103 / 378
第102話 ミリア・ハイルデートはミリアである23
しおりを挟むミリアが泣き止み、少しだけ落ち着きを取り戻すと、ミリアは直ぐに、ミトリの遺体の行方を聞いた。
おばちゃんに話を聞くと、お母さんの遺体は、この教会の遺体安置所に運ばれているらしい。
「ミリアちゃん、まだ寝てた方が……」
すぐに動き出す私をおばちゃんが止める。
実際、頭がズキズキするし、目眩もする。
でも、私は動かなくちゃいられなかった。
「大丈夫……」
「──では、私が付き添いましょう。危ないと判断しましたら、直ぐに寝かせますからね? ミリアさんの〝魔力枯渇〟は重度ですよ。ポーションや回復魔法も、大分効きづらくなってるでしょうから」
ふらつくミリアの身体を、聖女がそっと支える。
〝魔力枯渇〟は、重度になればなるほど、ポーションや、回復魔法が効きづらくなる厄介な性質がある。
「あ、ありがとうござい……ます……」
ミリアはビクッとするが、直感で悪い人では無いと感じ、緊張しながらも、しっかりと返事を返す。
「申し遅れましたが。私は──ジューリア・クーローと申します。聖教会では、大それながら〝聖女〟とも呼ばれている者です。よろしくお願いしますね」
──ステータス──
【名前】 ジューリア・クーロー
【種族】 人間
【性別】 女
【年齢】 24
【レベル】75
聖女様が、私に〝ステータス画面〟を見せてくる。
「わ、私は、み、ミリア、ハイルデートです……」
私も聖女様に自分の〝ステータス画面〟を見せようとするが、その手を聖女様に優しく止められる。
「今は少しでも魔力を使うのは危険です。それは元気になったら、改めて見せてください」
ふわっとした優しい声の聖女様。
その言葉に、こくりと私は頷く。
そして、私とおばちゃんと聖女様は、お母さんの遺体のある──遺体安置所へと向かう。
*
「聖女様──どちらへ?」
「そちらの子は目を覚ましましたか。何よりです」
「聖女様、何か私共にできる事はありますか?」
病室を出ると、教会のシスターさん達が、聖女様に頭を下げながら話しかけて来る。
そして私はそっとおばちゃんの後ろに隠れる。
「遺体安置所に向かいます。道を開けてくださいますか?」
聖女様のその一言で、状況を察した様子のシスターさん達が「分かりました」とだけ返し、道を開ける。
「ミリアさん。こちらです──」
私はおばちゃんと一緒に聖女様の後に続く。
遺体安置所に入ると、人が一人入れるような縦長の箱が置かれている。この箱は知ってる、棺桶だ。
棺桶の箱を開けるまで、私は『お母さんじゃない、お母さんじゃない』と、最後まで願っていた。
でも、箱を開けると──
そこには紛れもない、3日前の朝よりも、もっと冷たくなって、亡くなったお母さんの姿があった。
「……うぐ……っ……ひぐ……っ……お母さん……」
ミリアは氷のように冷たくなった母親の遺体に抱き付き、嗚咽をあげる。
「腐敗の進行を防ぐ為、私の魔法で遺体を少し凍らせてあります」
ジューリアは、母の遺体に抱きつくミリアを見ながら、当たり障りの無い声で、遺体の状態を説明する。
だが、今のミリアには返事を返す余裕は無い。
その後、ミリアは、ミトリの遺体に抱きついたまま、身体中の水分が全部流れ出てしまったのではないか? と、思う程に泣いて、泣いて、泣いた。
*
ミトリの葬儀は、その日に執り行われた。
ミリアは母の遺骨を、大事そうに、悲しそうに抱き締めて家に戻り──家の隣にある、父親のトアも眠る、お墓へと遺骨を納める。
お団子屋のおばさんとジューリアも、それぞれお墓の前で手を合わせる。
「──限界ですね。これ以上は看過できません」
険しい表情で、ジューリアが言葉を発する。
いつまでも、お墓から離れようとしないミリアの身体は既に限界であった。精神的にも肉体的にも、とっくに限界を超えている。
ふるふるとミリアは首を振る。
泣き腫らした目の奥が痛い。
頭の奥もズキズキと酷く痛む。
それでも、ミリアはそこから動こうとしなかった。
「ミリアちゃん……せめて、お家に入りましょ?」
「……まだ……ダメ……泣いてるから……」
お団子屋のおばさんが、ミリアの肩に手を置き、家の中へ入るように促すが、ミリアは『泣いてるから』と言いながら、首を横に振ったまま動こうとしない。
「……泣いてるから?」
お団子屋のおばさんは、ミリアのその言葉の意図が分からず、素でミリアに聞き返す。
「ミリアさん──ごめんなさい。時間です」
そう言うと、ジューリアはミリアの首の後ろの脛椎をトンと叩き、ミリアを気絶させる。
だが、ミリアは気絶するまでの、ほんの数秒の間に──泣いてた顔を一瞬だけ優しく微笑ませ……
「……ありがとう……っ……」
そんな言葉を発し、パタリと倒れて気を失う。
「──!?」
気を失うミリアを抱き上げながら、ジューリアは少なからずの驚きの表情を見せる。
「何故、ミリアさんは、最後に笑ってたのでしょうか……」
最後のミリアの表情が、ジューリアは目に焼き付いて離れない。だが、間違っても自分に向けた言葉では無いのは分かる。
「幼いようで、大人びた、しっかりした子ですね」
ジューリアは、そう感嘆の声を漏らしながら、抱き抱えたミリアを家の中へと、そっと運ぶのだった。
55
お気に入りに追加
539
あなたにおすすめの小説
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした
服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜
大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。
目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!
そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。
まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!
魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。
ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。
剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。
しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。
休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう…
そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。
ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。
その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。
それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく……
※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。
ホットランキング最高位2位でした。
カクヨムにも別シナリオで掲載。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる