69 / 378
第68話 浄化の結晶
しおりを挟むつんつん。
左半身に温かくて凄く柔らかな感覚がある。
それと、朝っぱらから鼻孔を刺激する女の子特有のとてもいい匂い──そして、頬を指でつつかれるという……あまり記憶に無い感覚と共に俺は目を覚ます。
「んっ……ん……?」
「あ、起きた? ユキマサ君、おはよう」
朝から元気なクレハが俺に挨拶する。
「ああ、おはよう……お休み……」
朝が苦手な俺は、ボーっとする頭で、無意識にクレハを更に抱き締めながら──甘美なる二度寝に入る。
「──/// ちょ、ちょっと、ユキマサ君、お、起きて!」
じたばたとするクレハだが、その動きのわりには、手足にあまり力を込めてる感じは無い。
つんつん……
「……」
つんつん……つんつん……
「…………」
つんつん……つんつん……つんつん……
「……わ、分かった、起きる、起きるよ?」
四度に渡る、左頬への優しい襲撃を受け──どうやら……これ以上は睡眠を取らしては貰えそうに無い俺は、しぶしぶながら起床を決意する。
「もー、おはよう。ユキマサ君、朝苦手だよね?」
「……お、よく分かったな?」
「後、やっと、寝惚けてるのも直ってきたみたいだね……」
──そして、漸く俺は今の自身の体勢に気づく。
これは、もう誰がどう見ても……俺がクレハを、両手で思いっきり抱き締めてしまっている状態だ。
そして毎度の如く、クレハの柔らかい部分が、互いの服の上からながらも、余すこと無く触れる形になってしまっている。
「──!? わ、悪い……」
今日も俺は朝から、寝る時の癖というか……寝相の悪さを炸裂させ、慌てて離れながらクレハに謝る。
(てか、俺、この異世界に来てから……毎日、同じ台詞で、1日1回はクレハに謝ってないか……?)
「べ、別に、ユキマサ君なら……いいんだけどさ……///」
顔を赤くしたクレハは、ベッドから上体を起こしつつ、少し乱れた服を軽く直す。
「……てか、いつもより起きるの早くないか?」
「あ、うん。今日はお弁当も作らなきゃだから、早めに起きたかったんだ」
(弁当か……何か、クレハと初めてあった時のおにぎりの事を思い出すな……)
「弁当って事は、どっか出掛けるのか?」
あ、まあ、普通にお弁当持ちの可能性もあるが。
「うん。今日はミリアのお母さんのお墓参りの日なんだ──」
*
クレハの部屋から一足先に部屋を出た俺は、例の如く──〝アイテムストレージ〟を応用した早着替えで、寝巻きから私服に一瞬で着替える。
ちなみに、クレハは部屋でお着替え中である。
すると、朝から元気な声が聞こえてくる。
「──おはよう。ユキマサさん、よく眠れたかい?」
「ああ、おはよう。婆さんも早起きだな? クレハには、今日はミリアの母さんの墓参りだと聞いてるが、婆さんも行くのか?」
すっかり病気も治り、元気なクレハの婆さんに俺は挨拶を返しながら、そんな質問をする。
「あたしは今日はギルドに少し呼ばれていてね。そっちに行かなきゃならないのよ……ごめんなさいね」
本当に申し訳なさそうに婆さんは謝ってくる。
「いや、謝る必要は無いんだが。それにギルドに呼ばれてる? 確か、昔ギルドで教官をやってたとか聞いたが、復帰でもするのか?」
何年前の話しかは知らないが、クレハの婆さんは元騎士で、騎士を引退した後は、ギルドの騎士の養成所で教官をしていたと聞いている。
そこでシスティアもクレハの婆さんに色々と教わったりもしたらしい。
「ええ、まだ分からないけど、そんな感じの話かしらね? 軽くリーゼスにも頼まれてしまったからねぇ」
リーゼスと言うと……あの色黒の爺さん──ギルドの〝第2騎士隊長〟リーゼス・ロックの事か?
