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第147話 座標石
しおりを挟むローブを着た魔族は杖を構える。
フードで顔を覆っており、その顔は全く見えない。
(何だ、何をする気だ!? それにクレハのあの様子も気になる──クソッ、バタバタしてきたな!)
すると、ローブの魔族──シラセは〝奴孔楼〟と呼んでいたそいつが杖を構えると、辺りに野球ボールぐらいのサイズの、黒い玉が無数に現れる。
数は百や二百じゃない、それ以上だ!
ヒュヒュヒュヒュヒュン!!
その玉が高速で街全体に散らばる。
ドン!
奴孔楼が杖で地面を衝く。
すると、魔王城からズラズラと魔物の大群が現れる。これも数は百や二百じゃない、なんつー数だ。
問題は次の瞬間に起こった──
──ヒュン、バン!
そんな効果音と共に、数えきれないぐらいの数がいた魔物が、一斉に魔王城から姿を消す。
(いや、違う! これは消えたんじゃない!)
パッ──
驚く事に魔物が街のあちこちに一瞬で移動する。その魔物の現れた位地は、さっきの黒い玉が散らばった場所と、ピタリと一致する。
「これは〝座標石〟!?」
「〝座標石〟? 何だそれは?」
「先程の黒い玉の事です。かなりの手練れではないと扱えない代物なのですが──〝座標石〟の場所と、任意で何か他の物の位置を一瞬で入れ替える魔法です」
よく見ると、魔物が消えた後に、先程の黒い玉が散らばっている。入れ替え……そういう事かよ。
「その〝座標石〟があれば今みたいに〝瞬間移動〟ができるってことかよ?」
「そうなりますね、かなり厄介です。早く術者である奴孔楼を倒さなくては、これがずっと続きます」
(そりゃ面倒だ、是非先に片付けておきたい)
「ま、魔物が出現しました!」
「この一瞬で!?」
「システィア隊長、し、指示を!」
俺はシラセに聞けたが、魔物が急に現れる事態の理由が分かってない第8隊は、急に現れた魔物にパニックになる。
「エメレア、クレハを頼む」
「は、はい!」
クレハをエメレアに任せると、システィアは呪文の詠唱を始める。
「《我は風を纏い・彼の者を斬り刻む・殲滅せよ》──〝風斬〟!」
風魔法を纏ったレイピアで、システィアが周辺にいる魔物を一掃する。
「全員、気を引き締めろ! あの黒い玉の場所に魔物が現れる! 市民を守りつつ、他の隊と合流せよ!」
「「「「「「「了解しました!」」」」」」」
──ヒュン、バン!
だが、直ぐに新しい魔物が配置される。
その一匹がクレハとエメレアのすぐ背後に現れる。
「クレハ、エメレア危ない!」
ミリアが叫ぶ。
「《水よ・氷よ・盾となれ》──〝氷の盾〟!」
氷の盾が現れ、クレハとエメレアを守る。
「──でかしたぞ、ミリア!」
気づいたら身体が動いてた。俺は瞬時にクレハ達のいる場所に走った。だが、出番じゃなかったみたいだな。ミリアの魔法の盾が魔物の攻撃を十分に防いだ。
「ユキマサさんっ!」
ミリアが嬉しそうに俺の名前を呼ぶ。
「話は後だ、魔物を片付けるぞ」
まず、クレハとエメレアの背後に現れた魔物を、俺は瞬時に〝アイテムストレージ〟から〝魔力銃〟を取り出し、魔力弾を眉間に命中させ、魔物を倒す。
今のはミノタウロスか? どうでもいいが。
そんな事よりだ……
「おい、クレハ! どうした!? 大丈夫か!!」
俺はエメレアに支えられるクレハに声をかける。
「ユキマサ君……だ、大丈夫、少し昔を思い出しちゃって……」
その顔色は悪い。
クレハのこれはトラウマか……
クレハは〝7年前の魔王戦争〟で両親を亡くしている。しかも自分を魔物から逃がす為にだ。
この魔王はその時の魔王でも魔物でも無いが、クレハは必要以上に魔王という存在の出現が敏感になっているのだろう。
「クレハ……」
「も、もう、だ、大丈夫! しっかりしなきゃ……! エメレアちゃんもミリアも、ごめん、ありがとう!」
クレハは俺を見ると、一度ギュッと目を瞑んだ後、パシッと自分の顔を手で叩き、気を入れ直す。
「大丈夫そうか? それに心配すんな、魔王は俺が倒しといてやる──市民を連れて、下がりな?」
ポンッと、俺はクレハの頭に手をやる。
「──ちょっと待ちなさいよ! 倒しといてやるって、相手は魔王よ!? 貴方、分かってるの!?」
そう言って来るのはエメレアだ。
「分かってるよ。この世界には元より、魔王を倒す、そのつもりで来てる。今更怖じ気づく訳にいかない」
「この世界? 一体何の話よ?」
エメレアは素で聞き返してくる。
「さあな、この戦いが終わったら話してやるよ」
そんな変なフラグ染みた台詞を俺は呟く。
と、その時だ──
──ドガガガガガンッ!
魔王城の奥から大きい音を立て、何かが出てくる。
その近くでは、シラセが奴孔楼と戦っている。
現れたソイツのその姿は、まるでグレイじゃない方の宇宙人のような奴だ。その体長は5~6mはある。
凄まじい魔力の量に、鍛え抜かれた体には長く鋭い尻尾のような物が3本あり、後頭部は長く、体の周りには紫と黒の2色のガスみたいな物が渦巻いている。
そしてその姿を見たシラセが焦ったように叫ぶ。
「──ま、魔王ガリアペスト……!!」
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