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第154話 凡ミス
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「ガーロックとパンプキックのお陰で、何とか魔王までの道が見えてきたな──あの煙がそうだろ?」
いや、正確には煙とは違う。
竜巻のようにぐるぐると回る、その煙は毒だ。
その煙を吸って苦しみ、皮膚は紫にただれ、のたうち回る者がいる。
ヒュドラの変異種の時を思い出すな。
「シラセ、これ、お前は大丈夫か?」
鼻に手の甲を当て、まだ魔王は先だが、ここまで風に乗って飛んでくる毒ガスを吸わないようにしているシラセに俺は声をかける。
「毒はあまり得意ではありませんが、私も多少の毒耐性はありますので、問題ありません」
『問題ありません』が、無理をして言った言葉なのか、本気で言ったのかは今のシラセのトーンでは分かりづらい。
だが、少なくとも足手まといにはならないだろう。
「なら、最初のとおりいくぞ! 俺が魔王、シラセは全身ローブを着た魔族の奴孔楼を撃て、無理なら変わるがどうする?」
「奴孔楼を撃ちます。相性的にも私が適任です! 失礼ですがユキマサさん、相手は魔王ですよ? 私よりご自身のことを心配してはどうなんですか?」
「だな、でも、俺は魔王に負けるわけにはいかない──なんたって、神様との約束だからな。魔王は俺が倒す」
「時々、貴方はスケールの違う話をしますね。でも、貴方の目は狂気を帯びてはいない、むしろ透き通っています」
真剣な言葉と視線でシラセは俺を評価する。
「そりゃどうも」
本当にいいやつだな、この戦いか終わったら何か奢ってやろう──などと、変なフラグが立ちそうなことを考えてると、もう間もなく魔王の近くに迫る。
「やっと、ご対面か──さっきは消えてどっか行っちまったからな!」
「魔王を前にそんなイキイキとした方、他にいませんよ?」
シラセは飽きれ顔だ。
「魔王ガリアペストと戦ってるのは、ノアか!? つーか、煙いな」
「はい、大聖女様で間違いありませんね。というか、これは煙いで済むレベルではありませんよ?」
そういうシラセは口にハンカチを当てる。
無いよりいいけど、お前のそれも、効果はどうなんだそれ?
一応は、魔王の毒だぞ?
ちなみに俺は〝状態異常耐性(極)〟のスキルが効いているのか、普通に魔王の毒を吸っても「うへ、空気汚いな」ぐらいの感想だ。
まあ、どちらにしろ長居はしたくないな。
「急いだ方がいいな、ノアが押され始めてる」
だが、その俺とシラセの前に立ちはだかる影がある。
「……奴孔楼」
シラセが小さく呟く。
この魔族のローブの下の顔は相変わらず見えない。
杖を翳し、こちらに何かしてくる雰囲気だ。
なら、その前に──
ビュンと、瞬時に俺は奴孔楼との距離を詰め〝アイテムストレージ〟から〝剣〟を抜き──
「悪いが、手加減は無しだ! 殺す気で行くぞ!」
奴孔楼の心臓部を斬る!!
「ガフッ……!」
ここに来て今まで何も喋らなかった奴孔楼が声らしい声を出す。流石に心臓を刺したのは効いたみたいだ。
「確か、頭と心臓を潰さなきゃ魔族は倒せないんだったよな?」
話してる暇も無し、と俺は次に奴孔楼の頭部を狙おうとするが……
(──不味い!! 何か来る!?)
「ユキマサさん!! 気を付け──」
慌てたシラセの声が聞こえる。
──ヒュン、ドン!
だが、そこで俺はシラセの声が途中で途切れた。
*
「──クソ、どこだここは!? 空!?」
回りの景色が一瞬で変わった。
これは〝瞬間移動〟!? いや〝座標石〟か!
飛ばされたんだ、遥か上空に!
そして今俺は絶賛落下中である。
だが、この際もう高さはほっとくとして、横の距離はそこまで遠くまでは飛ばされてないみたいだ。
一応、エルクステンの街も目視で見えるし、竜巻みたいな魔王の毒ガスも少し遠くに見える。
つーか、奴孔楼め、あいつ味方以外も飛ばせるのかよ。
誤算だったな……いや、俺の凡ミスか。
こりゃ、このまま着地したら街の外だな。
どうすっか、また随分と魔王から離されちまったな。
(まあまず、取り敢えずは地面に下りるか)
俺は飛ばされた上空から地面に向かい、時速200km程度で落下する頭で、そう考えるのだった。
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