの味噌汁か?
焼き魚もあるが、見たこと無い種類だ。
「すいません、私まで」
「お気になさらず」
クレハとストレアが話している。
皆で手を合わせ、いただきますをし食事を取る。
「あ、美味しい、これもお味噌汁?」
「ああ、貝出汁のな」
食事を終え、もう一度、婆ちゃんの墓に手を合わせた後、帰り際に俺は糞爺に小さく声をかける。
「なあ、糞爺──生きててくれてありがとな」
返事は聞かない。照れ臭いからだ。俺はクレハを連れ、逃げるようにその場を去るのだった。
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