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第182話 過去編・花蓮ノ子守唄13
しおりを挟む翌日、皆で朝食を食べていた頃だ──
テレビに映った緊急速報に全員が目をやる。
その内容は噴火だ。
ある山が噴火したとテレビが大々的に報じている。
ただの噴火なら、俺達もこんなに目をやらなかっただろう。
驚いたのは、まずはその場所だ。そこは親父達が旅行で登山にでかけた、あの山だ。
そして噴火の規模はかなりでかい。
SNSにあげられた動画をテレビ局が流してるのを見ると、もくもく程度ではない黒煙が天高く一気に立ち上っている。
「なんじゃと……」
爺ちゃんが、あんぐりと口を開けて、ポロリと箸で掴んでいた卵焼きを畳に落とす。
「吹雪ちゃん……木枯……」
「ねぇ、ユキマサ、これ、どういうこと!?」
呆然とする爺ちゃんと婆ちゃんを見て、事の重大さを察した様子の理沙が俺に問いかける。
「……状況はかなり不味い。それこそ命の危険がある」
「そんな……おとーさん強いじゃん! 大丈夫だよね」
「いくら親父が強くても、相手は自然だ。最悪の事態も十分に考えられるってわけだ」
「……ユキマサ、どうすればいいの? ねぇ!」
「俺が行く──それと婆ちゃん、悪いが初めて俺は朝食を残すぞ、すまねぇ」
「待て! どうやって行くつもりじゃ!」
「走っていくんだよ、車よりは早い。それに近所の目は今はなりふり構ってられん、牧野に謝っといてくれ」
「ユキマサ!」
「ユキマサッ!」
婆ちゃんと理沙の声が聞こえるが、なりふりかまわずに俺は走り出す──
*
(クソ……間に合うか?)
俺は走る、そこら辺の車なんかよりは早い足だ。取り柄何てそんなに無いんだ、こんな時ぐらい役にたってくれよ……
更に俺は走る足を早める。
隣を走る車の運転手がギョっとした驚いた顔をしていたが、今は気にも止める気にはならない。
国道を走り、山を駈け、川を渡り、最後は新幹線の路線の壁の上を走った。
時間にして家から出て1時間ちょい。これでも最速に急いだ方だが、これでもまだ遅い。
と、ここで電話が鳴る。
「理沙か? どうした?」
『あ、繋がった! おばーちゃんが山に向かうって聞かないの、ダメだよね?』
「ダメに決まってるだろ? 婆ちゃんの体はちょうどっこじゃないんだぞ! 次に発作でも起きたらどうする! 爺ちゃんは何やってんだ!」
『おじーちゃんはおばーちゃんを止めてるけど、息子と娘のピンチにかけつけない親がどこにいますか! って、言われて押され気味……』
「今から普通に出ても間に合うわけないだろ? それにテレビのテロップが流れた時点で、あの山は軒並み立ち入り禁止だ! 来てもどうにもならんぞ」
『……て、じゃあユキマサはどうするの?』
「俺は強行突破だ、母さん達の命がかかってんだ。わざわざそれに従うような時間はない!」
『そ、そっか、ユキマサ──おかーさんとおとーさんを宜しくね、絶対だよ』
理沙の最後の方の言葉は涙声だった。
「ああ、言われなくてもな。でも、お陰で気合いが入った、ありがとな」
ピッ、っと携帯を切り、俺は走り出す。
親父達の向かった山に向かって。
*
山の周辺に着くと、消防やら警察やらがわんさかいた。よく見ると、無事に下山できた人もいるみたいだ。
そして俺はその中の警察の一人に声をかける。
「申し訳ない、家族の者なんだが、稗月吹雪と稗月木枯は下山しているか?」
「君、もしかして迷子?」
「んな、話しをしている場合じゃねぇ! さっさと答えろ!」
「ひぃ、そ、そのお二人はまだ戻っておられません」
「そうか、すまねぇ、手間かけたな」
なら、まだ山の中にいるはずだ。
できりゃあ、サラリと下山していて欲しかった。
「き、君、危ないからこっちに来なさい!」
ヘルメットを持った消防士が、慌ててこちらに走ってくる。
「危なくないから、別にそっちにはいかない」
そういうと俺は足に力を入れて跳躍しその場を瞬時に去る──
*
時を遡ること少し前──
稗月木枯と稗月吹雪は登山の為、山を登っていた。
「ふぅ、空気がうめぇな、なあ、吹雪」
「そうですね、街中とは比べ物になりません」
「取りあえずは山小屋を目指すか、そして明日は日の出をみるぞ!」
山が好きなのかは定かでは無いが、木枯のテンションは高い。そんな夫を見る吹雪も実に楽しそうだ。
「にしても、ちらほらとゴミが落ちてるな。ったく、マナーってもんがなってねぇな?」
と、木枯は山に捨ててあったペットボトルを拾い、持参した袋に積める。
しばし歩き、山小屋に着くと、昼食を取る。
「俺はラーメンと炒飯だな、吹雪はどうする?」
「私はカレーにしようかしら」
「決まりだ、すいませーん!」
木枯が店員を呼び、注文を済ませる。
すると数分後──
「お待たせしましたー!」
愛想のいい年配のおばちゃんが元気に食事を運んでくる。
「おやまあ、新婚さんかい?」
「新婚てほど新婚じゃないんだが、夫婦で年1の旅行だ、昨年は温泉に行ったりしたんだけどな? 今年は吹雪の希望で登山だ」
「奥さんの希望かい? それはそれは、是非とも楽しんでってくださいね」
「はい、山小屋も宿泊でお邪魔させてもらいますね」
「日の出を見るのかい?」
「はい! 前から山で一度は見てみたかったんです」
テンションの上がる吹雪。
そして食事を済ませるとすっかり夜だ。
「早めに寝ないとな、朝も早いしな」
「そうですね。では、部屋に戻りますか」
こうして二人の夜は更けていく──
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