130 / 378
第129話 魔族2
しおりを挟む*
(──クソッ! 何なんだよ、アイツは!?)
まさか空中から地中へと、真っ直ぐに蹴り落とされる事になるだなんて、今まで微塵も考えた事のなかった──〝魔族アルケラ〟はブシュー! っと、頭から噴き出す血を手で押さえながら、怒りと驚きを交えた思考を頭に巡らす。
(あれは人間なんて可愛いもんじゃねぇ……敵だッ!)
目をカッと開き、アルケラは臨戦態勢を取る。
「あれは、万が一にも〝魔王イヴリス様〟の妨げとなる可能性がある……ここで俺が息の根を止める」
*
「チッ……切り替えたか……」
アルケラの落ちた……というか、開けたクレーターの中から、禍々しい殺気と、先程までは無かった俺への明確な敵意を感じ、俺は小さく舌打ちする。
今までは、アルケラは俺達をただの人間ぐらいにしか考えていなかったからだろう。
簡単に言えば、油断と言うか、隙が多々見えた。
(本当なら最初の一撃と、次の攻撃の二撃で倒すつもりだったが……普通に耐えられちまったな……)
そんな事を考えていると……
──ドンッ!
と、地中から飛び出してきたが、俺の喉へと、蠍鎌のように変化した鋭く大きな、その右腕で一直線に狙ってくる。
瞬時に俺は、また〝アイテムストレージ〟から〝剣〟を出し、その攻撃をガキン! と、受けながら、身体を右に逸らし、反撃をしかけようとする。
が、アルケラが、もう片方の腕を、こちらは剣のように変化させ、ぐるりと振るう。
その剣に変化した腕には、黒い霧のような物が纏われている。嫌な気配だ。呪いや瘴気──そんな言葉がよく似合う。
似たような物を、先日倒した。禁術で〝半巨人の影の化物〟に変身した〝魔王信仰〟の〝禁術者〟で見た気がするが、あれよりずっと禍々しく威力も強い。
そして振るわれた、攻撃を俺は走り高跳びの背面飛びのように跳び、スレスレを避けながら、バン、ドンと、地面を蹴り──そのままアルケラの背後を取り、首を狙って斬りかかる!!
これにはアルケラも予想外らしく、少し振り向いた目を丸くしている。
──バン! と、アルケラの背中から急に黒い翼が飛び出し、その勢いで俺を吹き飛ばしに来る。
この翼の出現に今度は俺がビックリする番だった。
「この人間、あれ避けるのかよ!?」
忌々し気にアルケラは、広げた黒い翼を使い、空に向かいながら、今の攻撃の後を目で追っているが、そこには俺の姿はもう無い──
「──ッ!? どこ行きやがった!?」
慌てて左右を確認し、アルケラは俺を探す。
次の瞬間、ザクリッ! ザクッ! と、アルケラの黒い翼が斬れる。
「うがッ!?」
そして俺は痛みに声を上げる、アルケラの真っ正面に現れ、そのまま胴体を、腹の辺りから首の辺りまで、下から上に斬り上げる!
「ガハッ!」
堪らず、アルケラは血を吐くが、まだ倒れない。
俺はアルケラの背後を取り、アルケラに言い放つ。
「──どうした? 俺の心臓を食うんだろ? こっちだぞ?」
ザクリ! ザンッ! ザン! と──
アルケラを背中から斬って、斬って、斬る!!
「クソッ……この俺が……こんな人間に……ぐふッ」
「魔族だか何だか知らねぇが、さっきから俺は機嫌が悪いんだよ──なぁ、アルケラ?」
──ザン! と、真っ正面から俺はアルケラの口から、剣を刺し、喉を貫通させる。
クレハを殺す──先程、遠回しにそう言われてからと言うもの……自分でもビックリするぐらいに、俺の心中は穏やかでは無かった。
今の剣も何の躊躇いも無く、アルケラに刺せた。
にしても、死なないな……
かなりのダメージを与えた筈だし、喉まで俺の剣が貫通してるんだぞ? 普通、人間なら即死だ。
(何か弱点というか……核になる部分とか、そこを壊さないと死なないみたいなのが、あったりするのか?)
