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第145話 黒い山
しおりを挟む──隕石が落ちて来る。
街の中もギルドも大騒ぎだ。
そりゃ当たり前だ、急に隕石何て降ってくれば。
だが、今はみんな固唾を呑んで、その様子を静かに見守っている。
理由は簡単、それに対抗する手段である、街を一つ包み込む、ノアの結界が張られたからだ。
「俺は念の為、近くまで行くぞ?」
「分かりました、予測落下地点近くには第8隊の方々がいる筈です」
フォルタニアが情報をくれる。
(つーか、第8隊の方々って──あいつら悪運強いんだが、弱いんだか……変な所の変な確率引くよな)
「私も行きます」
そうシラセが言う。
「分かった」
断る理由もないので、俺はシラセの言葉に頷く。
勿論、走っていくのだが、シラセに合わせて最初は少し加減して走っていたら「私にお構い無く走ってください」と言われた。
俺とシラセは屋根から屋根を走る。
障害物が無いのと、空がよく見えるからだ。
もうすぐ結界に隕石がぶつかる。
思ったよりも早い。
隕石の落ちる落下予想地点──
その場所は俺も何度か通った、街をぐるりと囲む城壁の合間にある〝大砦の門〟付近だ。
すると、砦の方から第8隊がこちらへ待避してくる。
「ユキマサ君!?」
「クレハか、無事みたいだな。よかった」
「ユキマサと──そちらは六魔導士の」
システィアが俺とシラセに目を向ける。
「〝独軍〟!? 何でこのバカは、毎回毎回そんな大物連れてるのよ! この大物ホイホイ!」
毎度の如く、変な渾名を付け、俺を呼ぶのはエメレアだ。隣にはしっかりと臨戦態勢のミリアがいる。
(ミリアはこういう所はホントしっかりしてるんだよな……)
「──話してる暇はありませんよ。皆さん、万が一の事態に備えてください」
シラセが冷静な口調で言う。
そのシラセの声を聞き、第8隊は気を引き締める。
よく見ると、周辺には、逃げ遅れたのか、ノアの結界を信じてか、それ以外の理由なのかは知らないが、市民も多くいるみたいだ。
「ぶつかるぞ!」
俺がそう言った瞬間だ──
──ヒュウゥゥン!! ドォォォンッ!!
結界に隕石が当たると同時に辺りがピカッと赤く光る。
ドカドカドカーーンッ!!
結界に当たった隕石は結界から先に来ることは無く、結界に当たると共に雪崩のように崩れていく。
隕石が防がれ、少しの沈黙の後──
──うわぁぁぁ!!
と、周りからは歓声が上がる。
隕石の危機が去ったのだ。
声をあげて喜びたい気持ちも分かる。
(……だが、何だこの違和感は──)
それにノアの神託には、
〝赤い石〟の他に〝黒い山〟があった筈だ。
その〝黒い山〟ってのは、文字通りノアの結界の外で山のようになっている、隕石の残骸のことなのか?
……違う気がする。嫌な感じだ。
「ユキマサ君、何だろ、私、凄く怖い……」
震えるクレハが俺の手の袖を掴む。
「エメレア、私も何か嫌な予感がする」
ここで今日初めてミリアが口を開く。
そんな二人の様子を見てか、他の第8隊員達にも同様が広がる。第8隊員は50名はいるだろうか?
〝変異種〟のヒュドラの時にいた顔ぶれだ。
ちらほらと覚えのある顔がある。
「シラセ、お前はどう思う?」
「私も胸騒ぎがします」
シラセが空を仰ぐ。
と、その時だ、
俺は空におかしな物を見つける──
「雨雲? 豪雨でも来るのか?」
「違います! あれは……嘘……!?」
暗く陰った地面が近づいてくる。
これは空に何らかの日を遮る物があるからだ。
パッと見、は雨雲かと思ったが違う。
「なんだありゃ、空に黒い城──?」
雷鳴を纏う黒雲に包まれ、
その中にあるのは、どうみても城だ。
そして、この大きな城は、山のようにも見えなくもない。
(嫌な感じだ──ノアの神託にあった、黒い山というのは、多分、これのことで間違いなさそうだな?)
「嘘……でしょ……」
「エメレア、フォルタニア殿に報告だ!」
「わ、分かりました!」
クレハは口を手で覆いながら城を見て、システィアは慌ててエメレアに指示を出し、エメレアが急ぎフォルタニアに〝精神疎通〟で、事態を報告している。
すると、シラセも焦った様子で口を開く。
「……魔王城。あれは〝魔王ガリアペスト〟の城です。魔王が攻めて来ました。魔王戦争が始まります──」
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