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第116話 お団子屋・花選
しおりを挟む──ルスサルペの街・(現代)──
「お、見えてきたな? あれがそうか?」
ミリアの昔の話を結構長めに聞き入ってしまった。そして話が終わるなり「聖地へ行きましょう!」という、エメレアの発言により、今俺達は〝ルスサルペの街〟の、お団子屋・花選へ足を運んでいた。
どうやらエメレアにとっては、この団子屋はミリアの過去話の〝聖地〟という扱いになっているらしい。
「あ、はい、そうです」
「この街に他に何処にあんな素敵なお店があるのよ!」
ミリアは俺の質問に答えくれ、その隣を歩くエメレアは、相変わらずの返事を返してくる。
その様子を俺の隣を歩くクレハが苦笑いで見ている。なんつーか、早くも見慣れてきてしまった、この異世界での俺の日常的な光景だ。まあ嫌いじゃない。
そして店に近づくと、自然とミリアの足が速くなる。
「──いらっしゃいま……って、あら、ミリアちゃん! よく来てくれたわね! 待ってたわよ!」
ミリアが店の前に着いた辺りで、店の中から、それはそれは嬉しそうな様子の女性の声が聞こえてくる。
「えへへ、おばちゃん、ただいま! 今日は皆でお母さんのお墓参りに来たの!」
ミリアの嬉しそうな声も聞こえてくる。
その後、ミリアとエメレアに少し遅れながら、俺とクレハも店に着くと、ミリアがお団子屋のおばさんに抱えあげられ、高い高いをされている。
「早いもので、あれから──もう4年が経つのね。エメレアちゃんも、クレハちゃんも、よく来てくれたわね。いらっしゃい、いつも本当にありがとうね」
おばさんはクレハとエメレアにも、本当に嬉しそうな表情を向ける。
「「お邪魔します」」
クレハとエメレアが仲良くハモって返事をする。
「と……あら、そちらの方は、はじめましてかしら?」
お団子屋のおばさんが、クレハの隣にいる俺を何やら珍しそうに見ながら、でも優しげな表情で首を傾げる。
「はじめまして。でも、俺の方はミリアから話は沢山聞いてる。名前はユキマサだ。宜しくな、おばさん」
と、俺が軽めに挨拶を済ませると……
「あのね、ユキマサさんは、こないだ私達を助けてくれたの、命の恩人なんだ」
「え、そ、そうだったのかい!?」
ミリアが俺との出会いの経緯を凄く簡単に話し、それを聞いたおばさんは、ギョッと目を見開いて驚いている。
反応を見るに、俺の事は二の次で、ミリアが俺を命の恩人と言った事から推測される、ついこないだミリア達に、何かしらの命に関わる危険があったという事に心底驚いてる様子だ。
「それはそれは本当にお世話になりました──狭い店ですが、よければ是非ゆっくりしていってください」
深々とおばさんが俺に頭を下げてくる。
「申し遅れましたが、私はこの団子屋の女将をしております──ウララと申します。ミリアちゃん達共々、以後よろしくお願いします」
次に自己紹介をされる。
ちなみに〝ステータス画面〟の提示は無い。
あれは、基本的に冒険者や騎士等、何かしらの戦闘行為が含まれる職種の者達の間で、名刺代わりに提示する事が多いみたいだ。
まあ、飲食店でイチイチ客にそんな事をしていても、手間だろうからな。
〝大都市エルクステン〟の料理屋──〝ハラゴシラエ〟でも、そこの女将さん達や、給仕のアトラも特に〝ステータス画面〟の提示は無かったし。
(てか、我ながら──異世界に来てから数日で、このゲームのような、異世界のシステムにも慣れてきたものだな。まあ、まだまだ知らないことだらけだが……)
「ああ、こちらこそ。つーか、おばさんはウララって名前だったんだな……あ、いや、悪い、変な意味じゃないんだ。話は聞いてたが、名前は聞いていなくてな」
思いの外、団子屋のおばさんが意外な名前だったので、つい俺は素で少し失礼な返事をしてしまう。
「あ、うん。ユキマサ君、おばさんの名前はウララさんだよ。言われてみれば、私もおばさんの事は〝おばさん〟って、呼ばせて貰ってるし」
「ウララさんに決まってるでしょ?」
「う……私の説明不足ですいません……」
フォローしてくれるクレハと、通常運行のエメレアと、ショボンと謝るミリア。
ミリアには「これは俺のせいだから、謝らなくて大丈夫だぞ、悪いな」と声をかけておく。
すると、店の奥から……
「おお、ミリアちゃんに皆さん、よく来てくれたなぁ。さぁ、上がってってくれ、直ぐ何か用意しよう」
少し喋りに訛りのある、聞いてた話しだと、十中八九この店の店主であるだろう、白髪頭の初老の男性が現れる。
「あ、こっちは私の主人の──サンビームです」
団子屋のおばさんが、その男性に手を向け、今しがたの団子屋の店主の名前を言い、軽めに紹介をする。
「……!?」
「そうよ、サンビームさんよ」
「おじちゃん、サンビームさんだったの?」
明らかに意外そうな反応のクレハと、顔色ひとつ変えずに頷くエメレア、それと頭に〝?〟を浮かべ、少なからずの驚きの様子を見せるミリア。
……おい、待て、ミリアが知らねぇじゃねぇか!
