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第171話 過去編・花蓮ノ子守唄2
しおりを挟む夕暮れ、スーパーから走り出た私は公園まで戻ってくると、どっと息を吐く──
「……はぁ、ごはん……今日は抜きかな……」
スーパーの試食を食べられなかった私は今日はごはん抜きかなと、お腹を擦るが、ユキマサに貰った栗モナカを食べていたお陰で今日は試食抜きでも、空腹に悩まされることはなさそうだと安堵する。
(栗モナカ、美味しかったな)
それにユキマサに続き、さっきの夫婦(?)といい、今日は言葉を交わす、人に会う日だなと理沙は思う。
家に帰っても酒を飲んで暴れる父親しかいないし、友達もいない──前までは、小学校で最初は人並みにはチラホラと話しかけてくれる子がいたが、体育の着替えの時間に父親に殴られた身体の痣を見られてからは、あまり……というか、話しかけてこなくなった。
だから、こんなに普通に人と話すのは久しぶりだ。
それに助けてくれた夫婦(?)の人達も、スゴく優しい人達だった。
でも、だから、そんな優しい人達に近づいて、私の家のことや、私の身体の痣のこと等がバレるのが怖かった。
──翌日の夕方。
私はスーパーに行った。
勿論、試食目当てだ……意地汚いと思うが、追い出されるまでは通おうと思っている。
じゃないと、お腹が鳴ると父親に殴られるし、空腹なのもやっぱり辛い。
このスーパーに迷惑をかけている自覚はある。でも、私は心の何処かで『家族もお金もあるんだから、試食ぐらい、少しぐらい私に分けてくれてもいいじゃないか』何て言う我ながら惨めで最低なことを思ってしまう。
スーパーに入ると、美味しそうな香りが漂ってくる。今日はお肉を焼いてるみたいだ。
ただ、流石──お肉の試食だ。
道行く人がこぞって試食を食べていく。
私みたいに買わずに食べるだけの人も多いみたいで、あの一角だけ、人口密度がおかしい……
私も頑張って行くが、体格のいい、おばちゃん集団に吹き飛ばされる──こちらには気づいてすらいないのか、私を吹き飛ばした、おばちゃん集団は私の方を振り向きもしない。
そうして数分後……
試食はすぐに終了した。
……今日もダメだった。
諦めて、フルーツのセルフ試食の方へ向かおうとすると、私に聞き覚えのある声がかかる……
「お、昨日の嬢ちゃんじゃねぇかい?」
「あっ……」
それは昨日、私を柄の悪そうな人から助けてくれた、長い後ろ髪をヘアゴムで留めている黒髪の男性と、その隣に昨日の長い黒髪で色白の凄く綺麗な奥さん(?)がいる。
「あ、あの昨日はありがとうございました。それと逃げるように帰っちゃってすいません……」
「あはは、気にすんな。それよりこれいるかい?」
と、差し出されたのは試食のステーキだった。
「……え、い、いいんですか?」
「おうよ、嫌みに聞こえちまったら悪いが、元々今日は家の晩飯はこれに決まってたからな。正直、試食は要らねぇんだ、もしよけりゃ、人助けだと思って食ってくれないかい?」
「私のもよければどうぞ」
私は試食のステーキを受けとる。
「あ、ありがとうございます、嬉しいです」
理沙は笑う、だがその笑顔を見て──大人二人は思っていた以上に、目の前の子が、あまりよくない生活を送らさせられているのだと感じる。
「お名前は何て言うの?」
「えと、私は理沙です」
「理沙ちゃんか、私は吹雪っていうの」
「俺は木枯だ、よろしくな」
「よろしくお願いします……!」
「理沙ちゃん、家にごはん食べに来ない?」
「わ、私がですか!?」
「うん、いつも試食だけじゃ味気ないでしょ? よかったらどうかしら?」
「えっと……今日は止めておきます……」
本当は行きたい。
でも、帰りが遅くなると、また父親に殴られる。
「そう……無理言ってごめんなさいね。また会いましょ、理沙ちゃん──」
すると吹雪さんは私の頭を優しく撫でた。
「!!」
私はこれが誰かに頭を撫でられるというのが初めての体験だった。
優しくて、綺麗で、温かい手だった。
「……ふ……ひぐっ……びぇぇ……」
「えっ、ちょっと、わ、私、何かまずかったかしら!? どどど、どうしましょ!?」
「……ご、ごめんなさい……ひぐっ、私何で泣いてるんだろう……」
私は自分が泣いてることに驚く。
「──大丈夫、大丈夫よ」
吹雪さんが私を優しく抱き締め、また頭を撫でてくれた。
でも私はここで何とか涙を食い止める。
じゃないと、いつまでも泣き続けてしまうと思ったからだ──そんな迷惑はかけられない。
きっと、子供である私がスーパーの真ん中で泣いてたら、この人達が周りから変な目で見られてしまう。
「も、もう大丈夫です、すみませんでした……」
そう言うと私は、この場から、また走り去るように外へ向かう──後ろから「待って」「おい、待ちな」と、少し慌てた吹雪さんと木枯さんの声が聞こえたが、私はそれを振り切って走る。
「──もう、何で、私、泣いちゃったんだろ……」
私はいつもの公園まで走ると、これまたいつものようにブランコに座る。
それに今思い返しても、さっきのは不思議な感覚だった。
それと私は、あの二人を何故か信用していた。理由は分からない、強いて言えば何となくだ。
会ったばかりだと言うのに……でも、自然とあの二人といると心が落ち着く──泣いてしまったのも、多分、無意識に力が抜けてしまったからだ。
(もしもだ……もしも……あんな、あんな素敵な二人がもし……私の……)
──
って、そんな訳がない!
そんな事はあり得ない。
ぶんぶんと私は誤魔化すように首を振り、自分の中の妄想を絶ちきる。
と、そんな時だ。
「──よぅ、理沙、待ってたぜ? 昨日の続きの話しをしよう」
私の背後から、そんな言葉がかけられた。
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