196 / 378
第195話 炊き出し3
しおりを挟む「──おい、フィップどうした?」
「ユキマサか、魔王を倒したのはお前らしいな、心から礼を言わせてくれ」
「いいから頭あげろよ? つーか、ロキには何で謝ってんだ?」
「あたし達が魔王戦争が始まったら真っ先に逃げたからさ、理由はあるが、それでも逃げたことに変わりはない」
そう話すフィップは頭を下げたままだ。
「アリス王女とレヴィニア様はご無事ですか?」
ロキが聞く。
「無事だ、今は老いぼれ小僧が側にいる」
「なら、いいじゃねぇか、よかったな無事で」
「ユキマサ、お前、本当に呑気だな」
「よく言われる、てか、いい加減頭あげな。ロキも困ってるぜ?」
そこでようやくフィップは頭をあげる。
と、その時だ。
「──フィップ! 何処にいるのですか!」
「お嬢様、お待ちくだされ!」
「アリス様!」
「アリスお嬢様!」
アリスとジャン、それと兵士達がズララっと入ってくる。
「む、ユキマサなのです」
「よう、アリス、豚汁食うか?」
「豚汁? 何なのですそれは? 辛いのですか?」
「いや、辛くは無いな。まあ七味唐辛子とかあれば辛くなるけど、今はないしな?」
「七味唐辛子! 七味唐辛子とはどんな唐辛子なのですか!」
唐辛子と聞いて目ざとくアリスはキラリと目を輝かせる。
「七味唐辛子は唐辛子をベースに薬味や香辛料を調合した物だよ、そんなに辛くはないぞ?」
「ふむふむ、今度それを持ってくるのです」
「気が向いたらな」
「でも、せっかくなので食べてくのです」
「はいよ、ちょっと待ってな」
と、俺が豚汁を取りに行こうとすると、
「アリスお嬢様、こちら炊き出しの豚汁とやらでございます。魔王の出現以降何も口にしてらっしゃらない様子でしたので、よければお召し上がりください」
いつの間にか兵士の一人が豚汁を持ってくる。
つーか、よく見てみたらコイツ見覚えがあるぞ? 初めてあった時に隊の指揮を取ってて、エルルカの告白の返事を待つって言ってた時に、コンニャクの返事だとか意味の分からないことを言っていた、髭コンニャク指揮官じゃねぇか!
そんなことを考えていると、
「ユキマサ!!」
ふわりと長い薄ピンクの髪の良い香りをさせ、レヴィニアが俺に抱きついてくる。
「レヴィニアか、お前も無事みたいでよかった」
「魔王が倒されたと聞いて真っ先に貴方が浮かんだわ」
「それは喜んでいいのか?」
「もちろんよ!」
「また美少女……」
ジトリと理沙に睨まれる。
「まあ、お前も炊き出し食ってけよ、沢山作ったからよ」
「あなた、料理もできるの?」
「一般的な物だけどな、多少はできるぞ?」
「そうなのね、スゴいわ!」
「レヴィニア様、豚汁をお持ちしました」
「イルザ、ありがとう! アリス、貴方も一緒に食べましょ?」
「一緒にも何も私はお前を待っていたのです」
「ふふ、アリスらしいわね、ありがとう」
そして二人は仲良く豚汁を食べる。
アリスに至っては持参した唐辛子をプカプカと浮かべている。
と、そこにだ。
ひょこっと顔を出す人物がいる。
「久しぶりだね、アリスちゃん王女様」
「む、だ、大聖女なのです!?」
今まで気配を消してたノアが急に姿を現したので、目を見開いてアリスは驚いてる。
「わ、私はお前に会った覚えはないのですよ」
「あー、アリスちゃんとはこっちの姿のがいいかな」
そういうと白かったノアの髪が、魔法少女の変身みたいに紫色に変わっていく。
「し、白娘!?」
「うんうん、正解、今は白フードじゃないけどね?」
その後も炊き出しは続き、すっかり日が落ち、夜になっていた。
*
「じゃあ、ユキマサ、また明日ね」
「ああ、じゃあまたな、てか宿あるんだな」
「うん、おじーちゃんの家」
「俺も明日はそこに顔出すようになりそうだな」
久しぶりの婆ちゃんに会うのも楽しみだ。
と、理沙と糞爺を見送った後。
「私たちも帰ろっか」
クレハが言う。
「そうだな」
そう言い、俺とクレハは帰宅を急ぐ。
36
お気に入りに追加
540
あなたにおすすめの小説

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
ReBirth 上位世界から下位世界へ
小林誉
ファンタジー
ある日帰宅途中にマンホールに落ちた男。気がつくと見知らぬ部屋に居て、世界間のシステムを名乗る声に死を告げられる。そして『あなたが落ちたのは下位世界に繋がる穴です』と説明された。この世に現れる天才奇才の一部は、今のあなたと同様に上位世界から落ちてきた者達だと。下位世界に転生できる機会を得た男に、どのような世界や環境を希望するのか質問される。男が出した答えとは――
※この小説の主人公は聖人君子ではありません。正義の味方のつもりもありません。勝つためならどんな手でも使い、売られた喧嘩は買う人物です。他人より仲間を最優先し、面倒な事が嫌いです。これはそんな、少しずるい男の物語。
1~4巻発売中です。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした
コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。
クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。
召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。
理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。
ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。
これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。

俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~
シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。
目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。
『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。
カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。
ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。
ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる