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第132話 魔族5
しおりを挟む「魔族に長寿だなんて言われる日が来るとは思わなかったな。長生きはしてみるモンだ。酒の席の与太話が増えたぜ──で、お前は魔族アルケラ……だよな?」
ぐるりと旋回し、質問しながらも、その質問の解答を待たずに、フィップはアルケラの心臓を目掛けて、大鎌を振り下ろす。
だが、奇襲であった筈だが、その攻撃はアルケラに寸での所で、防がれてしまう。
「チッ、防いだか──にしても、その傷は誰にやられたんだ? まさか、転んだとか言わないよな?」
今のフィップの攻撃は鋭い一撃だった。
加えて奇襲。それを防ぐ目の前のコイツも生半可ではないと、フィップは気を引き締める。
「──〝爆鎌〟!」
フィップが大鎌を振るい、その鎌に合わせて使用した魔法によって、大鎌の当たった先が爆発する。
「……チッ、重いな。面倒な人類め」
蠍の腕のように変化させた右腕でそれをアルケラが受け止めるが、ユキマサとの戦いでボロボロの、その腕では全てのダメージは防ぎきれず、アルケラは舌打ちする。
「聞きたい事もあるが、どうせ喋りはしないだろうしな? それに魔族にかけるような情けは、あたしは持ち合わせて無いんでな。会った時からズタボロの瀕死の奴でも、容赦なく殺して行くぞ──覚悟しなッ!」
パチンッ──と、フィップが指を鳴らす。
すると辺りには、数十……
いや、百近い魔法陣がアルケラを囲い込んでいた。
「小細工を……」
アルケラはフィップを睨むが、その顔にあまり余裕は無い。万全ならば不敵な笑みの一つでも見せたかも知れないが、今のアルケラにそんな余裕は無かった。
「《射て・穿て・光よ・貫け》──〝光熱線〟」
百の魔法陣から光輝く光速の熱線が放たれる。
その魔法の個々が爆発し、纏まり大きな爆発の後、砂煙が立ち上がる。
「流石に死んだか?」
魔法を放ったフィップがボソリと呟くが、砂煙の中に人影を発見する。
「クソが……」
ズタボロだった体には無数の風穴が空き、おびただしいではすまない量の血が出ている。
「驚いた、生きてたのか、流石は魔族だ」
人影を見るや否や、直ぐにその背後に移動したフィップが、アルケラの背後から、アルケラの首に大鎌を当てながら驚いた声で言う。
「あの白髪頭が取った行動の意味が何となく分かった。追い詰められたらネズミじゃなくても、最後の手段ぐらいには出るもんだな」
そう呟くアルケラの全身からは、どんどんと黒い煙が立ち上がる。
「何の話しだ?」
ザンッ!! ドサリッ!
フィップは強く魔力を込めた大鎌で、アルケラの首を落とす。
が、──
「何だ!? よく喋る、その首を落としてから、そのガチガチに守ってやがる心臓を斬るつもりだったが、チッ、順番を間違えたか!?」
フィップは、この状況でもそれだけは完全に守り抜いた傷一つ無い、アルケラの心臓部を直接狙うか──着実に首を落とし、心臓への守りが弱くなった所で心臓部分を狙い、確実にトドメを刺すかを考えた。
基本、頭でも何処でも再生するような敵でも、首を落とせば、数瞬は動きが止まる。
以前、不覚を取った〝魔王信仰〟の〝禁術者〟も首を落としてから、禁術の発動までは時間があった。
故にフィップの長年の経験からの判断で、まず首を落とす事を選択した……
が、それがミスとなった。
普通の常識が通じない、それが魔族だ。
落ちた首からは爆煙のように黒い煙が上がる。
そして、その煙がフィップの全身を包む。
「毒か!? いや、違う、何かの魔法か!?」
「俺はここまでだ。もう魔力が持たない、だが一人じゃ、味気ない、さぁ、一緒に逝こうぜ──吸血鬼」
もう魔力が持たないと判断したアルケラが取った行動は、意外にも自爆であった。
──ヒュン! パッ!!
「だったら、もっと早く自爆するんだったな?」
ザクリッ!
「!?」
身動きの取れないフィップの目の前で起こった光景は大きく分けて3つ──
1つは何者かの二人組が目の前に急に現れた。
2つはアルケラの心臓が黒い剣で斬られた。
3つはその心臓を斬った人物が話しかけて来た。
「──フィップ、お前、何でこんな所にいんだよ?」
その〝スイセン服〟を着た黒髪の少年は、この場の空気では、少し不釣り合いな程に、落ち着いていた。
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