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第173話 過去編・花蓮ノ子守唄4
しおりを挟む「──り、理沙ちゃん!?」
「じょ、嬢ちゃん、何でこんな所に?」
母さんと親父が理沙を見て、目を丸くしている。
「……は、何だ、知り合いか?」
これには俺も驚く。
「ああ、スーパーでちょっとな?」
「二人は昨日、私を助けてくれたんだ。後、今日試食のステーキくれたの」
「助け……ステーキ?」
思わぬ飛躍に俺は首を傾げる。
「ユキマサの言ってた子って理沙ちゃんだったのね、ごめんなさい、少し腑に落ちちゃったわ……」
母さんが理沙を見ながら、自身の頬に手を当てる。
「ユキマサから話しは聞いてるぜ? 本っ当に大変だったな、いつまでも遠慮せず泊まってってくんな?」
親父が理沙を見て、大きく息を吐く。
「ほ、本当にいいんですか……?」
「おうよ、衣食住ぐらいしか提供してやれねぇが、それでもよければ家は大歓迎だぜ?」
理沙にとっては十分以上の待遇だった。
何せ、今までは食事は家で出ず、スーパーの試食で何年も過ごして来たのだ。家も父親が毎日酒を飲み、暴れて、暴力を振るわれるので、落ち着いて寝れた記憶すらない。
「……お言葉に甘えてお世話になります──本当に……本当にありがとうございます」
理沙は深々と頭を下げる。
「あらまあ、礼儀正しいのね、私は魅王よ」
「ユキマサに見習わせたいの、わしは暁じゃ」
「あらあら、お父様、ユキマサは口が悪いだけで、最低限の礼儀はありますのよ」
「よし、にしても、嬢ちゃんの父親は一発ぶん殴ってでもやらねぇと気がすまねぇな!」
婆ちゃん、爺ちゃん、母さん、親父が、それぞれ感想を述べる。
「理沙の父親なら俺が鳩尾殴っといたぞ?」
「おいおい、殺してねぇだろうな?」
割りとガチで親父が聞いてくる。
「当たり前だ、牧野にも口酸っぱく言われてるしな」
「ならいいが──と、じゃあ、飯にすっか! 店も閉店時間だしな、嬢ちゃん今日はステーキだぞ?」
切り替え早いな。
まあ、いいけど。
「そ、そうなんですか……」
「あれ? あんまりステーキは好きじゃなかったかい?」
「え……私の分もあるんですか……?」
至って真面目に、
だが、驚いたように理沙が聞き返す。
「当たり前じゃねぇか、つーか、衣食住は提供するって言ったばかりだろ? 忘れちまったかい?」
「あ、えっと、その……同じ物をいただけるとは思わなくて……そんな高価な物を……すみません……」
──バッ
母さんが理沙に抱きつく。
「理沙ちゃん、そうよね、分からなかったわよね。ごめんなさい、私達は理沙ちゃんをハブいたりしないわ。一緒のご飯を食べて、同じ屋根の下で温かい布団で寝ましょ、お休みの日はお出掛けもしましょう」
「!!」
理沙は自分への待遇に本当に驚いていた。
そしてこれがユキマサの紹介でなく、スーパーで私を助けてくれた、吹雪さんと木枯さんじゃなきゃ、理沙的には厚待遇過ぎて、逆に疑っていたかもしれない。
それぐらい、今までの他の人間の理沙に対する扱いは悪かった。
今まで近所の人が声をかけて来てくれることは、多々あった。でも、私の父親の姿を見ると、みんな見て見ぬ振りになった。
これは風の噂で聞いたのだが、皆が見て見ぬ振りになったのは、お父さんの薬を運ぶ仕事が関係してるらしい。
「……私……私……そんなこと言ってもらえたの初めてです……う……えぐっ……グス……」
強がってはいたが、まだ6歳の理沙はどんどん涙声になっていく。
「あー、もう理沙ちゃん可愛い! いつまでも、というか、できるだけ長く居てほしいわ!」
ときめく母さん。