「──ユキマサ君! 魔族は頭の脳と心臓部の2つを破壊しなきゃ死なないよ! そこを狙って!」
俺の心を読んだかのような、抜群のタイミングでクレハが重要な情報を教えてくれる。
そこからの俺の動きは早い──
アルケラの口から入り、喉を貫通している〝剣〟を、そのまま更に上へ──ヒュンっと、瞬時に斬り上げ、アルケラの頭を真っ二つにする。
そして、それと殆ど同時に、瞬時に〝アイテムストレージ〟から取りだした──〝魔力銃〟でアルケラの心臓をドバンと撃ち抜く! あまり時間が無かったが、魔力も強めに込めてある。
だが、アルケラの心臓を目掛けて撃った〝魔力弾〟は、当たりはしたが、間一髪致命傷に届いていない。
アルケラの何かしらの魔法でギリギリ防がれた。
何の魔法かは知らないが、それだけは分かった。
魔族は、脳を破壊しても動けるし、魔法も使えるみたいだ。恐らく魔力で体を動かしているのだろう。
そして魔力の源となる場所は脳と心臓らしい。
だから、その2つを破壊しなければいけない。
後、もう一つ、俺は〝頭部と心臓の2つを破壊しなければいけない〟という、理由を見つける。
回復しているのだ……
少しずつだが……斬った頭が──
恐らく、頭と心臓、どちらかだけを破壊しても、そのどちらかが残ってる限り、頭でも心臓でもコイツら魔族は時間が経てば回復できる。
だからアルケラは今の俺の攻撃に対して、頭部は捨て、心臓だけを集中して守ったんだ。
「逃がすかッ!」
逃走を図ろうとする、アルケラを俺は逃がさまいと、もう一度──アルケラの心臓目掛け〝剣〟を振るおうとするが、その時……
「──イルザッ!!!!」
今までで一番の悲鳴が、ドレスのお姫様から上がる。
確かめては無いが、その声音と直感で分かる。
イルザが息を引き取った。
もしくはそれに限りなく近い状態となったのだ。
俺は反射的にクレハ達に意識が行ってしまう。
……その結果、それがアルケラの命を救ってしまった。
(しまっ──)
一瞬、俺が気を取られた──
その瞬間を逃すアルケラでは無かった。
結果から言うと、アルケラは全力で逃げた。
頭は裂け、夥しい量の血がでているが、その顔に残った2つの鋭く赤い目玉で、さぞかし忌々しそうに、
──俺と……そしてクレハを睨みながら。
「待ちやがれッ!」
だが、その後を追おうとする俺にドレスのお姫様が、切実な思いを心から叫ぶように声をかける。
「──お、お願いしますッ! どうかイルザを助けてください! 私のとても大切な人なんですッ!」
その声に、俺は一瞬また動きが止まってしまう。
「──ッ」
(ダメだ……)
これ以上は1秒でも考える時間すら惜しい。俺はアルケラを追うのを一旦止め、クレハ達の元に走る──
36
お気に入りに追加
540
あなたにおすすめの小説

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
ReBirth 上位世界から下位世界へ
小林誉
ファンタジー
ある日帰宅途中にマンホールに落ちた男。気がつくと見知らぬ部屋に居て、世界間のシステムを名乗る声に死を告げられる。そして『あなたが落ちたのは下位世界に繋がる穴です』と説明された。この世に現れる天才奇才の一部は、今のあなたと同様に上位世界から落ちてきた者達だと。下位世界に転生できる機会を得た男に、どのような世界や環境を希望するのか質問される。男が出した答えとは――
※この小説の主人公は聖人君子ではありません。正義の味方のつもりもありません。勝つためならどんな手でも使い、売られた喧嘩は買う人物です。他人より仲間を最優先し、面倒な事が嫌いです。これはそんな、少しずるい男の物語。
1~4巻発売中です。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした
コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。
クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。
召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。
理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。
ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。
これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。

俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~
シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。
目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。
『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。
カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。
ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。
ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる