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第78話 ミリア湖3
しおりを挟む「──へぇ、こりゃ、爽快だな!」
今、俺は〝空竜〟の〝変異種〟であり、ミリアの友達(?)というか……ミリアの所有している、この湖──通称〝ミリア湖〟を昔から守っているらしい〝青い空竜〟に、元々乗っていた空竜ごと乗り移り、辺りを見渡している。
この〝変異種〟の青い空竜は通常の個体よりも遥かに大きい為、俺とクレハとエメレアとミリアと、今まで乗ってきた空竜2体が背中に乗っても、まだまだ余裕がある大きさだ。
それとこの〝青い空竜〟の名前はタケシらしい。
ちなみにミリア経由で許可を取り、俺は〝青い竜〟の頭の上に乗らせて貰い、空高く急上昇したタケシの頭上から周りの景色をよーく見渡す。
ぐるーっと、周辺を見ると、ちょっと先にクレハが言ってた通り──街が見える。その街は森で囲われており、その森の奥には、更に大きな森と山がある。
少し遠くに飛ぶ生物を「鳥かな?」と見ていたが、よく見たら、それは鳥では無くワイバーンだった。
(街の近くと言っても、やっぱ普通に魔物とかいるんだな……まあ、だからそういう物の対処の為にも、この世界には、騎士や冒険者が必要というわけか……)
「ユキマサ君、そろそろ降りるよー!」
と、クレハから声がかかるが、
「分かった、このまま降りてくれ!」
俺はタケシの頭の上に乗ったまま返事をする。
「え、そのまま降りるの?」
驚くクレハと、
「やっぱりバカね……」
呟くエメレア。
……おい、聞こえてるぞ?
「あのバカは、あのまま降りても別に死にはしないでしょ。ミリア、もう降りちゃって大丈夫よ?」
と、エメレアがミリアに伝えると──
「え、あ、うん。タケシ、お家までお願い!」
ミリアがタケシに行き先を告げ、タケシが「ガウ!」と返事をし〝逆V字型〟に湖に急降下すると……
──ゴオオォォォォォォ!! と、ジェットコースターとか、そんなレベルじゃない風が吹き抜ける。
そして、湖スレスレの場所まで降りると、
次はゆっくりと、湖の湖畔へとタケシは移動する。
俺はタケシに一言礼を言って、タケシの頭の上からクレハ達のいる、タケシの背中部分へと跳び移る。
「あれがミリアの家か?」
俺はタケシの頭上からだと、結構前から見えていた、湖の湖畔にポツンとある石造りの家を指さす。
「あ、はい、そうです……!」
「あれが、ミリアの家以外に何に見えるのよっ!」
俺の質問に肯定するミリアと、よく分からないイチャモンをつけてくるエメレア。そして、そんなエメレアを見て「エメレアちゃん……」とクレハが自分のおでこに手を当てながら、小さく溜め息を吐いている。
──で、まあ、そんなこんなの話をしている内に、タケシに乗ったままミリアの家の目の前に着くと……
「タケシ、ありがとう!」
ミリアが元気よくタケシにお礼を言っている。
すると、タケシは嬉しそうに「グウ!」と鳴きバサリと羽を広げて、何処かへと飛んで行く。
タケシを見送ったミリアが、トットコトーと小走りに家の方へと走って行き──家のドアの鍵を、ガチャリと開けると、俺達に『こっちだよ』と優しく手招きをしてくる。
「ただいま……」
その声は嬉しそうとも、懐かしそうとも、寂しそうとも聞こえる。でも、恐らく、今の『ただいま』の4文字には、そんな色々な感情が、混ざりあった言葉なんだと、ひしひしと伝わってくる。
ミリアに続き……
「お邪魔します」
「お邪魔します」
「お邪魔します……」
クレハ、エメレア、俺の順番でミリアの家に入る。
言い方は悪いかも知れないが、思いの外ミリアの家は綺麗だった。住む人が居なくなった後も、こうして定期的に訪れて手入れをしているからだろう。
それこそ〝今日からここに住みます!〟ってなっても、そのまま余裕で住めるぐらいには綺麗だ。
そしていつの間にか、クレハは何処からか台拭きを取り出して来てテーブルをせっせと拭いており──
クレハがテーブルを拭き終わると、皆それぞれリュック等の荷物をテーブルに置く。
「──じゃあ、まず、お家のお掃除からだね!」
という、クレハの言葉にエメレアもミリアも「そうね」とか「うん。よろしくお願いします」といつもの事みたいな感じで返している。
俺も、雑巾がけぐらいは手伝うか。
──と、考えていたのだが……
がさごそ、がさごそ……と、リュックから、クレハとエメレアとミリアが〝浄化の結晶〟を取り出す。
あ、これ〝魔道具〟じゃん。
……洗濯とか数秒で終わるやつ。
テキパキと3人は〝浄化の結晶〟を発動し、床や壁や台所等の、汚れや埃を、瞬く間に掃除行く。
──そして、約3分程度で清掃が終了する。
改めて家の中を見渡すと〝清掃業者でも呼んだのか?〟ってぐらいに、元々綺麗だった家の中が更にピカピカに綺麗になっている。
(てか、俺、マジで見てただけだな……)
──バリバリ、ガッシャーン!
清掃を終えた瞬間、エメレアの〝浄化の結晶〟にゲームのようなラグが走り、文字通り消えて無くなる。
(クレハから聞いていた通り、本当に消えたな)
それにこれは魔物とかと一緒の消え方だ。
これはちょうど……今の清掃を終えたタイミングで〝浄化の結晶〟の中の魔力が尽きたのだ。
だから消えたのである。環境にも優しいな。
「エメレアちゃん、予備はある?」
エメレアの〝浄化の結晶〟が魔力が尽き、消えた事を、クレハが少し気にした様子で話しかける。
「ええ、大丈夫よ」
と、新しい〝浄化の結晶〟をリュックから取り出し〝心配ご無用〟といった感じのエメレア。それを聞いてクレハは「そっか、なら良かった」と微笑む。
その様子を、椅子に座るミリアが、足をブラブラとさせながら、嬉しそうに──でも、何処か寂し気な雰囲気で、じっと眺めている。
「……」
そんなミリアを俺は無言で見ていると……
「……ユキマサ。よければ浄化してあげましょうか? ちょうど今新しい〝浄化の結晶〟を卸した所なのよ」
二コやかなスマイルで、額に青筋を立てたエメレアが、俺を遠回しにゴミ扱いしながら話かけてくる。
「何だ? 服の洗濯なら、今朝クレハにして貰ったから間に合ってるぞ?」
と、俺はすっとぼけてみたのだが、
「……クレハと同棲して……毎日クレハの手料理を食べて……その上……服の洗濯までして貰うなんて……何て羨ましい……」
顔を下に向けて……ふるふる……ふるふる…とエメレアが身体を震わせている……恐らくは嫉妬の怒りで。
(やべ、火に油注いじまった……)
「《空は翳り・地に蠢く・深淵よ・穿》!?」
「ちょ、ダメだってば! ストーップ!」
──ヒュン! パッ!
と〝空間移動〟で現れたクレハが、魔法の詠唱を唱え始めたエメレアの口を必死に塞ぐ。
「え、エメレア、お家が壊れると私も困る……」
そして、切実なミリアの言葉がエメレアの胸にグサリと突き刺さる……これは効果は抜群のようだ。
自分の行動のせいで、ミリアを『本当に困る』といった、本気で困った表情に変えてしまったエメレアは、罪悪感と精神的ダメージに耐えきれず「ガハッ」と断末魔を上げて、その場に倒れ込むのだった──。
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