「そうだな、だが実際問題、嬢ちゃんの父親が向かえに来たら面倒なことになるんじゃねぇのかい?」
「……そ、それは無いです。あの人に取って私は邪魔以外の何者でもないですから……」
親父の危惧を理沙が否定する。
「まあ、理沙への虐待が無くならない限り、話し合いだろうが、強行手段だろうが理沙は渡さないしな」
「……ユキマサ」
「そういうことだ。たまには羽を伸ばしな? 家に遠慮は要らんからな──と、俺も腹へって来たな」
「おし、飯にすっか!」
さっきから飯とばっか言ってる親父がスーパーの袋を掲げる。
「嬢ちゃん、吹雪の味付けはスーパーの試食なんて、目じゃないぐらい美味いんだぜ? 期待しときな?」
ウィンクをしながら親父が理沙に目配せし、
撫で撫でと優しく理沙の頭を撫でる。
「あ、は、はい」
「じゃあ、腕によりをかけなくちゃね」
「──おい、ユキマサ、木枯、手が空いてるなら、お前達は店の片付けを手伝え」
「ああ」
「了解、了解」
と、俺と親父は爺ちゃんと婆ちゃんの店の閉店作業を手伝い、母さんと理沙は台所へ向かった。
*
「おぉ、今日は中々豪勢じゃな?」
「はい、スーパーのお肉ですが、あの店のお肉はそこら辺のお肉屋より、上品質なんですよ」
喜ぶ爺ちゃんに母さんが肉の入手ルートを楽しげに話す。
「さ、理沙ちゃん、遠慮せずに食べてね!」
「あ、はい。魅王さん、ありがとうございます」
今晩のメニューは、ステーキ、ごはん、サラダ、卵スープだった。ちなみに全部母さん作だ。
「後は酒じゃな、おい、木枯、確か赤ワインあったじゃろ? あれ開けんか?」
「いいねぇ、賛成だ」
と、爺ちゃんと親父は飲む気マンマンだ。
「理沙ちゃんもいるんだから飲みすぎないで下さいね」
「そうです、変な酔い方したら絞めますからね」
婆ちゃんと母さんが釘を刺す。
「まあ、何だ、酒飲んで暴れる奴は家にはいないから安心しな?」
その様子を見ていた理沙に俺は耳打ちする。
「大丈夫、それは見てれば分かるよ。ねぇ、ユキマサ、どうしよう……私、今、スゴく楽しい///」
「ハハ、そりゃよかったな? 俺も嬉しいよ──ほら、じゃあ、食おうぜ? 冷めちまう前にさ」
「そいじゃ、手を合わせて──」
親父が音頭を取る。
「「「「「「いただきます!」」」」」」
そうしてみんなで食事を取る。
「理沙ちゃん、お腹いっぱい食べてね!」
「は、はい、いただきます!」
はむっと理沙はステーキを口に運ぶ。
「──!! うわっ、美味っしい!!」
理沙は目を輝かせ、笑顔になる。
「よかったぁ、私も嬉しいわ」
そんな理沙を見て、母さんも喜ぶ。
「スーパーの試食と全然違う! 同じお肉なのに何で!?」
「ふふふ、ちょっとした下処理が大事なのよ、そんなに喜んでもらえると、料理した甲斐があるわね!」
そういい、ご機嫌な母さんも肉を口に運ぶ。
「吹雪の料理は美味いからな」
「酒にも合うのぅ」
「吹雪ちゃんは料理上手さんだものね、美味しっ」
親父、爺ちゃん、婆ちゃんが母さんを誉める。
「私、料理なんてしたこと無いから憧れます!」
理沙がキラキラした目で母さんを見る。
「じゃあ、今度一緒に料理しましょ?」
「わ、私とですか? い、いいんですか?」
「勿論、大歓迎よ!」
母さんは随分と理沙を気に入ったみたいだ。その後も理沙は泣きながら、ステーキを食べていた。
ちなみにいつの間にか赤ワインが既に一本空いていたのだが、機嫌の良かった母さんは二本目、三本目の許可をすんなりと出したのが、個人的には意外だった。まあ、皆楽しそうで何よりだ。俺も楽しいしな。
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