生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】

雪乃カナ

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第172話 過去編・花蓮ノ子守唄3

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「ゆ、ユキマサ!? 何よ、って?」
「お前言ったろ? お前の境遇の事でのかって? だから俺にできることをしに来た──」

「い、意味分からない! どういうこと!?」
「今からお前の家に行く、そんでお前の父親に会いに行く」

「バカじゃないの? そんなことしてどうするのよ?」
「お前への暴力をめさせるんだよ」

「止めるわけないじゃん、無駄だよ」

 理沙は呆れたように溜め息を吐く。

「止めなきゃ止めないで、こっちにも考えがある」
「私とユキマサだけで行くの? 大人に子供が勝てるわけないじゃん、殴られておしまいだよ」

「やってみなきゃ分かんないだろ?」
「バカみたい……」

 でも、何故か私は嬉しかった。

「……一緒に来てくれるの……?」
「正確にはお前が一緒に来るんだよ、俺はお前の家の場所も分からないしな」

「本当にバカみたい、後悔しても知らないよ」

 不思議な感覚だ、普通なら絶対に断ってる。
 でも、何故か、ユキマサがまぶしく見えた。

「よし、決まりだな。案内してくれ──」

 そうしてユキマサと私は理沙の家に向かう。

 *

 理沙の家は、お世辞にも綺麗とは言えない、狭めの古いアパートだった。

「こっち、あの端の部屋が私の家」

 理沙が指さす先は、古いアパートの角部屋だった。

「父親は家にいるのか?」
「多分いると思う、お酒飲んでる筈」

 アパートの階段を登り、二階の角部屋、理沙の家に着くと、部屋の中から派手な物音がする。

 ガラガラ、ガッシャーン!!

 酒の瓶が割れるような音だ。
 反射的に理沙が俺の背後に隠れる。

 ピンポーン。

 だが俺は構わずチャイムを押す。

「な、何でチャイム押すの!? バカなの!?」

 慌てる理沙。

「いや、だってらちが明かないだろ?」
「だからって、もうっ!!」

 ガチャ。

「誰だぁ!!」

 家の中から中年の男性が現れる──タンクトップ姿で左肩には刺青タトューが入っており、その手には酒瓶が握られている。

「て、あぁ? 理沙と何だこのガキは?」

 俺は胸ぐらを掴まれる。てか、酒臭ぇ……

「俺は稗月倖真ひえづきゆきまさだ、あんただな、理沙の父親は?」

 全然似てないな。理沙は母親似か?
 まあ、今はどうでもいいけど。

「この、ガキッ!!」

 理沙の父親は右腕を振りかざし、俺に拳を振り下ろす。

「ユキマサッ!!」

 理沙が叫ぶ。
 だが、俺はパシッと、その拳をてのひらで受け止める。

 そのまま、ぐりんっと、俺は腕を捻る。

「痛てぇッ、このッ!!」

 理沙の父親が殴ってくるが、
 ──ひょい、ひょいと俺は避ける。

「おい、あんた、俺に殴りかかるのはいいが、理沙を殴るのはもう止めろよな!」
「うるせぇ、俺の娘に俺が何しようが自由だろうが!」

 ダメだ、話しが通じそうに無いな……

「ンなわけねぇだろ!! いいか? もう一度だけ言うぞ? ──理沙に暴力を振るうのはもう止めろ!」
「嫌だね! 死ねや! 糞ガキッ!!」

 すると理沙の父親は懐からナイフを取り出す。
 構えを見るに、ただの素人じゃ無さそうだ。
 
 だが、直ぐに俺は動き、ドスンと、理沙の父親の鳩尾みぞおちを叩く。

 ドサリ……と、理沙の父親は意識を失い、倒れる。

「話が通じそうに無いな、作戦変更だ」
「さ、作戦変更って……?」

「理沙、お前は今日から家に来い」

 パンパンと手を払いながら俺は理沙にそう告げるのだった──

 *

「──ちょ、ちょっと待ってってば!!」

 俺と理沙は、理沙の家から、俺の家に向かっている。だが、まだ理沙は納得が言って無いみたいだ。
 まあ、付いては来てるけど。

「お前の意見は正しかった。あの父親は話しなんてしても無駄だ、暴力も止めるわけがない──なら、出方を変える、それだけだ」
「だとしても、何で、ユキマサの家に!?」

「他に行く所ないだろ? こうなるかもとは思って、一応、両親達には『客が来る』って話してある」
「で、でも……それに何で……ユキマサは会ったばかりの私にそこまでしてくれるの?」

「何でって言われてもな……何となくだ」

 これは俺の本心だ。別に照れ隠しでも無い。
 自分でも不思議なぐらいに勝手に身体が動いてた。

「……と、ここだ。上がってくれ」
「こ、ここって……」

「〝和菓子屋・稗月ひえづき〟──家の店だ」

 店に入ると、いらっしゃ……までは声がかかるが、
 その後は『あら、お帰りなさい』と言われる。

「ただいま、婆ちゃん、体は大丈夫か?」
「ええ、まだまだ元気よ」

 おっとりとした声が返ってくる。

「婆ちゃん!? お母さんじゃなくて!?」

 理沙が心底驚いた声を上げる。まあ、驚くのは無理もない。婆ちゃんはは20代にしか見えないからな。ぽわぽわ~とした雰囲気の長い黒髪の日本人形みたいな人だ。服装は和菓子屋なので和をイメージした制服だ。まあ、私服もこの人和服なんだけど!

「こんばんは、ユキマサの祖母です」
「何じゃ、こりゃ、えらい可愛いお客さんじゃな?」

 奥から爺ちゃんが出てくる。
 男にしては少し長めの黒髪に同じく和装の姿だ。

「よう、爺ちゃん、昨日話しといた俺のお客だ」

 と、軽く理沙を紹介する。

「爺ちゃん!?」

 また理沙が目を丸くする。
 まあ、爺ちゃんも20代にしか見えないからな。

「は、花蓮理沙はなはすりさです……」

 驚きながらも理沙は名乗る。

「理沙ちゃんね、ユキマサから話しは聞いてるわ、大変だったわね、家でよければいつまでもいてくださいな──」

 そう言うと婆ちゃんは栗モナカを、そそそ……と、理沙に渡しながら、レジ前から出てくる。

「ほ、本当に、い、いいんですか……」

 理沙はまた目を丸くする。

「ふふ、遠慮しなくていいのよ」
「そうじゃ、そうじゃ、子供が遠慮するこたぁ無い」

 チラりと理沙は俺を見る。

「だそうだ、呼んだのも俺だしな? そーいや、親父と母さんはどうしたんだ? 店にいないのか?」

「二人なら買い物よ、もう帰ってくると思うけど。あ、ほら、噂をすれば何たらね──」

 店の入り口を婆ちゃんが指をさす。

「ただいま帰りました」
「帰ったぞ」

 ──だが、その姿を見て、私は目を疑った。

「ふ、吹雪さん!? こ、木枯こがらしさん!?」

 そこにいたのはスーパーの袋を手に持った、
 昨日、私を助けてくれた、優しいあの夫婦だった。
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