婆さんの歳は知らないが、見た感じは歳も近いだろうし、それに婆さん元騎士隊にいたのだから、その2人に面識があっても何も不思議じゃ無いだろう。
「──あ、お婆ちゃん、起きてたんだ、おはよう!」
そんな話を、婆さんとしてる間に、着替えを終えたクレハが部屋から出てくる。
「ええ、おはよう。クレハ」
優しい顔で婆さんはクレハに挨拶を返す。
「あ、それと、ユキマサ君、パジャマ出してくれる? すぐに洗濯しちゃうから!」
その手には、この〝異世界〟の生活必需品の何種類かある〝ウィータクリュスタル〟という〝魔道具〟の1つである──菱形の形をした、小さめのペットボトル程度のサイズの緑色の結晶──〝浄化の結晶〟を持ったクレハに『洗濯物を出して』と言われる。
「あ、ああ……でも、これも自分でやるぞ?」
「もぉ、それぐらいは私がやるから早く出して」
俺は、そんなクレハのお言葉に甘え〝アイテムストレージ〟から、寝巻きを取り出し、クレハに渡す。
それを受け取ったクレハは──〝浄化の結晶〟に軽く魔力を込め、それを発動させると……薄っすらとした黄緑色の光が、俺の寝巻きを包み込む。
──そして待つこと、数秒……
「はい、洗濯完了!」
と、クレハが俺の寝巻きを返してくる。
なんと、これで、この異世界の洗濯は完了なのだ。
最初に見た時は俺も驚いたが、この〝浄化の結晶〟を使えば、このほんの数秒で……洗浄、殺菌、消臭等の洗濯の行程が全て完了するのである。
それに聞いた話だと──例え、真っ白な洋服を小一時間ほど醤油に漬け込んだ、真っ黒な〝洋服の醤油漬け〟なる物があったとしても、この〝浄化の結晶〟を使えば、ほんの数秒で、汚れや匂いも完璧に取れて、元通りの白い服に戻るらしい。
それに水も使わないので、乾かす手間も無く、本当に数秒で洗濯が終わる。
〝元いた世界〟だと、よく母さんや理沙が悩んでいた──雨の日だとか、服に付いた染みが取れないだとかの、家事あるあるの悩みは、この〝異世界〟では、この緑色の結晶1つあれば、全てが解決なのである。
あと、糞や尿と言った排泄物も、数瞬で浄化されて消えるので〝異世界〟のトイレとかでも、これが使われている。
洋風の便器の中に〝浄化の結晶〟と〝火の結晶〟が置かれており、使用する前に〝浄化の結晶〟を発動し、用を足すというシンプルな仕組みだ。
ちなみに、火の結晶はトイレの際に使用した、紙等を燃やす用で使う。
勿論、無限に使えるわけでは無く〝浄化の結晶〟は、1つで約Tシャツ1000枚分、トイレだと約500回程度を使うと──結晶自体の魔力が無くなり〝魔物〟とかみたいに、ラグが走って消えて無くなってしまうらしい。
だが、それでも十分以上に便利な品物だ。
……流石は魔法の世界だな。特に〝浄化の結晶〟は、理沙が聞いたら『何これ、欲しい!』とか言って目をキラキラと輝かせる事だろう。
「ありがとう」
「うん、どういたしまして……///」
クレハは毎日、俺の〝寝巻き〟と、今着ているアルテナに貰った〝和服〟を今みたいに洗濯してくれるのだが……洗濯した服を渡してくれる時に、クレハはいつもほんのりと顔を赤らめて、何処か嬉しそうな様子で渡してくるのは何故だろう……世話好きなのか?
「あらあら、仲良しさんだねぇ~」
それを見た婆さんが『ふふ』と楽しそうに笑っていて、それを聞いたクレハが「お、お婆ちゃん!」と更に顔を赤くしながら、優しく抗議するのだった──。
106
お気に入りに追加
539
あなたにおすすめの小説
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした
服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜
大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。
目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!
そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。
まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!
魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。
ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。
剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。
しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。
休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう…
そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。
ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。
その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。
それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく……
※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。
ホットランキング最高位2位でした。
カクヨムにも別シナリオで掲載。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる