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第156話 走ってきた
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──大都市エルクステン 壁外・上空──
その時、俺は落下していた。
奴孔楼の〝座標石〟で遥か上空へと飛ばされたからだ。
そんな上空何百mと落下する最中──
「なんだあれは?」
地面に蠢く魔物の大群を発見する。
100や200じゃない、軽く1000はいるぞ。
種類も様々で、鎧を着た骸骨みたいなのからミノタウロスやら、でかい蛇の生えた熊まで本当に沢山だ。
それが全部、エルクステンの街へと向かっているように見える。
ただでさえ魔王城の魔物だけでも、てんやわんやだってのに……この数の魔物が追加でエルクステンの街に攻めていったら、死傷者の数が跳ね上がるぞ!
「先にこっちを片付けるか……魔王の方もノアなら、まだ大丈夫な筈だ──踏ん張ってくれよ!!」
そうして俺は剣を構える。
*
──大都市エルクステン・西部──
「く……何て強さなの」
「ヴィエラさん、僕が囮になるのでその内に飛んで逃げてください」
ヴィエラとルドルフは血塗れでそんな会話をする。
「バカ言わないで! 私も戦うわ!」
ヴィエラがルドルフに返答すると、二人に向かって嘲笑混じりの声が笑いかけられる。
「──そうだぜ、もっと楽しもうぜぇ」
魔族──愧火の声だ。着流しの和服で刀を肩にかけ、全身から顔に至るまで包帯ぐるぐる巻きの姿の、鋭く赤い目で、ヴィエラを見る。
と、その時だ──
ドバンッ!
何者かが愧火を魔力弾で攻撃する。
だが、首を少し動かしただけでその攻撃を避ける。
「今の攻撃は、エミルさん!?」
*
──大都市エルクステン 西部高台──
そこには女性の様に髪の長い黄緑色の髪のエルフの男性が、自分の背丈ほどある魔力銃で愧火に狙いを定めていた。その狙撃手の正体はギルド第7騎士隊長──エミル・ネルギである。
「あっちこっちで戦いがあるが、今私の攻撃が届く範囲だと、ここが一番戦況が不味そうだ」
第7隊員達は街の魔物の討伐にあたっている。
エミルは隊と離れ、一人こうして援護射撃を行っていた。
*
──大都市エルクステン・西部──
「エミルさんの援護射撃は助かりますが、はたしてそれでも魔族を倒しきれるかどうか……」
口元の黒い口当てを触りながら、悔しげにルドルフは呟き、猫人族の特有のよく聞こえる猫耳をぴょこぴょこと動かし、辺りを探る。
そんなルドルフがハッと動きを止める。
その先には城塞の城壁がある。
そこには一人の女性が立っていた。
黒く丈の長いドレスローブを着て、長ドスを両手に持ち長い黒い髪を靡かせている。その姿は一言で言うなら妖艶──そんな言葉がよく似合っていた。
「──え、エルルカ・アーレヤスト……!? 六魔導士の〝剣斎〟が何故ここに? 予定だとエルクステンに来る六魔導士は〝独軍〟だけの筈じゃ……!?」
血の流れる肩をヴィエラが押さえながらエルルカに向かい話しかける。
「エルフのリュセルの方に連絡があってね。私はこの魔王戦争が始まってから呼ばれたのよ──シラセは勿論、何故かパンプキックまで今この街に来てるわよ」
「は、始まってからって……〝中央連合王国アルカディア〟から〝大都市エルクステン〟まで一体何km離れてると思ってるんですかっ!?」
次に口を開いたのはルドルフだ。
こちらも腕から流れる血を押さえながら話す。
「エルフの国シルフディートからよ。それでも走って1時間かかったわ」
「いや、それでも……」
早いと言うレベルでは無いと──〝エルフの国シルフディート〟から〝大都市エルクステン〟までの距離を知るものなら、皆が口を揃えてそう言うだろう。
「よぉ、面白れぇ奴が来たじゃねぇか、俺と戦えよ」
すこぶる楽しそうな様子で愧火がエルルカに話しかける。
「……ええ、そのつもりよ」
その瞬間にエルルカは移動し、愧火に斬り付けていた。
「速ぇじゃねぇか! ハハ、面白れぇよ、お前!」
エルルカの斬撃を受けた愧火だが、少しばかり血を撒き散らしながら、尚も楽しげに笑っている。
刃を直接体に受けたが、魔力を纏い防いだのだ。けれども、その全ては防ぎきれなかった。
「無粋ね、貴方嫌いだわ」
こうしてこの街でまた一つ、魔族との戦いが幕を開けた──
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