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第91話 ミリア・ハイルデートはミリアである12
しおりを挟む──6年前・大都市エルクステン
ギルドマスター室──
「フォルタニアさん、誰かの心臓の見分けってつきますか?」
ギルドマスター室にて、せっせと書類整理をこなすフォルタニアにロキは唐突に質問をする。
「急に何ですか? 少なくとも私にはできません」
予想外の質問に対し、少し書類整理の手が止まるが、直ぐにまた手を動かし始める。
「先日の〝魔王信仰〟の件。私が心臓の入った壺を持ち帰った時の話です。正確には、あれは魔王信仰の者を倒した方から任された物なのですが。その時、その魔王信仰を倒した方が5つの心臓を持ち帰りました」
ロキの話を、フォルタニアは作業を続けながら、何だかんだでしっかりと聞いている。ロキが魔王信仰を倒し、心臓の入った壺を持ち帰る事は以前もあったが、今回は何か気になる部分があったらしい。
「少し調べた所。ある冒険者パーティーの5名が、先日の〝魔王信仰〟の件で亡くなっています。そのパーティーは〝魔王信仰〟を倒した方の、旦那さんが所属しておりました。そしてその旦那さんは残念ながら先の件で亡くなっています」
「数と辻褄が合うという事ですか?」
「はい。もしそれを意図して持ち帰ったとしたら、彼女には心臓の見分けがついたのではと思いましてね」
「……だとしたら、相当の実力者ですね。ロキ、それでその話しに何の意味があるのですか?」
話の趣旨が見えないロキの話しに、痺れを切らしたフォルタニアが、率直に話の意図を聞き返す。
「いえ、深い意味はありませんが〝昨年の魔王戦争〟で〝魔王ユガリガ〟率いる魔王軍を相手に多大なる犠牲を伴い、幸運にも、何とか4人の魔王の1人を討ち取りましたが……ですが、人類が受けた被害はあまりにも大きかった──」
いつも通りの胡散臭い話し方だが、ロキは天井を仰ぎ、少し疲れた様子で話を続ける。
「国が6つと、それにあの〝中央連合王国アルカディア〟の八魔導士からも死者が出て、このギルドの第8隊長や各隊からも戦死者を出し、各国の兵士や冒険者や国民の死者は最早数える気も起きません」
「同意します。そういえばロキ? 今は第8隊の隊長は、システィアさんが引き継いでくれていますが〝中央連合王国アルカディア〟の八魔導士は何故、呼び方まで変わり、今は六魔導士になっているのですか?」
フォルタニアは、平たく言えばロキに『何故、人類の中心である国の八魔導士という、人類トップクラスの戦力を補充せずに、六魔導士と呼び名まで変えて、そのままの人数で存続させているのか?』と訪ねる。
「そこが難しいところでして……魔王戦争後のアルカディアでの会議には、私も出席しましたが〝王国魔導士団〟に関してだけは、抜けたから補充するみたいな事は避けると言う意見で一致してしまったんです〝王国魔導士団〟は強さは勿論ですが、内面も重視されますから、そう易々と後釜は見つかりませんね──簡単に言ってしまえば量より質と言うことです」
中央連合王国アルカディアの少数精鋭特殊部隊。
──○人の王国魔導士団。通称・○魔導士。
人類のトップクラスの実力者集団にして、
対する残り3つの魔王軍相手の人類最後の砦。
この部隊だけは、一定の強さや、人柄をクリアしなければ入ることは許されない。
それ故の強さと信頼度を誇るからこその、少数精鋭部隊なのだ。
「それに八魔導士だから八人いるのでは無く、その名に相応しい方々が八人いたから八魔導士なんです。呼び方なんて人数によっては、二魔導士でも百魔導士でもいくらでも変わりますよ?」
相応しい人物がいればその分いくらでも増えるし、逆に言えば、相応しい者がいなければ壊滅もあり得るという──結構シビアな部隊でもある。
「なるほど。現にアルカディアの〝王国魔導士団〟は人類からの支持は高いですね──となると、候補は大分狭まります。それに残念ながら、二つ名持ちの冒険者の方達も、先の戦いでおよそ半数が亡くなっています」
そのフォルタニアの視線の先には──冒険者登録の際に、冒険者達の血判を押して貰ってある、魔力を帯びた〝特殊な紙〟がある。
これは血判を押した者が亡くなると、薄茶色のこの紙全部が赤く染め上がるという、一種の安否確認の為に用られる魔道具である。
そして、そこに束になって置かれているその紙は、その一枚一枚がどれもが赤く染まっていた。
「ええ。ですから〝剣斎〟エルルカ・アーレヤスト様を最後に〝王国魔導士団〟は新たな人員は配置されていません──」
「〝剣斎〟エルルカ・アーレヤスト様。いつか私が直接お礼を申し上げなければいけない方ですね。是非とも顔を会わせる機会があればいいのですが……」
何か恩のような物ががある様子のフォルタニアだが──どちらかと言うと、そわそわした様子で、その顔は憧れのスターにでも会いたいみたいな表情だ。
「そうですね。ちょくちょくは〝エルクステン〟を訪れてるので、いつか会える時が来ると思いますよ」
優しく微笑むロキ。そして、フォルタニアは小さな声で「……はい」と少し恥ずかしそうに返事を返す。
「そ、それでロキ。その〝ルスサルペの街〟の付近で魔王信仰を討伐した方は、実力的には王国魔導士団への推薦等はどうなのですか? あの数の魔王信仰を軽々と倒すとなると、かなりの実力者で、聞いた話しからすると内面も問題ない方なのでは?」
「そうですね。実力的には問題ないでしょうが、本人がそれを望まないでしょう。それに彼女には、他に守るべきものがあるように見えました」
「そうですか……本人が望まない。そういった問題もあるのですね」
「ええ。ですが、時折見かけますね。急に現れる実力者達を。今回の彼女や、先の白獅子もその1人です。そんな方達が力を貸してくれればいいのですが……」
ロキは少し口籠った後に、改めて力強く口を開く。
「いえ、これからはそういった、今現在では人類の戦力に計算されていない大戦力。それこそ、お伽噺などにある──勇者のような方が現れない限り、このままでは、人類は近い未来に滅びると私は考えています」
ロキは一瞬だけ、とても険しい表情を見せる。
「ロキ……」
いつも胡散臭い笑顔では無く、真剣な表情で『このままでは人類は近い未来に滅びる』と言う、ロキの言葉に、何か励ませるように返せる言葉を、今のフォルタニアは、残念ながら持ち合わせていなかった──。
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