生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】

雪乃カナ

文字の大きさ
上 下
156 / 378

第155話 霧裂

しおりを挟む


 *

 ──大都市エルクステン
    大砦の門・魔王城落下地点付近──

 そこでは魔族──
 駕樂ガラクと激戦を繰り広げていた。

 対する戦力は、
 〝第2騎士隊長〟リーゼス・ロック
 〝こぶし拳聖けんせい〟マリア・アートハイム
 〝聖女〟ジューリア・クーロー
 〝第8騎士隊長〟システィア・エリザパルシィ
 〝第8騎士隊員〟以下数十名

 十分な戦力と言えるが、
 まだ魔族を押し返すことはできていなかった。

「流石にキツいの、老体には堪えるわい」

 リーゼスが苦しい表情で呟く。

 対する駕樂ガラクは堂々たる戦い振りだ。
 10mメートルを越える長身で、全身は真っ黒で両手には槍を持っており、黒い兜を被り2本の大きな角が生えている。

 エメレアに心臓への一撃を貰ったが、致命傷には至っていない。
 そのエメレアも先程の魔法で魔力を使い果たし、疲労困憊でクレハに介護されている。

一気いっきに倒せる相手ではありません、協力をして全員で挑みましょう!」

 その中でも落ち着いた態度のジューリアが話す。だが、その手には多量の汗が滲んでいる。

 ミリアの怪我の治療後、ジューリア、ミリア、クレハも戦いに合流したが、やはり魔族の壁は厚い。

「エメレアちゃん、大丈夫!! しっかりして!」

 クレハがエメレアの口に〝魔力回復薬マジックポーション〟を流し込む。
 エメレアは先程の魔法──〝暴風槍テンペストハスタ〟で魔力枯渇マジックダウン寸前であった。

 ミリアの怪我の回復後、ピシャリと気合いを入れ直し、魔族と戦おうと戦場に戻ったクレハとミリアが「その前にエメレアの治療!」と、瞬時に頭を切り替える程だ。

「大丈夫よ、これくらい──私はミリアにあだを成した、あの狼藉者ろうぜきものに天誅を下しただけよ!」

 だが、エメレアが怒り放った魔法も、心臓急所を捉えていたが、致命傷まではいかなかった。

「にしても、魔族って本当にデタラメね。まるでどっかの誰かみたい。確実にったと思ったのに……心臓を攻撃して、殺すどころか致命傷までいかないなんて」

 エメレアの使った魔法〝暴風槍テンペストハスタ〟はエメレアが使える最上級の魔法だ。

 それを急所に当てても致命傷とならなかった。
 内心ではエメレアは改めて魔族の固さをの当たりにし、舌打ちをする。

「エメレアちゃん、立てる? お願い、エメレアちゃんの力が、皆の力が今は必要なの!」
「勿論よ、クレハ、皆で勝ちましょう! 私なら大丈夫よ! 今度こそ皆で帰るわ!」

 エメレアの頭には〝7年前の魔王戦争〟の時に、自分は世話になっていたクレハの両親の力に成れず、死なせてしまったという、苦く苦しい思い出が頭を過る。

 勿論、この件にエメレアの責任は一つもない
 だが、エメレアは悔いていた。

 もし、役立たずだが、自分があの場にいれば少しでも何かが変わったんじゃないかと、自意識過剰と言われてもおかしくない、そんな想いをエメレアはどうしても捨てきれない。

「それはそうとお婆ちゃんのあの強さは何?」
「あ、うん、私も話は聞いてたけど、初めて見たかな? 私が生まれる前に病気で騎士は辞めて、騎士養成所の教官をやってたから、それ以前のことはあんまり詳しくは聞いてないんだよね」

「そう、でも、元気なのはいいことよね!」

 そんな話をしてる間にもクレハの祖母──マリアは第2騎士隊長のリーゼスと共に駕樂ガラクに向かい、魔力を纏った正拳突きをお見舞いしている

「ハッ!」
「せいッ!」

 駕樂ガラクは槍で受けるが、二人の攻撃に押し負け、後方に少し後退する。

「《円環と帰還せし・輪廻の理・撃ち果たせ》──〝光矢の雨ルークスアローレイン〟」

 戦斧せんぷを天に掲げ〝聖女〟ジューリア・クーローが魔法を使うと、魔法陣から放たれる何千もの光の矢が駕樂ガラクを襲う。

「流石は〝聖女〟……数もだが威力が違うな」

 システィアが感嘆の声を漏らす。

 すると、その時だ。この場に不釣り合いなほどあっけらかんとした声が響く──

「──あれ? さっき聞いた話より戦力が多いな? 〝聖女〟までいるじゃん」

 そしてその人物はふわりと移動し、魔族の背後を取る。

「〝雨霧あまぎり〟!!」

 右手に霧のような物を纏い、駕樂ガラクを攻撃する。

「うぐっ……!」

 駕樂ガラクがのけ反り、苦痛の声を漏らす。

「ぱ、パンプキック様!!」

 ジューリアは驚いた顔をする。

「六魔導士の〝霧裂きりさき〟パンプキック・ジャック殿!? ということは、今この都市に六魔導士が二人もいるということか!」

 システィアも驚きの顔を見せる。
 〝霧裂〟パンプキック・ジャック
 〝独軍ウヌエクルトス〟シラセ・アヤセ
 人類の最高戦力である6人の王国魔導士団の内、その二人が魔王戦争が起きたこの街にいる。

 この場の人間に取っては朗報であった。

「僕一人で相手する事になるかなと思ったけど、これなら早く片付けられそうだね」

 パンプキックが言う。

「──我を片付けるだと?」

 駕樂ガラクが口を開く、底冷えするような身体の芯が震え上がりそうな声だが、その口調には嘲笑ちょうしょうや怒りと言った感情も感じられる。

「そうだよ、君たちはここにいちゃいけないんだ。今引き下がるって言うなら止めないけど?」

 どこまてもあっけらかんとした口調のパンプキックだが、その瞳の奥には力強い信念が見える。

 駕樂ガラクは無言だ。
 考えているのではない、端から駕樂ガラクに撤退の文字は無い。なのに、一体何を聞いているのか? と不思議がっているのだ。

「まあ、君に判断権は無いか。魔王に聞いても良い返事を貰えるとは思えないけどね──」

 そう言うとパンプキックは戦う姿勢を見せる。
 そして魔族との戦いはパンプキックを交え、更に激化していく──。 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。 森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。 その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。 これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語 今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ! 競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。 まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

処理中です...