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第175話 過去編・花蓮ノ子守唄6
しおりを挟む「爺ちゃん、悪いな、遅れた」
「おう、気にするこたぁ無い、それより、早く手伝ってくれ」
と、黙々と爺ちゃんがどら焼きを作っていて、その近くでは親父が饅頭と栗モナカを作っている。
ちなみにどら焼き、栗モナカは手作りだが、饅頭は部屋をまるごと一つ潰して作られた、ミニ饅頭工場の機械で作り上げている。
できあがったそれらを婆ちゃんが包む仕事をする。
どら焼きだけでも種類は10品ぐらいある。
通常のつぶ餡に加え──カフェモカ、抹茶、ミルク、板チョコクリーム、栗、みかん等だ。
見た目はよく見るどら焼きではなく、具が沢山の為、パッと見はハンバーガーに似ている。
栗モナカは長方形のシンプルなやつだ。
中の餡には拘っているが、シンプルな逸品だ。常連客は年配の人が多い。
饅頭は豆洗浄機、製餡機、煮熟釜、外皮製造機、包餡機、冷却釜等の準備をし規模は小さいミニ饅頭工場で製作して、最後に焼き印で〝稗〟の文字を押している。ちなみにウチの饅頭は甘さは控えめだ。
──と、取り敢えず、俺は婆ちゃんの包みを手伝う。
「おはよう、ユキマサ、理沙ちゃんはどう?」
「ああ、おはよう、今は母さんと朝食を作ってくれてるよ」
スッと、少し横にズレて、俺のスペースを開けてくれた婆ちゃんとそんな会話をする。
「それは楽しみね、ふふ、何だか楽しくなってきたわ」
「婆ちゃんには敵わねぇなぁ、世界中の人間が婆ちゃんみたいなら戦争とか無くなるんじゃねぇか?」
「褒めても何にも出ないわよー」
ふふふふーん♪ と、のんびりと鼻唄を歌う婆ちゃんはご機嫌だ。
その後も、黙々と手を進めてると、母さんが「ごはんよー」と俺達を呼びに来て、一度飯にする。
「──あ、おはようございます」
せっせと食器を並べてくれてた理沙が親父達にペコリと頭を下げる。
「ああ、おはよう」
「よく寝れたかい?」
「理沙ちゃん、おはよう!」
爺ちゃん、親父、婆ちゃんが返事を返すと、ペコペコと理沙は「あ、はい、お陰さまで」と、また頭を下げる。
今日の朝食は、白米に味噌汁に鮭の切り身に卵焼きといった、ザ・和食だった──腹が空くぜ!
皆でいただきますをし、食事を食べ始めると、また理沙が泣き出す。
「理沙ちゃん、どうしたの?」
「す、すいません、泣いてばかりで。でも、じ、自分でもよく分からなくて……けど、悲しいんじゃないんです」
よしよしと母さんが理沙を宥める。
「すいません、食事中に……せっかく私の分まで用意して貰ってるのに空気悪くして……」
「全然大丈夫よ、さ、ごはん食べましょ」
そういい、次に理沙を抱き締めたのは婆ちゃんだ。
抱き締められた理沙は婆ちゃんにしがみ付き、一頻り泣いた後、コクコクと頷き、食事を進めた──
*
──翌日。
「栗モナカ1つ」
店に入るなり、レジでそう注文をしてきたのは牧野だ。紫の髪をアシメにし片目が前髪で隠れているスーツを着た女性だ。
親父達と昔からの仲であり、牧野グループなる会社をいくつも経営するエリートである、
ちなみに見た目は20後半だが、年齢は知らない。というか、爺ちゃん達とも昔から交流があるらしいのに本当に年齢が分からない。
「よう牧野、いらっしゃい、今日は早いな? まだ店を開ける前だが、まあいい、栗モナカ1つで150円だ」
「ああ、孤児院を見る序でにな」
と、言いながら、150円ピッタリを渡して来る。
「孤児院か、確か母さんが昨日の残りのどら焼きを持っていって欲しがってたぞ? 頼めるか?」
孤児院──牧月学園、これは家の爺ちゃんと牧野が建てた孤児院だ。二人で出資している。
牧野はこうしてたまに孤児院を見に来ている。そして家は店の残り物だが、菓子等を孤児院に持っていったりが多々ある。
「あら、牧野さん、いらっしゃい」
タイミングよくどら焼きの包みを持ってきた母さんが、牧野を見ると、明るく声をかける。
「ああ、おはよう。どら焼きは私が預かろう」
「あら、助かります、ではお願いしますね」
「ところで、そこのお嬢ちゃんは?」
店の奥で婆ちゃんの手伝いをする理沙に、チラリと牧野が目を向ける。
「あいつは理沙、花蓮理沙だ。訳あって、数日前から家に住んでる。牧野にゃ、話しとくべきだったな、すまん」
「いや、謝らなくていいんだが、元々孤児とも、両親の死別とも、また違う感じだな?」
「分かるのか?」
「何となくだ、どれ、私も挨拶しよう」
「あ、おい、待て、牧野!」
俺の制止を振り切り、牧野は理沙の方へ向かう。
「こんにちは、私は牧野だ」
そしてそんな定型文のような挨拶をかます。
「えっと、花蓮理沙です。こちらでお世話になっています」
「牧野ちゃん、こんにちはー」
少し怯えて話す理沙と呑気な婆ちゃん。
「こんにちは、魅王それに理沙ちゃん、私のことは牧野と気軽に呼んでくれ」
「あ、はい。分かりました、牧野さん」
その返事に満足気味に頷いた牧野は「それじゃあまた」と言い残し去っていった。いつもの光景だ。
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