なのに、何でエメレアが普通に知ってんだよ!?
最初は、ただ知った風にして傍観キメ込んでるだけかと思ったが……
よく考えたらコイツ……誤魔化すのとか、嘘めちゃくちゃ下手なんだよな。
……てことは、コイツ……マジで知ってたぞ!?
(……何でだよ、いや、ホントに……)
「主人はあまり名乗らないからねぇ。さあ、座っておくれ、何食べていくかい?」
軽く流すおばさんと、その後ろでは「まあな……」と少し顔を赤くし、照れている店主。
どうやら、自分の事を話すのが照れ臭いらしい。
「あ、おばちゃん──ごめんなさい。お墓参りのお供え用とお昼御飯の後に食べるお団子がほしいから、今日はお持ち帰りだけの注文でもいい?」
「ええ、勿論よ、どれぐらい必要かしら?」
「えっと、3種類のお団子を各10本ずつ下さい」
と、ミリアは、三色団子、御手洗団子、餡団子の3種類の団子を、各10本の計30本を注文する。
ミリアが注文を終えると、おばさんは「はい、ちょっと待っててね」と、注文を通しながら、温かいお茶を持ってきてくれた。
そして、よく見ると、店は結構繁盛していて、店内は半分以上席が埋まっている。
昼時という事もあり、俺達の後にもポツポツと客が入って来るので、店内の席を占領するのは少し悪いかなと、俺達は店の外にある長イスに座り、おばさんの持ってきてくれた温かいお茶を飲みながら、持ち帰りの団子を待たせて貰う。天気も良いしな。
お茶を飲みながら、あーだこーだの話をしながら団子を待っていると、またまた新たな客が店に現れる。
「──お、今日も賑やかやな? 邪魔するで、おばちゃん、いつもの頼むで!」
身長は190を越えてるだろう。細身だが、全身が鍛え練り上げられている、黒髪の見た目は20代半ば程度の何処か物憂げな雰囲気の男性だ。そして『いつもの頼むで!』と、注文を頼んでいると言う事は、この店の常連客みたいだ。
その男は注文を終えると、俺達の座る店の外にある長イスの、その隣に少し間隔を開けて置いてある、同じ種類の長イスの前に歩いてきて、一人でドカッと腰をかける。
俺はこの男から意識を離さないようにしながら……尚且つ極力、その意識している事にも、この男に気づかれ無いように、静かに警戒していた。
(……何だ、このエセ関西弁の男は……?)
どこまでも自然体に、気配を完璧なまでに消しているが──コイツは強い。
ファミレスに来たら、隣の席にサラッと〝水爆〟でも置いてあったような気分だ。
もし戦闘になれば、クレハ達を守りながらだと考えると、確実に俺も無傷では済まない。
今は敵意は無さそうだが、もし何かあれば面倒だ。
そう考えた俺も可能な限り気配を消すが……
「へぇ、少年──君、強いなぁ? 久しぶりに見たで……あ、もしかして君が〝アルカディア〟の何とか魔導士ってやつか?」
と、その男は長イスに座りながら、一瞬遅れてから俺に目を向けると、心底珍しい物を見るような眼差しで、ごく自然に俺に声をかけて来るのだった。
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