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第75話 故郷へ
しおりを挟む俺はクレハと空竜に乗り、空竜が〝エルクステン〟の大都市を、一望できるぐらいの高さまで上昇すると、周りの景色を見ながら改めて、自身の気分が高揚しているのをひしひしと感じていた。
──空だ、空を飛んでいる!
それに竜に乗って飛ぶのがまた良いよな!
まあ、空竜は、蛇みたいな長い竜では無く、羽の生えた恐竜みたいな竜だが……それでも竜は竜だ……!
「あれは何であんなに嬉しそうなのよ……」
「ユキマサさん、楽しそうだね!」
呆れた様子のエメレアと、反対に嬉しそうな声で俺を見て笑っているミリアの声が聞こえる。
「──失礼します。外出でしょうか? でしたら〝ステータス画面〟の表示を……って、クレハさん?」
俺は、いざ、出発! ……と、思っていたら、空からバサリと現れた、手に何らかの本を持った〝鳥人族〟の騎士に話しかけられる。
「あ、ご苦労様です。フィオレさん。ミリアの故郷の隣街の方まで出掛けてきます」
クレハに話しかけて来たのは、第3騎士隊の緑髪ショートの──フィオレ・フローリアだ。俺も昨日の〝魔王信仰〟の件の時に会っている。
「そうでしたか。騎士隊のクレハさんは顔パスで大丈夫ですが……すいません。規則なので、ユキマサさんは〝ステータス画面〟の表示をお願いできますか?」
申し訳なさそうな様子のフィオレが、クレハと空竜に乗る、俺の顔を除き込みながら話しかけて来る。
「分かった」
特に断る理由も無かったので、俺は普通に〝ステータス画面〟をフィオレに見せる。
(これは出国時のパスポート確認みたいな物か?)
あと、チラッと目に入ったんだが……
エメレアとミリアは、空竜に乗った赤茶色の鎧を着たフィオレと同じ本を持ったおっさんに何か話しかけられているが……「ギルド第8騎士隊所属のエメレア・エルラルドとミリア・ハイルデートです。外出理由は隣街までの〝お墓参り〟です。チェックはパスでいいですね?」と、エメレアが鎧のおっさんに向け、不機嫌そうに、早口で要点だけを簡潔に話している。
そして、エメレアの不機嫌の理由は簡単だ。
エメレアの前にちょこんと座るミリアが、人見知りを発症し「うみゅ……」と鎧のおっさんに、少し脅えてしまっているからだ。猿でも分かる。
早口で要点だけを伝えられた、赤茶色の鎧を着たおっさんは「あ、ああ……嬢ちゃん達、騎士だったか……道中も気をつけろよ」とエメレアのギロッとした視線に少したじろぎながら返事をしている。
(それにしても、上空で普通に話しかけられるってのも〝元いた世界〟じゃ、考えられ無い話だよな?)
「あれ? ユキマサさんの出入り記録が無いですね……?」
―ステータス―
【名前】 ユキマサ
【種族】 人間
【年齢】 16
【性別】 男
俺の〝ステータス画面〟を確認し終わると、何やら、手に持った本を確認しながらフィオレが『あ、あれ、おかしいな……?』と困った顔をしながらポコポコと本を叩いている。
……てか、そんな昔のテレビみたいな直し方で直る物なのか?
(それに、あの本は普通の本じゃないな? 魔力の気配もある。それに何か、あの本、光ってるし……)
「あ、多分〝変異種〟のヒュドラの時に、私達と一緒の竜車で来たから出入り記録が無いんだと思います」
そしてナイスなフォローのクレハ。
……まあ、実際そうだしな?
「ああ、なるほど。そうでしたか! 分かりました。私の方で〝憲兵隊〟の方々にお話しておきます。最近は魔物も増えておりますので、道中もお気をつけください。それでは良い旅を!」
出入り審査(?)が終わると、フィオレはビシッっと敬礼をし去っていく。
「クレハー! 大丈夫ー?」
ぶんぶんとエメレアがこちらに手を振って来る。
勿論、俺の事は完全スルー。
「うん、直ぐ行くよ! ──あ、ほら、ユキマサ君、落ちないようにちゃんと掴まっててね!」
クレハが手綱を引っ張ると空竜が移動を始める。
(よし、改めて……いざ、出発だ!)
──飛び立つと、空竜はそこそこの速度だ。
俺は、このスピードにしては、比較的に穏やかで心地よい風だな? と、思ってたらクレハが〝魔法〟で風圧を調整していたらしく「風加減どう? 強くしたり、無くしたりしたくなったら言ってね!」と、タクシーのエアコン調整ぐらいのノリで聞いてくる。
「あ、ああ、ありがとう。ちょうどいいよ……って、高度下げるのか?」
〝大都市エルクステン〟を出ると、ずっと同じ高さで空を進むのではなく──少し進んだ辺りで、先を進むエメレアとミリアが、急降下し、辺りの森の木の高さより、少し高いぐらいの高さまで下がる。
ミリアとエメレアの後を追って、低飛行で森の上を進むと、森の切れ目を境に、綺麗な渓谷に出る。
次にミリアとエメレアは〝地元かよ?〟ってぐらいの慣れた手付きで、更に高度を下げて渓谷に入り、枝分かれする川の流れる、狭い谷と谷の間のスレスレを空竜に乗り、その渓谷をぐるりと素早く進んで行く。
「この道が一番近道で、しかも魔物も少ないんだ。あと暑い日とかは〝風圧操作の魔法〟を薄くして走ると、ここら辺は涼しくて気持ちいいんだよ?」
「そりゃ確かに気持ち良さそうだな? ──ちなみにミリアの故郷まではどれぐらいなんだ?」
「このまま行けば15分ぐらいで着くかな?」
意外に近いんだな? まあ、それなりにスピードは出てるし、何より空を飛んでる。それに空には信号や渋滞なんて野暮な物も無いからな。
まあ、もう少しのんびり行くのかと思っていたが、思いの外、スピーディーだな?
クレハ達は平然としてるが〝元の世界〟だったら、絶叫マシン並みのアップダウンとかあるぞ……これ?
勿論、俺はこれはこれで楽しいが──
渓谷の景色も良いし、竜にも乗れるしな!
そして俺達は、そのまま、アップダウンや枝分かれする渓谷の道の移動を繰り返し、目的地へと進む。
空竜に乗り、クレハと会話をしながら、渓谷の風景や、川からの冷気を帯びた涼しげな天然のクーラーのような心地の良い風を堪能しているとクレハに……
「あ、ここ抜けたらすぐだよ!」
と、言われて気づくと、
あっという間に時間が過ぎていた。
(てか、早いな、もう15分たったのか?)
渓谷を抜けると大きく開けた場所へと出る。
そしてそこには綺麗な湖が広がっていた!
「は、湖!? ここがミリアの故郷なのか?」
今さっきまで、俺達の下に流れていた筈の、渓谷に流れていたいた川は滝となり、この湖へと、どんどんと流れ込んでいく。
「うん。ここがミリアの故郷だよ!」
「えーと、ミリアは山育ち……いや、湖育ちなのか?」
まあ、ここも山の中って言えば山の中か……
「そんな感じになるのかな……? あ、でもここから空竜で5分ぐらいの場所に街があるよ! まあ、流石に〝エルクステン〟と比べると大分小さめだけどね」
近くに街があるのか……エメレアは〝エルクステン〟を出る時、門番だか空番だかは知らないが、赤茶色の鎧のおっさんに『隣街に行く』って言ってたしな。
「……ん? でも、ここが故郷って事は、ミリアは、その街じゃ無くてこの湖に住んでたのか?」
「あ、うん。ここはミリアの湖だよ!」
(……? ミリアの湖?)
「えーと、ミリアの湖って事は……もしかして、この湖はミリアが所有してる湖って事か?」
「うん、そうだよ。綺麗な湖だよね♪」
クレハは湖を眺めながら「うー」っと、小さく伸びをして、俺の質問に肯定の返事をし、サラっと頷く。
マジか……!!
ミリア、異世界に湖持ってんのかよ!?
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