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第176話 過去編・花蓮ノ子守唄7
しおりを挟む次の日、また次の日も私はユキマサの家にお世話になった。何か私もお手伝いできることがあればと店の手伝いをした、魅王さんにお菓子の包み方を教わり、私は毎日少しでも手伝っている。
(こんな毎日が続けばいいな)と、そんなことを私が考えていた、お店も閉まっていた夜のことだ──
──ガッシャーーン!!
お店の方から窓ガラスが割れる音がする。
「何事じゃ?」
こんな状態でも、暁さんは呑気なまでに落ち着いた声を発する。
私は走る、店の方へ向かって──
「理沙!」
「理沙ちゃん!」
暁さんと魅王さんが私の名前を呼ぶ。
店の入り口に着くと、私は血の気が引く……
そこに金属バットを構えて立っていたのは、
私の父親と──
その仲間十数人がそれぞれ武器を持ち立っていた。
「やっぱりここだったかぁ? なあ、理沙ぁ?」
と、その時だ、
「──へぇ、こりゃ珍客だ。それにしても、ここがよく分かったな? あんたにゃ、一言いってやんなきゃすまなかったからな」
「こ、木枯さんっ!?」
コンビニから帰ってきた木枯さんが、私の父親に背後から話しかける。
「てめぇ、誰だ?」
「人ん家来といて誰だも何もねぇだろう?」
殴りかかる私の父親のパンチを木枯さんがひょいっと避ける。
「手が早ぇな?」
「ちッ、み、皆さん、頼みます!」
私の父親が敬語で背後にいるヤクザみたいな人達に話しかける。
というか、どう見てもヤクザだ……。
「理沙! 下がっとれ!」
暁さんが私に叫ぶ。
だが、私にバットが振るわれる。
──ガシッ
「牧野の話しだと、もう少し後だと思ったんだがな」
「ゆ、ユキマサ」
「よう、理沙、怪我は無いか?」
「出たな、このガキッ──」
ドゥン!
「え、えっ? 吹き飛ばした!?」
俺の回し蹴りが命中し、吹き飛ぶ理沙の親父を見て、理沙が驚いた声を上げる。
「お、流石だな。今の一瞬で見抜いたか?」
ヤクザは目ざとい──簡単に言えば、敵が自分達よりも相手が強いか弱いかを見抜くのが早く、正確なのだ。
ヤクザは弱い者からは吸い上げ、強者には取り入る能力が無ければ、のし上がることはできないし、最悪比喩ではなく死ぬことになるからだ。
それに、ましてや、俺一人では無く、爺ちゃんや親父もいる。そこら辺のヤクザの組が結託して2、3組纏めてかかってきても対処できるだろう。
「ガキ一人に何やってんだよ!」
吹き飛ばされた理沙の親父が肩で息をしながら俺の方へナイフを持ち、飛びかかってくる。
──ガシッ
「親父」
然も当然かのように親父がナイフを止める。
「よぅ、あんたが嬢ちゃんの父親かい?」
「だったらなんだってんだよ!」
「父親なら、娘の一人ぐらい大切にしてみろよッ!」
ドバンと、理沙の父親を親父が殴り飛ばす。
「お前が育てねぇなら、俺が育てる!」
「勝手にしろ……あんなゴミ……処分に困ってた所だ」
「お前、いい加減にしろよ?」
ギロリと親父が睨む。
「はいはい、そこまでー」
パンパンと手を叩きながら、目の細いヤクザが割り込んでくる。
「家族ごっこは他所でやれよ? それに舐められたままじゃ、こっちも面子が立たねぇんだよ?」
最初は陽気な口調だったが、次第にドスの聞いた声に変わっていく、その男性が懐から取り出したのは──
拳銃だ!
「ほー、本物だぜ、これ?」
「!?」
俺は気づかずに男に近づき、背後から拳銃を握る。
ミシミシ、バキンッ!
俺はそのまま銃を握り潰す。
「──な、なんつー、握力してんだ、このガキ」
「さあな、ちゃんと計ったこと無いからな?」
銃を壊した事で周囲にどよめきが走る。
だが、数人がガチャ、ガチャ、と銃を俺に構える。
「やめときな? そんな遠くから当たるわけないだろ?」
「なんだと!?」
「そこまでじゃ」
──バン、ドン、バン
銃が割れる。
(これは──10円玉か?)
爺ちゃんは高速で撃ち出した10円玉で銃を破壊したのだ。つーか、30円で壊したよ、リーズナブルだな。
「これ以上はこちらも本気で行くぞ? 引くなら今じゃぞ?」
爺ちゃんが睨みをきかせる。
「く、くそ、引くぞ!」
「得体が知れん、何だコイツらは!?」
「引け、引け!!」
黒塗りの車に飛び乗り、ヤクザが逃げていく。
物の数分で静かになった店内を見渡すと、ペタりとその場に膝を着く理沙がいた。理沙には左右から母さんと婆ちゃんが肩をささえている。
「よう、嬢ちゃん、今日から俺が嬢ちゃんの親父だ」
「え、あ、あの……私……」
「嫌かい?」
「じゃあ私は理沙ちゃんのお母さんね」
「私はお婆ちゃんよ、孫が増えたわ」
「わしは爺ちゃんじゃの」
ノリノリの母さんと婆ちゃんと爺ちゃん。
「い、嫌じゃないです、私、木枯さん達の子になりたいです!」
うぇぇんと泣く理沙を母さんが受け止める。
そうして何はともあれ、家に一人家族が増えたのだった。
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