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第126話 上場への賭け
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──ドォン! バン! ドガガガガン!
辺りには煩く、大きな音が鳴り響く。
だが、その煩さとは裏腹に、この場所には2人の人影しか残ってはいなかった。
一人はイシガキ。もう一人は魔族アルケラだ。
「くそ、やっぱり強ぇな……時間稼ぎで精一杯だ」
頭からも、腕や足からも血を流し、苦しそうに肩で息をするイシガキが、アルケラを睨みながら言う。
「俺を相手にここまで生き残ったんだ、誇っていいぞ」
少し笑うような声でアルケラがイシガキに喋り返す。そしてアルケラのその口には、先程までイシガキと一緒に戦っていた、仲間の兵士の心臓がある。
殺され、心臓を抉られ、喰われたのだ。
今となっては、イシガキには、その心臓が誰の物だったのかすら判別はできないが……
それでも胸の内からは強い怒りが込み上げる。
イシガキは今にもアルケラに飛びかかり、力のままに剣で切り刻んでやりたい気持ちをぐっと堪える。
──その理由は2つある。
1つは、少しでも生き延び、レヴィニア達の逃げる時間を稼ぐため。
2つは、力任せに飛び込んでも無駄だからだ。イシガキは己より、魔族アルケラが強いという事を重々承知している。
「さて、そろそろお前の心臓を喰らい、逃げた王族を追うか。この雑魚共の心臓は飽きてきたしな──」
ぺッ、と、アルケラは今まで口に含んでいた兵士の心臓を、不味いとばかりに吐き捨てる。
「クソッ!」
もうこちらに狙いを定めたのなら、仕方がない──
まだ隙を見せてくれてる間に、イシガキはアルケラへ飛びかかる!
「剣に纏った魔力も良いが、その魔力にも耐え、さらに俺の硬い体に触れても壊れない剣とは良い剣だな」
振りかざすイシガキの剣を、右手の甲で受けながして弾くアルケラは、イシガキに軽く称賛する。
「だが、お前じゃ俺には勝てねぇ!」
ドン! と、黒く渦巻く霧のようなものを腕に纏ったパンチがイシガキの胴体に直撃し、イシガキは後方へと何十mも吹き飛ばされ、大きな岩にぶつかる。
「ガハッ」
イシガキは口から血を吐き出す。
「残念だったな。心臓はいただくぞ」
ガシリと、アルケラがイシガキの心臓を掴む。
「ハァ……どうやら……ここまでみたいだな……」
バシッ──と、イシガキの心臓を掴み、後はイシガキの心臓を軽く引き抜くだけとなった、アルケラの黒く硬い腕を掴む。
「何の真似だ?」
「腕の一本も取れれば上々、道連れなら大勝利だ」
イシガキは己に残された有りっ丈の魔力を集中し、自爆の魔法を使う。
願わくば、アルケラを道連れにと──
「何だ、自爆か?」
「レヴィニア嬢ちゃん、悪いな、先に逝かせて貰うぜ──最低でも後100年ぐらいは会いにくんじゃねぇぞ」
アルケラの質問は無視して、イシガキは最後に、聞こえる筈の無いレヴィニアへのメッセージを呟く。
そしてその言葉が終わると同時に──
──ドォォォォォォォォォォォォォン!!
爆発音が響き、イシガキを中心に大爆発が起きる。
*
──爆発より約数分後。
爆炎と煙の中、イシガキが自爆をした時と同じ体制で立つアルケラの姿があった。
腕の表面が深く剥がれポタポタと血が流れている。
他に変わった事と言えば、先程掴んでいた筈のイシガキの心臓が、その手から消えていたことぐらいだ。
アルケラは特に表情を変えず、そのままの体制でボソリと呟く。
「腕一本すら持ってけなかったようだな、これぐらいの傷は直ぐに治る。だが、自分の心臓は俺に喰われる前に持っていきやがった。勝ち逃げされた気分だ」
アルケラは自身の腕を眺めると、フンッと鼻をならし、自身の背後に倒れており、爆発に巻き込まれず残っていた兵士達の死体を漁り、心臓を抜き取っては、口へと運んでいく。
死体の残っていた最後の兵士の心臓を喰らい終わる頃には、アルケラの腕の傷は殆どが回復していた。
「後は今日の王族の心臓だけだ。何処へ逃げても喰ってやるぜ。あの王族め、感謝しろよ、直ぐにあの世でさっきの白髪頭に会わせてやるからよ──」
冷たくゾッとするような笑みで、ニヤリと笑うと、アルケラはレヴィニア達の逃げた方角へと走り出す。
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