生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】

雪乃カナ

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第83話 ミリア・ハイルデートはミリアである4

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 ──今日はお母さんと魔法の特訓だ。

 私はお母さんには沢山の事を教わる。

 森で取れる食べられる食材、逆に食べてはいけない食材、文字や計算、それに魔力や魔法の使い方。

 そんな沢山の事を私はお母さんから学ぶ。

「いい? ミリア。魔法はね、同じ強さの物でも使によって効果が全然違うのよ?」
「使い方?」

「そうね。例えばでも、真っ正面から攻撃を受け止める場合だと、防げない物があったとするじゃない? そうしたらどうすればいいと思う?」

「……う、分かんない」
「少しずつ覚えていけばいいわ。私ならそう言う場合は、正面から受け止めるのではなく、に攻撃を受けて、攻撃自体をようにしているわ」

「あ、そっか! そうすれば、攻撃は消せなくても、ようにする事ができるってこと?」
「正解よ。を効かせる事は、とても大事な事なの。戦いの最中は落ち着いて状況を判断しなさい!」

「──うん! 頑張る!」

 *

 お父さんがいて、お母さんがいて、たまに街にお出かけをして、魔法や勉強をお母さんから教わって、また新しい朝が来て、昼が来て、夜が来る。そんな暮らしがいつまでも続くと思っていた。

 ──それから2年が経った。
 私が6歳のある日の事。

 ドン! ドンドンドンッ!

 いつものように、夜にお父さんの帰りを晩御飯を作って待っていると、家の扉を強く叩く音がする。
 
「おばさんね、タケシも騒がなかったし。でも、珍しいわね。また、街で怪我人でも出たのかしら?」

 お母さんが立ち上がり、扉の方へ向かう。

 私達の家に、タケシが何もせず、普通に入ってこれるのは、が下りているお団子屋のおばちゃんくらいなのだ。

 だがら、来訪者が誰なのかは、直ぐに分かった。

「──お、おばさん!? どうしたのッ!」

 扉を開けると息を荒くし、血相を変えたお団子屋のおばちゃんが居て、お母さんが慌てた声をあげる。

「トアちゃん! トアちゃんがッ!!」

 お母さんにすがるような体勢で、おばちゃんが、お母さんにお父さんの名前を何度も口にしている。

「トア!? トアがどうしたのッ!!」

 背中越しにも、お母さんの顔色がどんどんと青くなっていくのが分かる。私は、初めて見るお母さんのそんな姿から、何かがあったのだと察する。

 ──

 ────

 おばちゃんが、私には聞こえないぐらいの、小さい声でお母さんと何かを話している。

 おばちゃんの話を聞いたお母さんはハッと息を飲み「嘘よ……嘘だわ……」と崩れるように地面に膝を突いてしまい、お団子屋のおばちゃんが、慌ててお母さんの名前を呼びながら、お母さんの肩を支える。

「お、お母さん……? おばちゃん……」

 私は『どうしたの?』とまでは言葉が出なかった。本能的に私はその後に返って来るであろう返事を聞くことを、身体が拒否したのだ。

「……ミリア。こっちに来なさい」

 お母さんは私の方を振り向くと、少しだけ何かをような様子の後にゆっくりと私を呼ぶ。

 優しい声音だけど、声も体も震えている。

 言われるがままに私がお母さんに近づくと

「大丈夫、大丈夫よ。ミリア、ごめんね」

 泣きそうなお母さんが私を抱き締める。

 そして、お母さんは

「おばさん。案内してもらえる?」

 と短く、おばちゃんに話しかける。

 その言葉に対し、こくりと頷く、
 お団子屋のおばちゃんも泣きそうな顔をしている。

 おばちゃんに案内され、私はお母さんに抱っこされたままの状態で、街へと向かう。

 ──街に着くと、人だかりができている。

「おい、あれトアの嫁さんじゃねぇか……?」
「団子屋のおばさんが呼んできてくれたのか」

 人だかりの中にいる人達が、お母さんを見つけると声をあげる──私は話した事は無いけど、見たことはある。あの人達は、確かお父さんの冒険者のパーティー仲間の人だ。

「ミリア。ごめんね。少しだけ、おばさんと一緒にここで待っててくれるかしら?」

 と、お母さんが私を地面にゆっくりと下ろす。

「う……うん……」

 私が返事を返すと、お母さんは私の頭を少し撫でてから、急いで人だかりの中へと走っていく。

 *

 ──ミトリは、ミリアをおばさんに預けると、青ざめた顔でを想像し、人混みをかき分ける。

(おばさんは、けど、お願い。おばさんの見間違い、私の聞き間違いであって……!)

 人だかりの中心には、夫の冒険者仲間達がいた。

 悔し気な表情の、
 その視線の先には、数人の横たわる人影がある。

(──ッ!?)

 ──嘘ッ! 嘘だ!

 ミトリは冒険者の仲間達に囲まれ横になった、胴体と顔には布が掛けられた、自身のを発見すると、飛び付くように駆け寄る。

「──トア! トアッ! 返事をしなさい!」

 体は冷たく、脈も無い。目の瞳孔も開いている。

 ──バシャンッ!

 ミトリは持っていた、有りったけのポーションをトアに浴びせ、自身の使える、最上級の回復魔法を使う。

「目を開けなさい! 息をしなさい! ミリアが! 私が待っているのよ! 早く帰ってきなさいッ!」

 だが、トアは目を開けない。息もしない。
 そして、返事も無ければ、帰っても無い。

 ミトリはトアの鼻をつまみ、大きく口を開け、自身の口でトアの口をおおうようにし──肺に息を吹き込む。吹き込んだ息が吐き出されるのを待つと、同じ動作を2回……3回……4回と何度も繰り返す。

 この、をしている間も、ミトリは常に〝回復魔法〟をトアに使っている。

「お願い、お願いよ……目を覚まして……」

 嗚咽おえつの混じった、その声はトアには届かない。

 ここでやっとミトリはあるに気づく。

 ミトリは人工呼吸をしながら、回復魔法を使い、心肺の停止していたトアのの、その両方のを同時に試みていた。

 だが、手応えがない。

 おばさんの話しから推測すると、トアが心肺停止になってから、でも、おばさんがミトリを呼び、ミトリがこの場所に着くまでに30分が経っている。

 ──心肺停止後の蘇生。
 それは比喩ひゆでは無く、1分、1秒が非常に重要で刻々こっこくと蘇生率が下がっていく。

 トアの冒険者パーティーにも、の子がいた筈だが、その治療魔術士の姿も見られない。
 恐らくは、他に布をかけられ、そこに横たわっているどれかが、その治療魔術士の子なのだろう。

 心肺停止から最低でも30分。
 これは極めてな数字である。

 それはミトリも重々に承知している。

 だが、それでも、手応えがのである。

(まさか……)

 バッ! と、ミトリは夫の胴体に被せられていた、布を思いきり剥ぎ取り、夫のを見て驚愕する。

 夫の胸部。もう少し正確に言えば、トアのには──まるで、その場所にあった物をかのような、ポッカリとした生々しい風穴がいていた。

「嘘……でしょ……何で、何で、が無いのよッ!」
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