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第128話 魔族
しおりを挟む異世界なら、異世界の空からなら、漫画や映画の世界の中のように〝空から女の子が降って来たり飛んできたりしても可笑しくは無い〟と──
なぜか俺は心の何処かで、そう思っていた。
……だが、これは予想外だ。
森の奥から、片腕を無くした瀕死のメイドがドレスのお姫様を抱えて、木々を薙ぎ倒しながらボールのように飛んで来た。
そして後ろからは、如何にもな悪役の登場だ。
……しかも、どう見ても人じゃない。
人型だが……亜人……でも無いだろうな。
どう見ても、悪魔とか妖怪とか、その類いだ。
「は、早く逃げてくださいッ!」
イルザと呼ばれていたメイド服の女性が叫ぶ。
そしてその肩を支えながら、クレハがポーションをイルザの肩の傷口にかけている。
(それに先程から、この悪魔姿の敵は、メイド服姿の女性を一点に見ている。隣のお姫様が狙いかと思ったが違うのか?)
そして俺は地面を蹴り、一瞬で空中の〝悪魔姿野郎〟に距離を詰め──
くるりん。
と、空中で綺麗に時計回りに回転し、足に魔力を込め──〝悪魔姿野郎〟の脳天に踵落としを喰らわせる!
──ズッ、ドォォンッ!!
〝悪魔姿野郎〟に、踵落としが命中すると、爆音を上げ、後方へと斜めに吹き飛んでいく。
(つーか、この世界はやたらに人とか吹き飛ぶよな)
スタッと、俺は一度クレハ達の元へ着地する。
「……ッ!?」
「な、何が起こったの……」
「!!」
唖然とするイルザとお姫様。
クレハに至っても目を見開いている。
「クレハ、今のがフォルタニアの言ってた魔族か?」
と、俺は今さっきの〝悪魔姿〟が、以前にギルドの副ギルドマスターである──フォルタニアの言っていた〝魔族〟なのかを、今更ながら確認する。
〝魔族〟──魔王の配下や眷族みたいな者で、聞いた話だと魔族もかなり強い力を持っているらしい。
「ええ、そいつは〝魔王イヴリス〟の配下の魔族──魔族アルケラよ! き、気をつけて!」
俺の質問に答えたのはクレハでは無く、如何にも高そうなドレス姿の薄いピンクの長い髪のお姫様だ。半泣きで必死に、大怪我を負ったメイド服のイルザに治癒魔法を使いながら、俺の質問に答えている。
『魔王イヴリスの配下の魔族』……てことは、魔族によって仕える魔王は違うのか? そんな事を考えながら、俺はそのドレスのお姫様に『メイドの治療を代われ』と、言おうとするが……
ビュン! と、飛び出し、俺は無視で、俺の横を通り、イルザとお姫様、そしてクレハに向かおうとするアルケラを俺は──この先を通さない、通させない。
ダラダラと頭から血を流し、先程までは人型だったアルケラの右腕が、蠍の手のような形に変化し、攻撃を仕掛けてくる。
俺とアルケラのすれ違い様、刹那の瞬間に、俺は〝アイテムストレージ〟から剣──〝月夜〟を取り出し、剣を横にする形で、アルケラの攻撃を切っ先からガキンッと、止める。
「──ッ!? 何なんだ! てめぇはッ!」
脳天を蹴られ、変形までして繰り出した攻撃を止められたアルケラが俺を睨んでくる。
「やっと気を向けてくれたな? 脳天に踵落としをしたのにスルーされたのは初めてだぞ」
エメレアでも、ここまでのスルーはしないだろう。
「それにしても、魔族ってのは随分と頑丈だな? こんなに早く起き上がって来るとは思わなかった」
ヒュドラの〝変異種〟よりも普通に堅い。
「てめぇ、誰に物言ってんだ?」
ドカン! と、更に蠍腕で攻撃をして来るが、その前に俺は地面を蹴り、攻撃を避ける。
「こんなダメージは何年振りだ……殺してやる。そうだそこの黒いの、お前の心臓も食ってやるよッ──!」
俺から少し距離を取り、頭から流れる血を手で押さえ、殺気全開でアルケラは俺を更に睨んでくる。
(心臓……確か、人類の心臓を食べる事で魔王や魔族は魔力を高められるんだったな──)
「──ユキマサ君! 〝魔族〟は強いよ! 多分、あの時のヒュドラよりも……だ、大丈夫そう……!?」
少し心配そうにクレハが俺に聞いてくる。
「ああ、直ぐに片付ける。それと悪いが、そこのメイドの治療は後回しだ。戦いながらじゃ流石に治療できねぇ、終わるまでは死なないようにしてくれ──」
このアルケラとか言う奴は、確かに強い。
最初の俺の蹴りも、半殺しぐらいにはなるかと思っていたが、ダメージはあったもの……直ぐに起き上がって、反撃までして来た。
コイツ相手には気を抜いたらダメだ。
俺は気を引き締める。
「片付けるだぁ? てめぇも、そこの女も皆殺しにして心臓食ってやるからよぉ! 大人しく殺されやがれ!」
……
…………
「お前、今何つった?」
少し遠回しに言われた『クレハを殺す』という言葉。その言葉に俺は今までに自分が感じた事の無い、ドス黒い感情が胸の中で渦を巻いた。
そして気づいたら、身体も動いていた。
「は?」
瞬間、間を詰めた俺にアルケラは目を見開く。
そして俺は先程アルケラに踵落としを喰らわせた場所に、真上から垂直蹴りを叩き込む。これはヒュドラの時もやった物だ。勿論、魔力も強めに込めてある。
同じ場所を重点に攻撃するのは、効率よく相手にダメージを与えられる。急所なら尚更だ。
本日2度目となる……
俺の脳天への攻撃を受けたアルケラは──
──ズ、ドォォンッ!!
とした音で、俺の真下にクレーターを作りながら、姿が見えなくなるぐらいまで地面に沈んで行く。
ちなみに俺は蹴りの衝撃でクレハ達に被害が及ばないように、俺は三人を〝結界魔法〟で守ってもいた。
だが、結界魔法を使ったのは初めてなので、正直に言うと……アルケラへの攻撃よりも、結界魔法の方が緊張したが──よかった、見た感じ上手くできたみたいだ。
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