174 / 378
第173話 過去編・花蓮ノ子守唄4
しおりを挟む「──り、理沙ちゃん!?」
「じょ、嬢ちゃん、何でこんな所に?」
母さんと親父が理沙を見て、目を丸くしている。
「……は、何だ、知り合いか?」
これには俺も驚く。
「ああ、スーパーでちょっとな?」
「二人は昨日、私を助けてくれたんだ。後、今日試食のステーキくれたの」
「助け……ステーキ?」
思わぬ飛躍に俺は首を傾げる。
「ユキマサの言ってた子って理沙ちゃんだったのね、ごめんなさい、少し腑に落ちちゃったわ……」
母さんが理沙を見ながら、自身の頬に手を当てる。
「ユキマサから話しは聞いてるぜ? 本っ当に大変だったな、いつまでも遠慮せず泊まってってくんな?」
親父が理沙を見て、大きく息を吐く。
「ほ、本当にいいんですか……?」
「おうよ、衣食住ぐらいしか提供してやれねぇが、それでもよければ家は大歓迎だぜ?」
理沙にとっては十分以上の待遇だった。
何せ、今までは食事は家で出ず、スーパーの試食で何年も過ごして来たのだ。家も父親が毎日酒を飲み、暴れて、暴力を振るわれるので、落ち着いて寝れた記憶すらない。
「……お言葉に甘えてお世話になります──本当に……本当にありがとうございます」
理沙は深々と頭を下げる。
「あらまあ、礼儀正しいのね、私は魅王よ」
「ユキマサに見習わせたいの、わしは暁じゃ」
「あらあら、お父様、ユキマサは口が悪いだけで、最低限の礼儀はありますのよ」
「よし、にしても、嬢ちゃんの父親は一発ぶん殴ってでもやらねぇと気がすまねぇな!」
婆ちゃん、爺ちゃん、母さん、親父が、それぞれ感想を述べる。
「理沙の父親なら俺が鳩尾殴っといたぞ?」
「おいおい、殺してねぇだろうな?」
割りとガチで親父が聞いてくる。
「当たり前だ、牧野にも口酸っぱく言われてるしな」
「ならいいが──と、じゃあ、飯にすっか! 店も閉店時間だしな、嬢ちゃん今日はステーキだぞ?」
切り替え早いな。
まあ、いいけど。
「そ、そうなんですか……」
「あれ? あんまりステーキは好きじゃなかったかい?」
「え……私の分もあるんですか……?」
至って真面目に、
だが、驚いたように理沙が聞き返す。
「当たり前じゃねぇか、つーか、衣食住は提供するって言ったばかりだろ? 忘れちまったかい?」
「あ、えっと、その……同じ物をいただけるとは思わなくて……そんな高価な物を……すみません……」
──バッ
母さんが理沙に抱きつく。
「理沙ちゃん、そうよね、分からなかったわよね。ごめんなさい、私達は理沙ちゃんをハブいたりしないわ。一緒のご飯を食べて、同じ屋根の下で温かい布団で寝ましょ、お休みの日はお出掛けもしましょう」
「!!」
理沙は自分への待遇に本当に驚いていた。
そしてこれがユキマサの紹介でなく、スーパーで私を助けてくれた、吹雪さんと木枯さんじゃなきゃ、理沙的には厚待遇過ぎて、逆に疑っていたかもしれない。
それぐらい、今までの他の人間の理沙に対する扱いは悪かった。
今まで近所の人が声をかけて来てくれることは、多々あった。でも、私の父親の姿を見ると、みんな見て見ぬ振りになった。
これは風の噂で聞いたのだが、皆が見て見ぬ振りになったのは、お父さんの薬を運ぶ仕事が関係してるらしい。
「……私……私……そんなこと言ってもらえたの初めてです……う……えぐっ……グス……」
強がってはいたが、まだ6歳の理沙はどんどん涙声になっていく。
「あー、もう理沙ちゃん可愛い! いつまでも、というか、できるだけ長く居てほしいわ!」
ときめく母さん。
「そうだな、だが実際問題、嬢ちゃんの父親が向かえに来たら面倒なことになるんじゃねぇのかい?」
「……そ、それは無いです。あの人に取って私は邪魔以外の何者でもないですから……」
親父の危惧を理沙が否定する。
「まあ、理沙への虐待が無くならない限り、話し合いだろうが、強行手段だろうが理沙は渡さないしな」
「……ユキマサ」
「そういうことだ。たまには羽を伸ばしな? 家に遠慮は要らんからな──と、俺も腹へって来たな」
「おし、飯にすっか!」
さっきから飯とばっか言ってる親父がスーパーの袋を掲げる。
「嬢ちゃん、吹雪の味付けはスーパーの試食なんて、目じゃないぐらい美味いんだぜ? 期待しときな?」
ウィンクをしながら親父が理沙に目配せし、
撫で撫でと優しく理沙の頭を撫でる。
「あ、は、はい」
「じゃあ、腕によりをかけなくちゃね」
「──おい、ユキマサ、木枯、手が空いてるなら、お前達は店の片付けを手伝え」
「ああ」
「了解、了解」
と、俺と親父は爺ちゃんと婆ちゃんの店の閉店作業を手伝い、母さんと理沙は台所へ向かった。
*
「おぉ、今日は中々豪勢じゃな?」
「はい、スーパーのお肉ですが、あの店のお肉はそこら辺のお肉屋より、上品質なんですよ」
