97 / 378
第96話 ミリア・ハイルデートはミリアである17
しおりを挟む──翌々日。お母さんの熱が下がり、街にある、おばちゃんのお団子屋さんに行った。
「おばさん、こんにちは」
「ミトリちゃん! よかったわ、熱も下がったみたいね、ミリアちゃんも心配してたわよ!」
「毎度の事ながら、ごめんなさい。おばさん、お見舞い品とかも本当にありがとう。とても助かったわ」
お母さんとおばちゃんが、手を取りながら話をしている。
「そんな事は何も気にしなくていいんだよ。元気になってくれたなら、私はそれでいいさね──」
二コ二コと嬉しそうに笑うおばちゃん。
「あ、あの、こんにちはございもす! ……ます!」
お昼を少し過ぎた、あまり混まない時間帯に行くようにしているが、それでも他にお客さんはいる。
タイミングを計り、お母さんに少し隠れながら、私はおばちゃんに挨拶をする──でも、まだ人が多い所ではあまり上手く言葉が出ないが、自分の事ながら、2年前の〝こんにちは〟を〝昆虫〟と間違えた時よりは、伝えたい言葉を言えた気がする。
「こんにちは! ミリアちゃん! 今日もいっ~ぱいお団子を食べてってね!」
おばちゃんが明るく返事をくれる。
「ふぁ、ひゃ、は、はい!」
そして、いつものようにお団子を頼む。
お母さんは一緒におにぎりを頼んだ。
お団子とおにぎりが来ると、お母さんと〝いただきます〟をする。
「おばさんのくれたお米で、ミリアがお粥を作ってくれたのだけど……それがとっても美味しくて。何か、今度はおにぎりが食べたくなって来ちゃったわ。家では、あまりお米は食べないのだけど、美味しいわね」
「そうかい? それは嬉しいね。また持って行くよ」
どうやら──お母さんは私の作ったお粥を、想像以上に喜んでくれてたみたいで、私も嬉しくなる。
「ありがとう。それとおばさん。また、薬草の買い取りってお願いできるかしら? 勿論、無理にとは言わないけど」
お母さんが、おばちゃんに薬草の買い取りの話をしている。おばちゃんのお団子屋ではポーションも売っていて、主な原料は家の森の薬草だ。
「むしろ、こっちから頼みたいぐらいだよ──ただ、買取値は少し高くさせてもらうわね?」
お母さんに軽くウィンクするおばちゃん。
これはレアだ。少なくとも私は初めて見た。
「そんな! いつも通りでいいわよ!」
「いいのよ。最近はお陰様で常連さんも増えたんだからね。買取値を少しぐらい上げても、屁の河童よ!」
(もぐもぐ。もぐもぐ──〝屁の河童〟ってなんだろう? 後で、お母さんに聞いてみようかな?)
お団子を頬張りながら、私は首を傾げる。
「おばさん……もしかして、気を使ってる?」
「仮にそうだとしても、お年寄りからの気使いは基本的に貰っておきなさいな?」
「……年寄りって──分かったわ、ありがとう。おばさん。早速、明日にでも持ってくるわね」
お団子を食べ終わると、私達は席を立ち、お会計をしようとする──と、言っても私は見てるだけだ。
大きくなったら、今度は私がお母さんにご馳走しよう。おばちゃんにも、おじちゃんにも、何かご馳走できるぐらい、立派になりたいけど……やっぱり将来は不安だ。でも、私はずっとあのお家で暮らすと思う。
「──ちょっと、おばさん! これ、いつもの半額じゃない! トアへのお土産も買っているのよ!」
何やら、お母さんがおばちゃんに苦情を出す。
食事代が安すぎる! と言う、中々珍しい苦情だ。
「〝ハイルデート家・割り引き〟──略して〝ハイ割〟よ。ミトリちゃん、ミリアちゃんは、家でいくら食事をしても半額よ! 異論は認めないわ!」
『じゃないと、タダにするわよ? ミトリちゃん、それこそ家を潰すつもりかしら? ふっふっふっふ!』
と、謎の脅し(?)をかけて来るおばちゃん。
「おばさん……太っ腹過ぎよ……ちゃんと、利益はあるんでしょうね? じゃないと、悪くて食べに来れないわ──ここのお団子はミリアの大好物。食べに来れなくなったらミリアが悲しむわ。いくらおばさんでも、ミリアを悲しませる事は私が許さないわよ?」
負けじとお母さん。
……何の戦いだろう?
「ちゃんと利益はあるわ。だからいつでも来なさい」
「……。ありがと、おばさん。なら、遠慮せずに、いつもよりも沢山食べるから覚悟しなさい。おじさんに『手が足りない』とか言われても知らないんだから」
勝負は──お母さんの勝ち……? 負け?
