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第186話 過去編・花蓮ノ子守唄17
しおりを挟む数日後、親父と母さんの葬式が執り行われた。
あまり人を呼びたくなかったが結構な人数が来ている。これは親父達の人徳ってやつかな。
「よく来てくれたの、牧野」
「当たり前だ、呼ばれなくても来る」
牧野のその声には心無しか覇気が無い。
「吹雪ちゃん……木枯……ひっく……」
「おかーさん……おとーさん……ひっぐ……」
婆ちゃんと理沙は棺桶に張り付いて、ぐしゃぐしゃに泣いている。
爺ちゃんが泣いてるのはあの日以来は見ていない。
だが、俺は1度も泣いていなかった。
悲しくない訳じゃない、頭の中も真っ白だ。
こういった時、どうすれば正解なのだろうか?
「……マサ……」
「……ユキマサ……」
「!? おおう、牧野か……」
「何度も呼んだのだがな?」
「どうした?」
「いや、用はないんだが、随分と思い詰めた顔をしていたからな。声をかけたんだ」
「俺が?」
「他に誰がいる」
「すまん、手間かけたな」
「それはいいんだが……大丈夫か? 流石に顔色が悪いぞ」
「俺より婆ちゃんと理沙を心配してやってくれ、特に婆ちゃんだ、あれじゃ体が持たねぇ」
「確かにな、でも、私はユキマサの心配もしたかったんだ」
「ありがとな」
すると理沙が近付いてくる。
「──ユキマサ!」
バシッ
叩かれた、頬を、パーで。
「な……」
「何でいつまでも強がってるの! 悲しいなら泣けばいいじゃない! そんなのカッコよくも何ともないんだから! ユキマサが泣かないと私だって心から泣けないじゃない!」
「理沙……」
「私はおかーさん達に、楽しいも、嬉しいも全部もらったの。花火に月見にクリスマスにお花見、知らなかった所にも沢山連れてって貰った! ユキマサもそうでしょ? だったら突っ立ってないで一緒に最後にお礼ぐらい言おうよ……」
最後は涙声の理沙。
ぐうの音も出ないぐらいの正論だ。
つーか、痛てぇな、何だこれ……
ただ、叩かれただけだってのに……
と、その時だ──
「ゴホッ、ゴホッ、ゴホ、ゴホ、うっ……」
婆ちゃんがでかい咳をした後に血を吐く。
(不味い……発作だ)
「おばーちゃん、おばーちゃん、しっかりして!」
颯爽と走り寄った理沙が婆ちゃんを支える。
「理沙、後は任せろ!」
俺も瞬時に駆け寄り婆ちゃんに回復魔法をかける。
俺は生まれつきの根本的な病は治せないが、それでもこういった瞬間的な肉体の治癒はできる。
「婆ちゃん、大丈夫か?」
「ユキマサ……ありがとう……凄く楽よ……」
そう言う婆ちゃんの顔色は良くない。
精神的な物……そういった物も俺の治癒能力じゃ治せなかったな。
「理沙、すまんの──」
「おじーちゃん?」
ドォォォォォォン!!
そんな音と共に俺は爺ちゃんに蹴り飛ばされる。
「お、おじーちゃん!? !?」
突然の出来事に言葉を失う理沙。
「わしを恨んでいい、この糞爺をな──」
爺ちゃん、いや、糞爺はそう告げる。
「行くぞ、魅王」
「どこに行くのよ! あなた!?」
「いいから来い!」
「お、おじー……ちゃん……?」
何だ、何の騒ぎだ!?
てか、何で蹴られた!?
50m近く吹き飛ばされた俺は痛みはないが、何故に爺ちゃんに蹴り飛ばされたのかと頭を回す。
「待てよ! どこに行く!」
瓦礫から起き上がる俺は糞爺に声をかける。
「どういうつもりだ? 牧野?」
それに立ちはだかったのは牧野だった。
「不器用なバカへのせめてもの餞別だ」
「はぁ? どういう意味だよ?」
そんな間にも糞爺は婆ちゃんを抱えて何処かへと遠ざかるのだった──。
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