喜ぶ爺ちゃんに母さんが肉の入手ルートを楽しげに話す。
「さ、理沙ちゃん、遠慮せずに食べてね!」
「あ、はい。魅王さん、ありがとうございます」
今晩のメニューは、ステーキ、ごはん、サラダ、卵スープだった。ちなみに全部母さん作だ。
「後は酒じゃな、おい、木枯、確か赤ワインあったじゃろ? あれ開けんか?」
「いいねぇ、賛成だ」
と、爺ちゃんと親父は飲む気マンマンだ。
「理沙ちゃんもいるんだから飲みすぎないで下さいね」
「そうです、変な酔い方したら絞めますからね」
婆ちゃんと母さんが釘を刺す。
「まあ、何だ、酒飲んで暴れる奴は家にはいないから安心しな?」
その様子を見ていた理沙に俺は耳打ちする。
「大丈夫、それは見てれば分かるよ。ねぇ、ユキマサ、どうしよう……私、今、スゴく楽しい///」
「ハハ、そりゃよかったな? 俺も嬉しいよ──ほら、じゃあ、食おうぜ? 冷めちまう前にさ」
「そいじゃ、手を合わせて──」
親父が音頭を取る。
「「「「「「いただきます!」」」」」」
そうしてみんなで食事を取る。
「理沙ちゃん、お腹いっぱい食べてね!」
「は、はい、いただきます!」
はむっと理沙はステーキを口に運ぶ。
「──!! うわっ、美味っしい!!」
理沙は目を輝かせ、笑顔になる。
「よかったぁ、私も嬉しいわ」
そんな理沙を見て、母さんも喜ぶ。
「スーパーの試食と全然違う! 同じお肉なのに何で!?」
「ふふふ、ちょっとした下処理が大事なのよ、そんなに喜んでもらえると、料理した甲斐があるわね!」
そういい、ご機嫌な母さんも肉を口に運ぶ。
「吹雪の料理は美味いからな」
「酒にも合うのぅ」
「吹雪ちゃんは料理上手さんだものね、美味しっ」
親父、爺ちゃん、婆ちゃんが母さんを誉める。
「私、料理なんてしたこと無いから憧れます!」
理沙がキラキラした目で母さんを見る。
「じゃあ、今度一緒に料理しましょ?」
「わ、私とですか? い、いいんですか?」
「勿論、大歓迎よ!」
母さんは随分と理沙を気に入ったみたいだ。その後も理沙は泣きながら、ステーキを食べていた。
ちなみにいつの間にか赤ワインが既に一本空いていたのだが、機嫌の良かった母さんは二本目、三本目の許可をすんなりと出したのが、個人的には意外だった。まあ、皆楽しそうで何よりだ。俺も楽しいしな。
31
お気に入りに追加
539
あなたにおすすめの小説
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした
服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜
大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。
目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!
そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。
まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!
魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。
ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。
剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。
しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。
休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう…
そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。
ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。
その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。
それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく……
※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。
ホットランキング最高位2位でした。
カクヨムにも別シナリオで掲載。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる