154 / 378
第153話 第6隊
しおりを挟む──大都市エルクステン
ドラグライト孤児院前──
「《走れ・水の波・数多の龍》〝水龍の波〟!!」
水の魔法で作られた二匹の水の龍が、魔物を倒す。
「チッ、キリが無いな!」
長い金髪の髪を揺らし、クシェリが舌打ちをする。
「クシェリさん、危ないっ!!」
クシェラの背後から、大きな蛇の頭を二つ持つ魔物が噛みつこうとしている。茶髪のボブカットの少女──サラがクシェリに向かい、慌てて声をかける。
そしてその直ぐ側には、何人かの武装した者達がおり、苦戦をしながらも、何とか攻防に耐えている。
「ふん、愚妹め、サラに心配をかけるな!」
ザン! と、二つの魔物の頭をクシェラが斬る。
「愚兄!? 礼は言わんぞ? あれぐらい自分で対処できた」
「必要ない、それよりも愚妹、一時休戦といかんか? とてもじゃないが、今いがみ合っていては、家の中で怯える幼女達を心から安心させてはやれない」
「そうだな、私も尊き男児達を危険に晒すのは避けたい。構わんぞ、一時休戦だ! 子供達を守るぞ!」
クシェラとクシェリは背中を合わせる。
「無論だ」
「それにサラ! お前達も家に入れ! まだまだお前達は私たちに守られていればいい!」
クシェリが駆けつけた孤児院の卒業生達に声を張る。戦力は多いに越した事はないが、幾分、まだ卒業生達の動きはクシェリ達から見れば危なっかしい。
「私達にも手伝わせてください!」
「そうです、俺達も役に立ちたいんです!」
「お願いします!」
「……だ、そうだ、どうする、愚兄?」
「……まあ、手が足りないのは事実だ。ならばありがたく手伝って貰おう、それと極力魔物とは複数人で戦うようにしろ!」
「「「「「「「「分かりました!」」」」」」」」
クシェラが指示を出すと、卒業生達は嬉しそうに声を揃え返事を返す。
*
──大都市エルクステン
ギルド受付前付近──
「フォルタニアさん、戦場はどうなってますか?」
ロキが神妙な表情でフォルタニアに質問する。
だが、ロキの口調はいつもよりも重い。
「ウチの騎士隊だと、第1、第3、第6、第7隊は街の魔物と戦っています。第2、第8隊は魔族と交戦中、尚、同所には〝聖女〟ジューリア・クーロー様と〝拳の拳聖〟マリア・アートハイム様がいらっしゃるようです」
「なるほど、それと魔王は?」
「魔王は大聖女様が食い止めてるようですが……」
「どうしました?」
「魔王ガリアペストから出る毒ガスや病原体により、少なくない数の人的被害が出ています、このままでは魔王を倒す以前に、下手をすれば毒で全滅かと」
──バタバタ、ドン!
「し、失礼します、ギルドマスター!!」
すると、そこに〝鳥人族〟の少女が、ギルドに駆け込んでくる。
少女の身体は傷だらけで、あちこちから血が流れている。
近くにいたフォルタニアが慌てて駆け寄り、ギルドの職員が急ぎポーションを運んで来る。
「ほ、報告します! 魔王ガリアペスト軍の魔族──愧火が現れました。第3隊と第6隊が交戦しましたが、劣勢。現在第3隊と第6隊はヴィエラ隊長とルドルフ隊長以外、まともに動ける者は無く、隊は壊滅状態です!」
「「「「「「!!」」」」」」
報告を聞いたギルドの者達は驚きを見せるが、その中でただ一人、ロキだけが冷静に話を聞いていた。
「報告ご苦労様でした。あなたは怪我の治療をしてください。後は私にお任せください」
「あ、あと、街の城壁の外からも大量の魔物が来ています!」
「分かりました、合わせて確認します」
ロキは視線でフォルタニアに合図を送ると、報告を終え、気を失った少女を抱き上げると、ギルドの職員に「怪我の治療を。合わせて多くの怪我人が運び込まれて来ると思います。緊急体制を取って、ポーションも掻き集めてください」といい、少女を預ける。
*
──大都市エルクステン 西部──
「はぁ、はぁ、何て速さなの!」
「防ぐのがやっとですね、反撃まで手が回りません」
第3騎士隊長の長い緑髪の女性──ヴィエラ・フローリアと、その近くには猫人族の青年がいる。名はルドルフ・ロドライハ、ギルド第6騎士隊長である。
その姿は猫耳忍者だ。口には黒い口あてをしている。
辺りには第3隊、第6隊の隊員が、ほぼ全滅状態で倒れている。
「ハハッ! 戦争は楽しいなぁ!」
着崩した和服に刀を持った、顔にも体にも白い包帯をぐるぐる巻きに巻いている。赤い鋭い目の魔族だ。
──ヒュン!!
愧火が動く、その動きは速い。
「くっ!?」
目には自信のあるヴィエラだが、そのヴィエラでも目で追えず、刀の一振の攻撃を受けてしまう。
魔力を纏い、腕で庇うが僅かに押し負け、赤い鮮血を飛ばす。
「ヴィエラ殿!!」
ルドルフが慌てて駆け寄るが、ヴィエラはそっと手でそれを制す。
「ご心配無く、かすり傷よ」
その様子を見て魔族──愧火は不適に笑う。
「いいねぇ、そうこなくちゃ楽しくねぇよなァ?」
空気が冷たく感じる、そんな感覚をヴィエラとルドルフは同時に強く感じた。
そうして戦況は刻一刻と時を刻んでいく──
46
お気に入りに追加
539
あなたにおすすめの小説
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした
服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜
大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。
目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!
そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。
まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!
魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。
ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。
剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。
しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。
休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう…
そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。
ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。
その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。
それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく……
※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。
ホットランキング最高位2位でした。
カクヨムにも別シナリオで掲載。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる