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第70話 孤児院
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──〝大都市エルクステン〟
ドラグライト・男子孤児院前──
「ここで合ってんのか……?」
俺はクレハの家で朝食を取った後──1時間後にギルド前にクレハと待ち合わせの約束をし、その待ち合わせまでの1時間で、昨日のクシェリとの約束を果たす為〝ショタコン淑女〟こと──クシェリ・ドラグライトの運営する孤児院に来ていた。
「取り敢えず、チャイムは……無いから、ノックでいいか」
年期は入っているが、中々立派な建物の孤児院の扉を俺はノックしようとすると……
──バタン!
俺が今しがたノックしようとしてた扉が、ノックをする前に開き、孤児院の中からクシェリが出てくる。
「──ん、ユキマサか? 私に会いに来たか?」
淡々とした声だが、少しニヤリとした笑みを浮かべたクシェリが話しかけて来る。
「……そう言われればそうなんだが、約束の〝大猪の肉〟の件の話をしに来たんだよ?」
「律儀だな。で、本当に〝大猪の肉〟をくれるのか? 正直、半信半疑だったぞ?」
「何でだよ?」
(俺ってそんな信用なかったのか? いや、出会って数日だ。これぐらいが普通か……)
「いや、言い方が悪かったな。あまり期待はせずに待っていたと言った方が正しいか……私は副マスみたいに嘘が分かるわけじゃあるまいし、そんな簡単に高級食材をくれると言われて信じる方が難しい。──それにあの場で私が王女を狙ったとしても、その気になればお前なら一瞬で逃げる事も倒す事もできただろう?」
「……」
俺は押し黙る。そして俺のこの沈黙は、クシェリの言葉への肯定の意味も含めていた。
〝沈黙は是なり〟──そんな言葉を最近俺は何処かで聞いた気がする。
「俺も孤児院で育ったんだ。まあ、俺の場合は少し特殊なケースだがな? だから少しだけ情が湧いた。……この理由ならもう少しぐらいは信用して貰えるか?」
「……ッ!?」
俺のその言葉を聞いたクシェリの目が、少しだけ見開かれる。
それに〝情が湧いた〟──これは俺の本心だ。この〝異世界〟に来てからと言うもの、やけに両親の事や、理沙の事、昔の事、そして孤児院のチビ共の事を思い出す。
だからなのかは分からないが『美味い物を食べさせてやりたい』と言うクシェリの思いに、俺は少し手伝ってやりたいと思った。
「……すまない」
珍しくクシェリが真剣な目で謝ってくる。
「別にいいよ──話を戻すぞ? 今夜、料理屋〝ハラゴシラエ〟に行け。従業員を通じてだが、店主の許可を取って貸し切ってある。肉は俺が持ち込んでおく。調理の金も要らないらしいから金は持たずに来い」
「お前、本物のお人好しか……?」
「さあな。でも、親の教育は良い方だったかもな」
「どういう教育をすればヒュドラの〝変異種〟を単独討伐できるようになるんだ……?」
呆れた様子のクシェリが少し溜め息を吐く。
「いや、そう言う意味じゃねぇよ?」
「ふふ。冗談だ、知っている」
いつも通りの淡々とした口調で話しながら、クシェリは軽く笑う。
「あと、ここの孤児院には何人ぐらい要るんだ?」
てか、まずそれを聞くべきだったな?
これで『私の孤児院には8000人の孤児が要る!』とか言われたら、流石に店に入りきらんし肉も足らん。
まあ、でも、この建物の規模的に見て、どんなに多くても50人ぐらいだろうな──
「私の所は24人だ」
予想の半分か、人数的には余裕っぽいな。
「ちなみにだが、クシェラの所は何人ぐらいだ?」
と、俺はクシェリの兄である、クシェラの運営する小さな女の子を集めた孤児院の人数も聞いてみる。
「愚兄の所は31人だった筈だ」
そっちのが多いのか……
まあ、この人数なら行けそうだな?
「クシェラの方の子達も招待したいんだが良いか?」
元々、俺はそのつもりでいた。人数が多ければ後日という形になったかもだが、あの店なら最低でも70人ぐらいまでなら席があった筈だ。
「私は構わんが、お前はいいのか?」
「肉は持ち込みだしな? それにお前には悪いが〝アーデルハイト王国〟の行方不明の王女の懸賞金とやらも……昨日、ジャンから俺が受け取っちまってる。だから、最悪人数が多いからの理由とかで後々『やっぱり調理代を』ぐらいの請求なら来ても問題ない」
「そうか……それに王女の件は、元々最初に見つけて保護したのはお前だろう? 私を気にすることは無い」
保護というか何と言うか……
それにアリスがキラキラした目で〝激辛スープ〟を見てたから、奢ってやったら、周りの奴等に保護どころか『幼女虐待じゃないか!?』とか騒がれたぞ?
あと、アリスの依頼とはいえ……王女を探し回ってた〝千撃〟から逃げたり、昼間だってのにアリスを探しに来た〝吸血鬼〟とドンパチやったりしてたからな……
(そう考えると……俺、懸賞金もらう資格無くないか? 流石に返せとは言われないだろうけどさ)
「それに、愚兄の孤児院ならすぐ隣だから直接会って話すと良い。多分喜ぶだろう。あれは何か知らんが、お前の事を大層気に入っているみたいだからな?」
──は? 隣なのかよッ!?
よく見ると確かに同じような建物が直ぐ隣にある。
道理で、クシェラの孤児院の〝モフっ子幼女〟こと──ココットがクシェリにも懐いてるわけだな。
……超近所じゃん。てか、敷地、一緒じゃね?
会えば喧嘩ばかりらしいが、お前ら仲良いだろ?
「分かった、行ってみるよ。夜は俺は顔出さないと思うけど、店の人によろしく言って置いてくれ」
「分かった。伝えておく」
「ああ、それじゃあな」
と、俺はその場を後にしようと身を翻すが……
「ユキマサ!」
不意にクシェリに名前を呼ばれ、俺が振り返ると
「ありがとう。感謝する──」
優しい笑みでクシェリに礼を言われる。
「どういたしまして」
俺は短く返事を返して、クシェリの孤児院を後にし、隣のクシェラの孤児院へ向かう──。
*
クシェリの孤児院から、クシェラの孤児院までは1分もかからなかった。まあ隣だしな?
こちらも作りは一緒で、年期は入っているが、中々の建物だ。そして、こちらもチャイムは無いので、俺は扉をノックしようとすると……
──バタン!
と、またもや俺がノックをする前に扉が開かれる。
タイミングが良いと言うか何と言うか……
(……俺、ノック下手なのかな?)
そしてタイミング良く扉を開け放ち、出てきたのはクシェラ……では無く……知らない顔だ。
しかも幼女でも無い……見た感じは、俺と同じぐらいの10代半ば~10代後半といった年齢の、茶髪のボブカットで、可愛らしい感じの〝人間〟の少女だ。
そして、その少女は俺と目が合うや否や、大きく目を見開き──何故か、驚愕の表情を浮かべる。
(俺なんかしたか? 初対面の筈なんだが……)
でも、このまま見つめ合ってても仕方ないので……
取り敢えず、俺はクシェラを呼んで貰おうと思い、その少女に軽く自己紹介をしながら話しかける。
「悪いな。俺は──」
──パタン。
だが、俺は自己紹介だとか以前に……話の途中、言葉を遮られる形で、その少女に然も何事も無かったかのように、無言で扉を閉められてしまうのだった──。
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