ううん。勝ち負けは無いみたい。
そんな優しい戦いだった。
*
──翌日。
薬草を売りに行き、帰って来ると、
その日から、更に厳しくなったお母さんとの特訓の日々が待っていた。
お母さんは、魔法を重点に教えてくれた。
先日、私が軽い〝魔力枯渇〟を起こしたからだ。
私の──魔法の勉学、実技は、全てこの頃から、お母さんに教わった物だ。
お母さんは、時には沢山叱り、時にはいっぱい褒めてくれた。
私は、叱られても、誉められても、
そんな時間が大好きだった。
叱られて凹む私を、特訓が終わると──必ずお母さんは『頑張ったわね。大丈夫、次はきっとできるわ』と励ましてくれた。
誉めてくれた時も、特訓が終わると──『凄いわ。今日はお祝いね。晩御飯は何が食べたい?』と優しく頭を撫でてくれた。
いっぱい汗を掻いて、いっぱい寝て。
たくさん泣いて、たくさん笑って。
いっぱい失敗して、いっぱい成功もした。
そして、たくさん走って、たくさん食べた。
そんな毎日が、あっと言う間に……
1年、2年と過ぎた。そんな、ある日──
いつものように、朝食を食べた後、体力作りの為に、湖の周りを走っていた、私が8歳の時の事だ。
ビュン!
「──ガウッ! ガウッ!」
私の真横を、猛スピードで飛びながら現れたタケシが、慌てた様子で私に何かを伝えようとする。
「タケシ!? どうしたの! ──あ、ちょっと!」
クイッと、タケシは私を口で軽く摘まみ上げると、私を自身の背中へと乗せ、タケシは家の方へ向かう。
「た、タケシ!?」
こんなタケシは初めて見た。
どうしたのだろう──
──!!
タケシの背中に乗り、家に近づいて行くと……
家の近くの森で、倒れている人影を発見する。
「お母さん!!」
お母さんだ。
森に薬草を取りに行ったお母さんが倒れている。
そのままタケシに乗りながら、私は直ぐにお母さんの元へ駆け寄る。
「お母さん! お母さん!! しっかりして!」
「……ぅ……ぅ……」
殆ど意識が無い──
いつもの発作だとしても、今回は何か変だ!
とにかく、私は直ぐにお母さんを家に運び、べッドに寝かせると〝回復魔法〟を使う──
「お母さん! お母さん!」
いつもの発作なら、高熱がある時は意識がある。
逆に意識が無く、パタリと倒れ、数日も目を覚まさない時は──熱は平熱で、呼吸も大人しく、パッと見は眠ってるかのようだが……お母さん曰く、気づくと何日も時間が過ぎてしまってる感覚らしい。
──でも、今回は熱があって、意識も無い。
まるで、いつもの発作の悪い所が同時に来てるかのようだ。
「……ゴホッ……ゴホ……グフッ……!」
今度は、お母さんが口から血を吐いてしまう。
「──お母さん!」
まずい、何かが変だ。
「お願い目を覚まして! 〝回復魔法〟!」
私は〝回復魔法〟を使い続ける。
途中、私は〝魔力回復薬〟を飲み、
間を開けず〝回復魔法〟を使う。
「……お願い……お願いだから……!」
今でも……その時、嫌に長く感じた──
時間にして、ほんの……1分、1秒が……
頭にこびりついて、私の記憶から離れてくれない。
57
お気に入りに追加
539
あなたにおすすめの小説
初期ステータスが0!かと思ったら、よく見るとΩ(オメガ)ってなってたんですけどこれは最強ってことでいいんでしょうか?
夜ふかし
ファンタジー
気がついたらよくわからない所でよくわからない死を司る神と対面した須木透(スキトオル)。
1人目は美味しいとの話につられて、ある世界の初転生者となることに。
転生先で期待して初期ステータスを確認すると0!
かと思いきや、よく見ると下が開いていたΩ(オメガ)だった。
Ωといえば、なんか強そうな気がする!
この世界での冒険の幕が開いた。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~
川原源明
ファンタジー
秋津直人、85歳。
50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。
嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。
彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。
白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。
胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。
そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。
まずは最強の称号を得よう!
地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語
※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編
※医療現場の恋物語 馴れ初め編
最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした
服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜
大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。
目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!
そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。
まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!
魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。
ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。
剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。
しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。
休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう…
そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。
ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。
その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。
それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく……
※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。
ホットランキング最高位2位でした。
カクヨムにも別シナリオで掲載。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる