121 / 378
第120話 フルーツパラダイス
しおりを挟むすると、クレハがいる逆の方角から、俺の目の前にお椀が差し出される。
「お、おかわり……」
その声の主はエメレアだ。
「お、おう。何だ、気に入ってくれたのか?」
「…………」
だが、エメレアは無言で、手だけをこちらに向けて、早くしろとばかりの視線を俺に送ってくる。
仕方ないので、俺はエメレアに味噌汁のおかわりを装ってやり、伸ばした手に味噌汁を渡す。
すると、ビックリな事に……
「──あ、ありがとう!」
ぱぁぁ! と、普段俺には見せないような、満面な笑顔になりエメレアはご機嫌で席に着く。
そしてその後ろにはミリアが、ちゃんと並んで待っており、俺はミリアにも味噌汁のおかわりを装う。
「あ、ありがとうございます。今まで食べたこと無い味で美味しいです。後、魔力が回復して驚きました」
「それは俺のスキルが関係してるみたいだ、まだまだあるから、どんどん食べてくれ」
ミリアは嬉しそうに「はい♪」と返事をした後、お行儀よく、エメレアの隣に座る……のだが……
その時、俺の視界に入ったエメレアが……味噌汁をズズっと飲んでは、ふはぁ~♪ と幸せそうな顔をし、スプーンを使い豆腐やワカメを口に運ぶと、ご機嫌な様子で「♪」と笑う。いつもそうしてりゃいいのに。
「エメレアちゃん、よかった、気に入ったみたいだね。おにぎりを食べながら、お味噌汁を飲むとお米が口の中でほぐれて美味しいよ」
「ほんと? やってみるわ!」
クレハに勧められたエメレアは直ぐに実行に移すと「ん~♪」と、満足そうにしている。
「はぁ、これでユキマサが作った物でなければ完璧なのだけどね──悔しいけど、美味しいわ」
「おい、一言多いぞ」
まあ、正確には一文ぐらい多い気がするが、最後は『美味しい』と言ってくれたので、ここは一言という事にしておいてやろう。
「……はぁ、これでユキマサが作った物でなければ完璧なのだけどね」
そこじゃねぇよ。絶対わざとだろ? てか『はぁ』の部分から言い直しやがったぞ!
ご丁寧な……
「冗談よ。とっても美味しいわ。ご馳走さま。ユキマサ、あなた料理も出来るのね。凄いわ」
「……?」
「何でキョトン顔なのよ?」
「いや、エメレアに誉められるとはな。少しビックリしちまったんだよ」
今日は雪かなー。いや、異世界だから雨ならぬ飴、飴が降ってきたりしてな。
「食べ物を大切にする人は私は好きよ」
そうエメレアは笑った。
多分、本当はこの顔が素なんだろう。
「ところでユキマサ、この味噌汁はどうやって作るの? 怪我や魔力が回復するだとかは、さっき貴方がクレハと話してるの聞こえてたから、今その質問は置いといてあげるとして──これの普通の作り方を教えなさいよ。というか、何処の国の料理よ?」
〝──異世界の国の日本料理だ──〟
……とでも、ちょっと意地悪く返してやろうかとかも考えたが、せっかくエメレアが和食を気に入ってくれたんだ、今回は止めておこう。
それに、何だかんだでレシピまで聞いてくれるなんて、ちょっと嬉しいしな。
「まず、昆布を水に浸して出汁を取るんだ」
「……どうしたのよ、急に?」
素で返された。この世界には出汁という概念が無いみたいだからな。
「出汁って言うのは、昆布とか、後は削り節とかから旨味を抽出するんだよ。まあ、口で言っても分からないだろうから、今度直接教えてやる」
と、俺はエメレアに伝えると「よく分からないけど分かったわ。約束よ」と納得(?)してくれた。
その後も、色んな事を喋りながら食事をし、気づくと、山盛りにあった唐揚げやおにぎりは全部無くなっていた。
味噌汁や団子も綺麗に完食し、俺達は手を合わせ、皆で『ご馳走様でした』を言う。
──食器の片付けが終わると、ミリアの提案で〝食後のフルーツを取りに行こう〟という話しになり、俺達はミリアに案内され、ミリアの家の森に入る。
「こりゃ、凄いな。本当に食材の宝庫だ」
森に入ると、辺りは言葉通りフルーツの楽園だ。元いた世界から知ってる果物も、知らない果物もある。
「ミリア、これは何だ、食えるのか?」
俺は垂れた木になっている果物に指をさす。
サッカーボール程の大きさで、ハート型の形だが、網目状の線が入っており、形以外はどうみてもメロンだ。でも、メロンが木になっていて、ハート型なので、俺の知るメロンとは何かが違うのは明白だ。
「それは〝メロメロン〟ですね。甘くてとっても美味しいんですよ。少し取っていきましょう」
ミリアは慣れた手付きで数個の〝メロメロン〟を収穫して行く。
「あ、ミリア手伝うよ」
すると、収穫したメロメロンをクレハが受け取る。
「貴方、本当に無知なのね? 逆によく分からない事をよく知ってたり……クレハは何か知ってるみたいだけど、考えれば考えるほど、貴方の事が分からないわ」
そう話しかけてきたエメレアは、わりと真剣な表情で聞いてくる。だが、別に怒ってる風ではない。
「……本当に知らない物は知らない。だから、目新しくてな? つい、色々と聞いたりしちまう。悪いな」
「別に謝らなくていいけど……」
「お、これは知ってる──〝ラフランス〟だろ?」
所謂、洋梨だ。しかも、ちょうど食べ頃みたいだ。
後、形も大きさも、元いた世界の物と変わらんな。
「正解よ。というか、そんな楽しそうな顔で当たり前のこと言うんじゃないわよ、全く……調子狂うわね」
そう言いながらも、エメレアは俺が収穫したラフランスを、横で受け取る。
美味しそうだったんで、つい10個ぐらい取っちまったが、よかったかな?
「あ、ラフランス、美味しいよね」
「あ、あの、遠慮せず、本当にいっぱい好きなだけ取ってってください」
メロメロンを両手に抱えながら、ラフランスを見て微笑むクレハと、本当に遠慮しないで取ってほしいと言う様子で話すミリア。
「いいのか? 本当にいっぱい取るぞ?」
俺の〝アイテムストレージ〟に仕舞っておけば、果物も腐らないし、いざと言う時の非常食にもなる。
腐ったりしなければ、食材はいくらあっても困らないからな。しかも〝アイテムストレージ〟という、いつでも出し入れ可能な便利機能付きだ。
「はい、あと、まだいっぱい種類もあるんです。もう、バーっと、パーっと持ってってください! それに毎年そのままにしておいて、少なくない数の果物を腐らせてしまうので……だから、むしろありがたいです」
「何だそりゃ、ハハ、じゃあ、遠慮無く貰うぜ──ありがとう、ミリア、ご馳走さまです」
と、許可も下りたので、俺は言われたとおりパーっと持っていこうと思う。でも、どうしたんだ……俺が果物を持ってく事が、ミリアは凄く嬉しそうな様子だ。
すると──ちょんちょん。と、俺の服の袖を可愛く引っ張り、クレハが耳打ちで話しかかけてくる。
「何かね、ミリアなりのお礼みたいだよ。この前のヒュドラの変異種の件とか、私のおばあちゃんの病気とか、大猪のお肉の事とか、凄く感謝してるから、何かユキマサ君の力になったり、こういう果物の贈り物みたいな物を受け取って貰える事が凄く嬉しいみたい」
……そうなのか?
なら、これは断ったら逆に申し訳ないな。
俺は日本人並みには遠慮もするが、貰う時は貰う。
「そうだったのか、謎が解けた。まあ、俺がした事は別に気にしなくていいんだけどな。でも、そういう気持ちは素直に嬉しい──ありがたく貰っておくよ」
毎度思うが、何だかんだでお礼で色々と貰ったりしちまってんだよな。特にクレハに至っては、クレハの家に俺は居候までさせて貰ってる身だしな。
エルルカに貰った剣──〝月夜〟だけでも、一体金貨いくつ分になるのか知れたもんじゃない。
今度武器屋のレノンにでも、興味本意で『これ実際どれぐらいするんだ?』とでも聞いてみるかな。
46
お気に入りに追加
540
あなたにおすすめの小説

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
ReBirth 上位世界から下位世界へ
小林誉
ファンタジー
ある日帰宅途中にマンホールに落ちた男。気がつくと見知らぬ部屋に居て、世界間のシステムを名乗る声に死を告げられる。そして『あなたが落ちたのは下位世界に繋がる穴です』と説明された。この世に現れる天才奇才の一部は、今のあなたと同様に上位世界から落ちてきた者達だと。下位世界に転生できる機会を得た男に、どのような世界や環境を希望するのか質問される。男が出した答えとは――
※この小説の主人公は聖人君子ではありません。正義の味方のつもりもありません。勝つためならどんな手でも使い、売られた喧嘩は買う人物です。他人より仲間を最優先し、面倒な事が嫌いです。これはそんな、少しずるい男の物語。
1~4巻発売中です。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています

異世界に転生したら?(改)
まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。
そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。
物語はまさに、その時に起きる!
横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。
そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。
◇
5年前の作品の改稿板になります。
少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。
生暖かい目で見て下されば幸いです。

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした
コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。
クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。
召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。
理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。
ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。
これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる