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第74話 借竜所
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「──じゃあ、ユキマサ君、この〝借竜所〟で〝空竜〟を借りて空からミリアの故郷まで行くよ?」
俺達は、ギルドから歩いて数分の所にある〝借竜所〟と言う場所に来ていた。
この場所には前に見た〝竜車〟を引っ張っていた恐竜みたいな生物が沢山いる。
言葉通りと言うか、何と言うか、その名の通り〝地竜〟とかを貸し出している所みたいだ。
「空竜? 今朝もチラッとそんな事を言ってたな?」
「うん。これも魔力を持った、動物だよ。あ、この子達もちゃんと〝テイム〟してあるよ」
なるほど──これは魔物では無く、動物って事は、心臓があるって事か……
昨日、クレハに教わっといて正解だったな。
「空竜、地竜、後は水竜って言う〝魔力〟を持った動物扱いの竜種は主に荷車を引いたりとか、移動手段で用られてるよ」
「水竜なんてのもいるのか?」
ここには水竜はいないみたいだが、それはここが水辺じゃないからだろうな。
「あと〝空竜〟は空を飛べる魔物が多くでる所だと、危ないから、あまり使われないけどね? でも、今日行くミリアの故郷はこの〝エルクステン〟から近くて、空を飛べる魔物もあまり出ないし、もし出たとしても、強くは無いから〝空竜〟に乗っていくよ」
クレハは〝異世界初心者〟である、俺にも分かりやすく説明してくれる。
「な、なんで、クレハはそんな説明口調なの……?」
何故そんな当たり前の事を説明しているのだろう? と言った表情でエメレアは首を傾げている。
「わ、私はこの子に乗ろうかな。よろしくね!」
ミリアは既に借りる〝空竜〟を選び〝空竜〟の頭を優しく撫でている。
「ここの〝空竜〟は2人乗りだから、2人ずつで別れて乗ってく形になるかな? その、ゆ、ユキマサ君は私と乗ってね……!」
そして、何故かクレハは『私と乗ってね』の所で少し顔を赤くしている……
「ん、ああ、よろしく頼むよ」
まあ、特に気にする事では無いか……と思い、俺は普通に返事を返す。
「く、クレハ、危険よ! この変態と同乗なんて危ないわ! ユキマサの事だから、絶対いやらしい事を成し遂げてくるに決まってるわ!」
いやらしい事を成し遂げてくるって何だよ?
(逆に功績みたいになってるぞ……内容最悪だけど)
それに何か……エメレアの中での俺への変態としての格が、日に日に上がってる気がするんだが……
「そーいや。エメレア、それで思い出したが──」
変態という言葉で、俺は昨日アトラに見せて貰った〝号外記事〟の事を思い出したので、改めて、それをエメレアに問い詰めようと口を開く。
「何よ?」
「〝号外記事〟のインタビューでは、俺の事を『黒い変態』が何たらとか喋ってくれた騎士隊員が居たらしいな? なぁ、エメレア? お前何か知らないか?」
「あっ……じゃなくて……な、な、何の事かしらぁ?」
俺は少し睨みながらエメレアの顔を見ていたが、目が合うと、エメレアはサッと素早く目を逸らす。
「『あっ……じゃなくて……』じゃねぇよ! お前、本当に惚けるの下手くそだな!」
「か、皆目見当もつかないわ……」
あ、ちょっと頑張った。
……じゃなくて、急にどんな言葉遣いだよ!
やっぱ惚けんの下手くそじゃねぇか!
「そ、それに、何で匿名なのに私だって決めつけるのよ! それにもし私だとしても、記者達が、貴方の事を、あまりにしつこくシスティアさんに聞いて来るから、システィアさんが困ってたからじゃない!」
ちゃんと、理由も添えて惚ける(?)エメレア。
「誰も匿名とは言って無いぞ? でも、後半は初耳だ」
語るに落ちるとは正にこの事だろう。
「はぁ……もういい……クレハもミリアも待ってるから早く行くぞ?」
今の話をからすると、どうやら、その記事の記者達は、システィアに俺の事をしつこく聞いていたらしいが……律儀なシスティアは、俺の事をあまり喋らないでくれていたみたいだ。
実際、システィアの記事には俺の事は『ここら辺では見たこと無い男性』とか『黒い髪でスイセン服を着ていた』みたいな、最低限の事しか書かれていなかった。
だが、あまりにもしつこく聞いてきた記者に、痺れを切らしたエメレアが……システィアの代わりに匿名で俺の事を話したようだ。
あのヒュドラの変異種を倒した所をを実際に見ていたのは、クレハとシスティアとミリアとエメレアの4人だがらな? 記者達からしてみれば、当事者の中の当事者であるエメレアは、信憑性も高く──記事の内容収集には打ってつけの人物だ。
そして、記者達は俺の話はあまり語りたがらなかったシスティアから、エメレアへと聞き先を変えた。
その結果。システィアは、しつこい記者の質問攻めから逃れられた事になる。そう考えるとエメレアはシスティアを庇ったとも言えるだろう。
エメレアはシスティア達には物凄く優しいからな。
(まあ、俺の事は色々と変態だのと言ってくれたみたいだが……それでも、まあ、そういう事なら……これに関しては、これ以上は何かを問い詰める気は無くなったな……)
「は、はあ……ちょ、ちょっと、な、何よ、急に!」
急に話を切り上げた俺に、エメレアは訝しげな表情を向け「え、もう終わり……?」と呟いている。
「──エメレア、こっち乗れるよ!」
すると、空竜に乗ったミリアがエメレアを呼ぶ。
「う、うん、分かったわ。すぐ行くわ!」
ミリアに、そんな風に呼ばれたら、エメレアはもうミリアの元へ行く選択肢しかないのだろう。
エメレアは直ぐに返事をすると「クレハに変な事したら殺すわよ?」と言い残しミリアの方へ向かう。
「じゃあ、ユキマサ君はこっちね!」
いつの間にか〝空竜〟を選び終えたらしいクレハが、俺の方に〝空竜〟と一緒に歩いて来る。
「ああ、悪いな──それと、お前もよろしくな?」
と、俺はミリアがやってたように〝空竜〟の頭を、優しく撫でてみると「グウッ!」と人懐っこい返事が返ってくる。
「あ、この子も気に入ったみたいだね。良かった。じゃあ、取り敢えず乗ってみよっか、ユキマサ君、後ろと前、どっちがいい?」
見た所は2人乗りの馬に乗る時と同じ感じだな。
「特に希望は無いからクレハに任せるよ」
「じゃあ、私が前でユキマサ君は後ろね……!」
配置も決まった所で、早速〝空竜〟に乗り込む。
(つーか、本当に飛ぶのか……これ……? いや、飛ぶだろうけどさ? 何となく実感が湧かない……)
「ユキマサ君、落ちないようにちゃんと掴まっててね!」
そう言われた俺はクレハの腰に軽く手を添える。
そして、手綱を持ったクレハが手を動かし〝空竜〟に指示を出すと──ぶわ! っとした宙に浮く感覚と共に〝空竜〟がバサリと飛翔する。
「お、飛んだな!」
「そりゃ、まあ、空竜だしね……? ユキマサ君の故郷ではこういうのも無かったの?」
慣れない〝竜に乗って空を飛ぶ〟という感覚に、気分が高揚する俺にクレハが話しかけて来る。
「飛行機とか、ヘリとか、空を飛ぶ乗り物はあったが……鉄の塊の中に入って、ガスの噴出やプロペラの回転で飛ぶ感じだから、勝手は全然違うな。少なくともこんな解放感は無かった。ましてや〝竜に乗って自由に空を飛ぶ〟何てのは──それこそ漫画やゲー……いや、本の中で何かの話だな」
俺は〝漫画やゲーム〟と言おうとしたが、言っても分からないと思うのでやめる。
「飛行機……へリ……? あ、本は私も好きだよ!」
勿論、クレハは飛行機やヘリと言う言葉を知らないので首を傾げている。まあ、そりゃそうだろうな。
そんな話をしながら、俺達は〝空竜〟に乗り〝異世界の空〟へと繰り出す──!
……まあ、今日の目的は墓参りなんだけどな?
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