生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】

雪乃カナ

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第138話 鑑定と護衛依頼

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 次の日、俺はレヴィニアとの約束通り、午前八の刻に〝大砦おおとりでの門〟へ来ていた。

 そこにはレヴィニア、イルザ、そして赤茶色の鎧を着た兵士が、ざっと300人はいた。確かこの赤茶色の鎧の兵士はエルクステンの憲兵だな。

「ユキマサッ!」

 俺を見つけると、レヴィニアが駆け寄って来る。

「悪い、遅くなったな。それにしっかり休んだか?」
「ええ、それなりには」

「ユキマサ様、ご足労感謝いたします」
「いいよ、金も貰っちまってるしな」

 すると、こちらに一人の人物が歩いてくる。
 初老の髭を生やした何か厳格そうなおっさんだ。

「レヴィニア様、そやつが例の冒険者ですかな?」

 といい、厳格そうなおっさんが俺に視線を向ける。

「ユキマサって言うの、とっても頼りになるわ」

 ピタリとレヴィニアは俺の左腕に抱きついて来る。
 レヴィニアの中では随分と俺は高評価みたいだ。

「私はこの〝大都市エルクステン〟の領主を任されている──ガーロック・サカズキンだ、君のことはギルドマスターのロキからも話を聞いている、今日は宜しく頼むよ」

 淡々とした声でガーロックは自己紹介をしてくる。

「先に名前は言われちまったが、ユキマサだ。こちらこそ」

 レヴィニアに名前を言われたばかりの為、俺は本当に短く自己紹介をする。
 ちなみに〝ステータス画面〟の提示は向こうも無いので、俺も提示はやめておいた。

 その後、ガーロックの指揮のもと、竜車に乗り〝大都市エルクステン〟を出発する。
 人数に対して、やけに竜車の数が多いのは、帰りに昨夜の戦いで亡くなった〝イリス皇国〟の兵士の遺体を積んでくる為だろう。

 ──くだんの、その場所までは数時間かかった。
 途中、休憩を挟んだり、魔物と戦ったりもした。

「こりゃ酷ぇな……」

 目的地に着いた俺は辺りを見渡し思った感想を呟く。

 この辺りだけ地面や木々がぐしゃぐしゃになっており、辺りにはバケツをひっくり返したかのような量の血が、散乱している。

(100人とか200人とかの血の量じゃないな)

 その奥の方には、何かが爆発でもして、できたかのようなクレーターもある。

「ごめんなさい……みんな……ごめんなさい……」

 馬車を降り、この場所を目の当たりにすると、レヴィニアは近くに落ちていた、誰のものかも今じゃ分からない、を拾い上げ、震えながら謝っていた。

「レヴィニア様、お気を確かに」

 慌ててイルザが駆け寄るがレヴィニアは、ずっと震えている。

「レヴィニア! おい、レヴィニア!」
「──ッ! ゆ、ユキマサ…………」

 俺がゆさゆさと身体を揺らしながら名前を呼ぶと、やっとレヴィニアは放心状態から戻る。

「ねぇ、ユキマサ、私、私、どうしたらいいの……」
「……」

「皆死んじゃって、バラバラな遺体は、もう誰のかすら分からない……そんなの酷過ぎるわ……」

 ポコポコと俺の胸に優しくハンマーパンチをしながら、レヴィニアは涙を流す。

「……アイシュ・クロノイサ」
「え?」

「お前の持っている、千切れた手の持ち主の名だ」

 俺はスキル──〝天眼〟を使い、
 その手の持ち主を判別する。

 ──
 名前 アイシュ・クロノイサ
 状態 死

 俺の目には、ゲームのステータス画面のように、その手が誰のものなのか、文字が浮かんで見える。

「君はそれが誰の物か分かるのか?」

 そう質問してきたのは、今の一連の流れを黙って見ていたガーロックだ。

「ああ、俺のスキル〝天眼〟でな」
「そんなスキルも持っているのですか!?」

 話を聞き、イルザが驚いた様子を見せる。

「鑑定は俺がやる。他の奴は遺体を集めてくれ」

 そういい、俺はこの戦場に散らばる、人の遺体を誰のものかを鑑定する役目を、自ら引き受ける。

 ──その後、予定通り運ばれてきた遺体の殆どが、手だけや、足のみ、下半身のみ、右半身のみと言った、見るも無惨なバラバラの遺体だった。

 そしてどの遺体にもが見当たらなかった。

 一時間、二時間、三時間と、ただひたすらに俺は鑑定を続ける。

 次に、運ばれてきた誰かの腕を鑑定すると、

 ──
 名前 イシガキ
 状態 死

「イシガキ」

「「!!」」

 今まで俺のその様子を見て、一人一人の遺体に「ごめんなさい」と、手を合わせていたレヴィニアとイルザが、これまでと違った反応を見せる。

「イシガキ……イシガキなのね……ごめんなさい」

 レヴィニアが、その腕を大事そうに抱き締め涙を流す。

「貴方と、皆が──私とイルザを逃がしてくれたお陰で、私はユキマサに助けて貰うことができたわ、本当にごめんなさい。それと本当の本当にありがとう」

「レヴィニア様、こちらを──」

 そう言い、兵士の一人が持ってきたのは剣だ。

「これ……イシガキの……」

 その剣を大事そうにレヴィニアは受けとる。

「イシガキ、イシガキ……っ……」

 イシガキの名前を何度も呼んで泣き、イルザに背中を擦られているレヴィニアに、俺は何も声をかけてやることができなかった──

 *

 戦場の遺体を回収し、帰りの竜車の中、レヴィニアは疲れて寝てしまっていた。
 ちなみにイシガキの剣は形見としてレヴィニアが貰うことになった。

「んっ……ん……私、寝ちゃったんだ……」

 瞼を擦りながらレヴィニアが起き上がる。

「おはよう、もう少しで着くぞ」
「ユキマサ、私、そんなに寝ちゃってたんだ」

 少し顔が赤いレヴィニアは俺から視線を逸らし、来ていた服のシワをパシパシと手で直す。

「レヴィニア様、何かお飲みになられますか? 昨日から何もお召し上がりになられてないでしょう? せめて、水分ぐらいはお取りください」

 と、何故か竜車にティーセットを持ってきているイルザが、レヴィニアにお茶を煎れようとしている。

「ええ、いただくわ。ユキマサもどう?」
「じゃあ、せっかくだ、俺もいただくかな」

 ちょうど喉も渇いていた所だったので、俺はお言葉に甘える事にする。

「はい、直ぐに」

 手慣れた手付きで紅茶を淹れる。

 と、その間に俺は〝アイテムストレージ〟から、昨日ミリアに貰ったメロメロンを取り出す。
 ハートの形の網状の線の入ったメロンだ、

「貰い物なんだが、どうだ? レヴィニア、食べるか?」
「!? え、あ、メロメロンね……〝アイテムストレージ〟から出てきたのを見たのは初めてよ」

 俺が〝アイテムストレージ〟からメロンを出した事に、驚いたらしいレヴィニアは少し言葉が詰まる。

 でも直ぐに「ふふ、可愛いわよね、このメロン。そうね、いただくわ──」と〝アイテムストレージ〟からのメロンの登場で、少しだけ笑みを見せてくれた。
 ──これはミリアに感謝しないとだな。
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